ありがとう

文字数 1,056文字

 翌日。
私は約束通り、原チャリを取りに昨日のお寺まで、父さんに車で送ってもらった。
昨日は、あのあと家族でずっとおしゃべりをした。
みづきさんのこと以外も、いっぱい話ができた。
父さんや母さんの学生時代のことや、小さかった頃のこと。
もちろん私が生まれる前のことや、赤ちゃん時代の話も。
その話の合間に、みづきさんの写真も見せてもらった。
若いころの父さんと、ふたりで並んで撮った写真。
ひと言で言って“すごく綺麗”な人だった。
顔立ちも綺麗で美人なんだけどそれだけじゃなく、母さんにいわせると“凛とした”人だって。
あまりピンとこずにいたら、母さんが“花にたとえたらカラーね”と言ってくれた。
 
 はずせない会議があるからと、父さんは私を下ろして去っていった。
昨日と同じ道を歩く。
父さんは、原チャリを取るだけでいいだろうと言ってたけれど、やっぱりみづきさんに報告しておきたかったのだ。
お墓についたので、しゃがんで手を合わせる。
もう“会話”はできないけれど、いつも通りに頭の中でみづきさんに話しかけた。
(みづきさん。昨日帰ってから、父さんと母さんに説明したよ。父さんは、みづきさんと会話してたから納得してたけど、母さんが疑いもしないで納得したのには驚いちゃった。他でもない父さんが会話して“本人”と思ったのなら、間違いないでしょう、だって。あと、私は見られてたの気づかなかったんだけど、ひとりでいるのに急に笑顔になったり、むくれたりしてたことがあったらしくて。“あれは頭の中で会話してた時なのね~”って、納得したわって言われちゃったの。それから、みづきさんが私の中に入れたのは、私に父さんの血が流れているからじゃないの?って) 
 
 (ほんと、そうだよね。みづきさんという存在があったから、母さんは父さんとの結婚を決めたんだし。私はみづきさんのおかげで()まれて、()きてこれてるんだよね……大けがからも助けてもらったし。みづきさんに命をもらったようなものだよね。私、前向きだったみづきさんを見習って頑張るよ。今はまだ、はっきりした目標はないけれど。今までみたいに、最初から諦めたりしないようにする。恋も、仕事も。何かあったら、また報告に来ますね。みづきさん……ほんとにありがとう)
立ち上がってお墓に一礼してから、私は駐車場に戻った。
原チャリにキーを挿して、エンジンをかける。 
それからポータブルナビゲーションを起動させて、父さんに教たとおりに操作して現在地の登録を済ませた。
そして自宅の住所を入力して検索し、案内をスタートさせた。
 

 




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