聞き覚えがない声

文字数 1,087文字

 聞き覚えがない声に、私は横になったまま頭を左右に動かして見える範囲を確認した。
だれも、いない。
(!!!)
私って、たしか崖から落っこちてたんじゃなかったっけ?
急に思い出してガバッと飛び起きた。
自分の身体に手を当てながらあちこちさぐってみた
(たしか衝撃受けて、(いた)っと思った瞬間目の前が真っ暗になったんだけど)
どこも、痛くなかった。
見る範囲、ケガもしていないみたいだった。
ただ、Tシャツとジーンズが泥で汚れていた。
 
『ケガは、治しておいた』
さっきと同じ声が聞こえた。
上半身を起こしたおかげでさっきより見られる範囲が広がった。
左側は崖の斜面。
足元にはバッグが落ちている。
周囲は、まばらに木が生えている。
かくれられるような場所はない。
だけどぐるっと見回しても、声の主の姿はどこにもなかった。
 
「ケガは治しておいたって、あなた誰?どこにいるの?」
『わたし?わたしは、おまえの中にいる』
「私の、なか?」
『そう』
「どうやって?そんなの不可能でしょ?人が人の中に入るなんて。マンガやラノベじゃないんだから」
『でも、入ってるのは事実。それより、わたしと話すときは声は出さなくていい。おまえが考えるだけでちゃんと会話になる』
「そんなこと言ったって」
『音声の声と二重になってうるさいから、考えるだけにしろって言ってる!』
急に頭が割れるように痛む。
()っ!マジに、頭の中にいるの?)
『ああ、なんか感じたみたいだな。いまちょっと怒りの波動を解放したんだ』
なんつーことを。
 
「で、どうしてあなたが私の中にいるんですか?いったいどうやって?」
また、頭の中をどつかれてもかなわないので、声がいうとおりに“考える”だけで会話をすることにした。
『おまえ、崖から落ちただろう?』
「はい」
『で、地面にたたきつけられた。わたしが見つけたときは虫の息だったんだ』
「むしのいき?」
『あちこち骨が折れてたし。放っておいたら死んじゃうレベルだ』
「はあ(まじか??私怪我もなく生きてるけど)」
『だから、憑依(ひょうい)して治した』
「ひょうい?ヒューイルイスでなく?」
『なんでそうなる?』
見知らぬ声が呆れたような響きを帯びる。
私は正直に答えた。
「だって、ちょうどパワー・オブ・ラブ聴いてたから…ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの」
 
しばしの沈黙の後、声が聞こえた。
『憑依、というのは“のりうつり”だな』
(は???のりうつりって。なんかオカルト?というか、そんなことありえないでしょう?
私は生身だし、ここは現実だし。誰かがどこかで見張って、反応を見ながら隠れてしゃべってると考えるほうが現実的)
そう考えた途端、また頭が割れるように痛んだ。
 


 



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