第26話

文字数 550文字

「桃林病院の林と申します……あなたのお父様が……        」

「え?」





 長く続いた一瞬の、違う声は、私の気持ちを真っ青に変えた。





 今なんて言ったの?

 今なんて?

 今なんて言ったの!

 今、今、なんて……。

 なんで?なんでよ。

 お父さん、病気だったの?

 そんなの聞いてない。

 そんなの聞いてないのに!

 何で言ってくれなかったの。

 酷い事、沢山言っちゃったよ?

 これから、プレゼント、開けるんじゃないの?

 手紙……読むんじゃないの?

 私、まだ話せてない。

 一度も連絡してないよ。

 ありがとう……言ってないよ。

 どうして……。

「私の、大馬鹿、大馬鹿!」





 私は急いで家を出て走る。家を飛び出してから、景色なんて一ミリも見えないまま、ひたすら病院へと走る。

 しかし、病院に駆けつけると、父は亡き人になっていた。白いタオルをかぶって、もう動かなくなっていた。



「ねぇ、起きてよ、お父さん」

「ねぇ、起きてよ、パパァ……」

「起きてって言ってるのに……」

「いつも、寝てばかりなんだから……」



 震える声で、いくら叫んでも届かない。今日だけは、起きてもらわないといけないのに。今日だけは届いてもらわないと、いけないのに。



「バカバカバカバカ、オオバカアァァァ」



 そして、その後、お父さんの家のポストからは不在票が見つかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み