文字数 792文字

「参加券を買いに行かねばならないよ」
 タップマン卿は言った。
「割り勘は性分じゃなくてね。コインを投げてどちらが2人分払うか決めましょうぜ」
 ジングルが提案した。
「僕が予想しますから、まずはコインを投げてください。ーー女、女、綺麗な女に会えると良いなぁ」
 国王の意匠が下に、竜の意匠(この場では特例として雌とみなされた)が上になった。

 タップマン卿はベルを鳴らして参加券を購入し、寝室に持っていく蝋燭台をもらった。 それから15分たらずののち、ジングルは完璧にウィンクル卿の夜会服を着込んだ。
「それは真新しいジャケットだよ」
 ジングルが大きな姿見に映った自分に大いに満足している側で、タップマン卿が言った。
「一番の目玉は我々のクラブのボタンだ」
 中央にピクウィック卿の胸像、そしてその両脇に「P.C.」と刻印された大きな金ボタン。タップマン卿は相棒にそれをよく見るよう促した。
「P.C.」ジングルが言う「それにしても、けったいな背広ですねえ。年かさの男用みたいだ。P.C.ってのは何の略だろう。風変わりな衣装(ピキュリア・コート)ですか。なんちゃって」
 タップマン卿はこれに立腹し、クラブの象徴たる意匠についてたっぷりと説明して聞かせた。

「これじゃあ丈が寸足らずじゃありませんか」
 ジングルはチョッキのボタンを掛け、体を捻りながら鏡を見ている。チョッキは彼の背中までずり上がっていた。
「まるで郵便配達夫の制服じゃないか。けったいな服なんですよ、ありゃあ。たぶん契約で発注してまとめて作っているんだ。採寸もされないまま。神の不思議な気まぐれか、背の低い配達夫には大きく、背の高い配達夫には小さく出来てるんですよ」
 このように喋りながらも、タップマン卿の新たなる友人は彼の夜会服、もといウィンクル卿の夜会服を整え、身支度を済ませていた。それからタップマン卿を引き連れ、舞踏広間(ボール・ルーム)へ続く階段を上がっていくのだった。





 
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