枯木

文字数 1,014文字

 草の山を塀のかどに積んでいくと、そこそこの山ができた。
結構、草取りできたかな?と周りを見回すと、雑草が生い茂る庭がまだ広がっていた。
これを全部草取りして探すのは、ちょっと勘弁してもらいたいかも。
ふと目の端が、小山に積んである木切れをとらえた。
近寄ってみると、それは大小さまざまに切られた桜の木だった。
『もしかしてこれは、先代の桜じゃないのか』
「あ、みづきさんもそう思います?」
『枯れて切った後、ここにまとめておいたんだな』
「ですね。あ、これもついでに、さっきの草のとこに持っていきましょうか?」
『勝手に移動させていいのか?』
「うーん。あまりよくないかもだけど、あちこちに山を作るよりはいいかな?なんて」
そう言って私は、枝や幹を持って移動させ始めた。
小さい枝は数本まとめて、大きめのは一本ずつ。
ほぼすべての木切れを移動させ、下にたまった枯葉をかき集めた時、ちらっと何か光るものが見えた。
(!!もしかして?!)
集めた枯葉を丁寧にほぐしていく。
ほぐした先に見たものは。
「あ!」
『あ……』
「これ、ですよね」
『ああ』
「見つけた!!」
探していたブローチだった。
部品が無くなったりしていないか、みづきさんに確認してもらう。
あちこち汚れてはいるけれど、部品が無くなったり、壊れているような部分はないとのことだった。
 
 とりあえずブローチを胸ポケットに入れ、残りの枯葉を集めて草の上においた。
「こんなもの、かな?」
『ああ』
「よかった。ブローチが見つかって」
『そうだな。お前が枯木を移動させてくれなかったら、見つからないままだった。ありがとう』
「どういたしまして。ってなんか、こそばゆいな」
『なにがだ?』
「みづきさんが、素直なのが」
『そうか』
ブローチが見つかったので、帰る前にあの女性にお礼を言おうと思った時に、どの家に住んでいる人なのかも知らなかったことに気がついた。
いつも後ろから声を掛けられていたし、話をした後は女性はバス停の方に去って行ってたから。
「あの女の人にお礼が言いたかったんですけど、どの家の方か聞きそびれてました」
『ああ。世話になったからな。また今度、ここに来た時に礼を言ったらいい』
「また今度?」
『花見に、来るんじゃなかったのか?』
「ああ!そう。花見の時に会えたら、その時に言います。お礼」
とりあえず、門に向かって一礼し、原チャリに乗って家に帰った。
そして古い歯ブラシとタオル、それと水を入れた洗面器を持って部屋に入った。
 



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