みづきの頼み

文字数 1,059文字

 翌朝、私はいつもよりもずっと早い時間に起きた。
起きたというよりも起こされた。
『いつまで寝ているつもりだ!』
みづきさんは容赦ない大声を出した。
頭の中で、怒鳴り声が響く。
目は覚めるけど、身体が痛くて動くのがだるい。
怪我のせいじゃなく、たぶん筋肉痛。
起き上がれなくてベッドの上でごろごろしてたら、さらにどやされたので、仕方なく起き上がった。
起き上がっても、頭がはっきりしないし、ぼおっとしている。
「おはよう、ございます」
『おはよう。目覚めはどうだ?』
「なんか身体中が痛くて。頭は起きてるんですけど」
『まあ昨日、細胞をフル活動させたからな・・・怪我から復元するのに』
「それこそ細胞レベルで疲れてます~」
冗談を言ったつもりだったのに、笑ってもくれない。
 
みづきさんとの“脳内会話”には、かなり慣れてきた。
だけど、やっぱりたまには口でしゃべっちゃってて。
外出中とか、それまで黙ってたのに急にしゃべると”変な人”と取られかねないので、外出時はイヤホンをつけるようにした。
これだとBluetoothで電話しているように見えるもんね……みづきさんは不思議そうにしてたけど。
そしてわざとイヤホンが見えるように、髪をアップスタイルにした。
あと家族と過ごしてるときは、みづきさんは”話しかけない”と約束してくれた。
『おまえに頼みたいことがある』
そう、みづきさんがきりだしたのは、一週間ほどたったときだった。
脳内に同居してて、私の思考をみづきさんが“聞く"ことはできても、私にはみづきさんの思考を“知る”ことはできない。
その逆で、私の手足は私だけが動かすことができて、みづきさんが私の運動能力を乗っ取ることはできないらしい。
脳とか細胞に働きかけて怪我を治すことができたのだから、運動能力も利用できそうなものだけど、そこは違うらしい。
私もだけど、みづきさんも医者とか脳科学者ではないから、仕組みまではわからない。
“そういうもの”と思うことにした。
 
「頼みたいことって、なんですか?どこか行きたいところとか、あるんですか?」
『行きたいというか、探してほしいものがあるんだ』
「探してほしいもの?」
『ああ。ずっと探しているものがあるんだ。もう見つからないだろうと、ほぼ諦めてはいるんだが。まあ、見つけても触れないから一緒だったしな』
「でも、もし見つかった場合、私なら拾うことができる?」
『そうだ。もし、いやじゃなかったら、頼まれてくれるか?』
「いいですよ。私でよかったら、手伝います」
こうして私は、みづきさんの探し物を探すことになった。
 

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