第2話

文字数 1,492文字

 私の通う高校は県内でも有名な私立の進学校だ。難関大学合格者は毎年すごい数が出る。ここから、広い世に名を残す人物も現れるだろう。
 そんな、私の通う進学校は超が付くほどの有名な進学校な訳で、難関大学を受験するのが当たり前と言えるだろう。

 つまり、私は落ちこぼれなのだ。いや、勝ち組だ。

 皆が大変な時期に楽ができる勝ち組なのだ。

 高校を出て、働くという道を選んだのだから。

「私は働くのだ、楽なのだ」
「働くのだ、大人の仲間入りだ」
「皆より早く、社会に出ることが出来るのだ」
「お金が貰える自由な生活になるのだ」

 そう、何回も心で唱えていたら、もう下校の時刻になってしまった。いつも同じことを考えたまま、一日があっという間に終わる。同じ言葉が何回も頭をぐるぐる駆け巡る。授業なんか耳から跳ね返す毎日。学力が元から高い私はちゃんと聞かなくても赤点なんて取らない。卒業なんて簡単。

「卒業まで楽ちんの日々」

 とぼとぼと今日も私は言葉を唱えながら帰っていくのだ。 

 そして、学校から足を進めていくと、今日も開けたくもないドアの前に着いてしまった。このドアではない世界であったら良かったのに。

 ドアの先は、お嬢様が住むような大理石の床の家だったら……なんて現実離れした願い事をしながら開けても、何も変わることはない。そこは、いつもの散らかった玄関なのだ。いくら念を込めたって変わりはしない。魔法なんかこの世にはありもしないのだ。ごめんよ魔女さん、私はあなたが嫌いだよ。魔法なんていう期待を作ってしまうのだから。信じてしまいたくなるんだよ。

――――ガチャッ

 そう思いながら、ドアの音と足の重さだけを響かせ中へ入る。何も変わらない光景の中を進んで、私は二階にある自分の部屋へと駆け込む。

「さっむっ」

 いつも日当たりが良く暖かい私の部屋だが、十一月のこの時間にもなるとさすがに冷え込む。暖房のリモコンに手を伸ばすが、ボタンを押す前に一度止まって考える。

「暖房……いや、まだ我慢しよう」 

 まだそんなに寒くはないのだと、私は私に伝える。暖房はもう少し寒くなってからつけるべきだ。暖かい服を羽織れば良いのだ。

「そうすれば……良いのだ……」

 私は、最近の心の口癖を表に吐き出したまま、暖かいダウンを羽織り、本日の宿題に部屋でそのまま取り組む。その後はいつも通り一階のお風呂に駆け込む。お風呂で皮膚を温めた後は、ごはんの時間だからとリビングへそっと向かう。時刻は午後七時過ぎ。毎日、会いたくない人と会う時間。

「おかえり」

 私は挨拶をされても、朝と同様に無視をする。そして、テーブルの上の焦げた塊を見つけて口を開く。

「なにこれ……」
「スーパーの味付き肉を焼いたよ。魚が良かった?」
「いや、そうじゃなくて、この黒いの」
「あ……」
「こんなもの、食べられないから……今日はいらない」
「……ごめんね」
「そこのカップ麺でいい」

 私は黒い塊を目の前に、食欲が一気に無くなってしまった。この光景は、何回目だろうか。焦げている食事なんて食べられないと、あんなに言っているのにいつもこうだ。お父さんはおいしいお肉をいとも簡単に苦く黒い塊に変えるのだ。黒い塊の生産ナンバーワンはここしかないだろう。つやつやの真珠が噛み砕かれて粉々になってしまった。

「ごはんくらいちゃんと作ってよ…」
「ごめん」

 謝られてもどうせ直ることはない。今日も明日もそういう日々。

 ほくほくでつやつやの唐揚げが食べたい。

 心の中は今、唐揚げを求めている。濃い味のついたつやつやの唐揚げを。
 そんなものは目の前に出てくることもなく、お湯を注いで三分の慣れた味をすすった。
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