最終話

文字数 1,077文字

 お父さんが居なくなってから六年。

 今日は私の結婚式。

 私はこれから、お父さんに感謝の手紙を読む。

 壇上で皆を眺めると、鮮やかな色のついたドレスを纏った智花たちや、ビシリと男らしく決めた圭太の同級生達が白のテーブルを囲み、こちらを見つめ、座っている。

 私は白いドレスを輝かせながら、手をマイクへと伸ばす。

 そして、私は読み上げる。届かなかった手紙の言葉をひとつづつ。






「お父さんへ、最近はどう過ごしていますか?ごはん、ちゃんと食べていますか?私は元気にやっています。自分の夢へも近づきました。お父さんのおかげで。あと、今まで、怒ってばかりでごめんなさい。私はお父さんの事は、嫌いです。でも、感謝しています。だから、ありがとう。それだけです。そのうち、家に帰るから待っててね」


 私は涙を拭いて、赤く潤んだ目のままマイクへ向かって続ける。


「これは、大人になって、初めて父に出した手紙です。しかし、届かぬまま、帰らぬ人となりました。私は六年経った今も、まだ父の死を信じられていません。まだどこかで生きていて、この手紙を届けられる気がするのです」


「だから、結婚式の招待状もお父さんの住所で出してしまいました。でも、返ってきてしまいました。私はやっと、もういない事を受け止め始めました。自分にとても腹が立っています。自分で自分の心に怒っています。もっと早く気が付けていればと後悔しています」




「だから、今、ここにいる皆に伝えたいことがあります」





「あなたは家族と向き合えていますか?」

「家族の気持ちを受け止めていますか?」

「言葉を大切にしていますか?」

「あなたは一人じゃありません、誰かがいてあなたがいる。あなたの事を想ってくれる、大切な家族はいませんか?」

「ムキになって逃げてはいませんか?」

「ちゃんと向き合えていますか?」

「家族や大切な人からの、あなたを想う言葉は聞こえていますか?」

「皆、普通に生きている。当たり前に毎日。当たり前に当たり前に毎日」

「それは本当に当たり前ですか?」

「大切な人が、明日消えてしまうかもしれない、それは今日かもしれない」

「今かもしれない」

「あなたは自分の本当の気持ちを伝えましたか?嘘をついて逃げてはいませんか?」

「人生は一度きり、一瞬です」

「特別なことなのです。周りと向き合って、今を大切に生きていますか?」

「死んだらもう、帰ってきません」

「何処にもいないんです。いくら探しても、何処を探しても」

「読んでほしい手紙も読んでくれません、渡したかったプレゼントも届きません」

「だから、どうか大切に生きて」

「あなたの人生に後悔がないように」
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