第17話
文字数 1,453文字
――――ピロロロロ
「あれ、誰だろう」
今日も仕事から帰ってきて、そのまま寝てしまおうとしていたところに、スマートホンの電話が鳴る。時刻は二十時。せっかくの早い帰宅なのに、仕事先からだったら嫌だなと、顔を歪めて、画面を見る。
「け、圭太君?」
画面を見ると、高校の同級生である圭太君からだった。パッと顔色を変えて、スマートホンを手に取った。分厚い本のアイコンが、画面で光っている。突然鳴る、圭太君からの電話に、疲れていた私は出ようか迷ったが、とりあえず応答を押す。
「こんばんは、富田です」
「おひさしぶり……佐々木だけど……ごめん夜に」
「どうしたの?」
「いや、富田どうしているかなって思って、ちょっと気になって電話しただけなんだ。最近はどう?仕事とか……社会人、大変なのに迷惑だったら、ごめんな」
「うん、大丈夫だよ。うん、多分、うん」
私は疲れきっていて、電話が来たことの喜びや、話したいことなんて出てきてはくれなかった。せっかくの電話なのに。嬉しいはずなのに。上手な言葉で隠せない。
「えっと、元気ない?疲れてる?大丈夫か?」
私の声に元気がないからだろう、何かを察して、彼は心配をする。そして、圭太君の声に、私は久々に目に波を作る。これから、彼に話したって、どうにもならないのに、どうしようもなく言葉を漏らしてしまう。
「私、今何が楽しいかわからない。仕事が出来ているかもわからない。夢が、何なのかもわからない。どうしたらいい、どうしたら……」
久々の何気ない電話なはずなのに、私は何をしてしまっているのだろうか。楽しく明るい会話をしたいはずなのに、どうして壊しているのだろうか。自分でも、わからないけれど、止まらない。
「なんかいろいろ分からない」
私は電話の向こうの、圭太君に向かって叫んでしまう。羨ましい大学生を前に嫉妬しているのだろうか。
すると、沈黙のあと、圭太君の声が聞こえた。
「富田は頑張ってるんだな、人一倍」
その言葉で、目の中は、おさまりきらない雫が溢れ出す。こぼれても、こぼれても出てきてしまい、声に出して溢れ出す。
「富田はすごいよ、誰よりも」
圭太君のさらなる言葉に、私は声を震わせるほどの涙を流す。誰かにこんな風に言ってほしかった。私は言ってほしかったのだ。褒めてもらうことも、認めてもらうこともできなくて、何もわからなかったのだ。自分がわからなくなってしまっていたのだ。私はただ、電話の向こうへと、涙を流す。あまりにも、泣いたままなので、圭太君は心配をする。
「ご、ごめん。余計な事」
「余計じゃない、嬉しがっだ、うれじがっだがら」
涙でくしゃくしゃの声は恥ずかしくて、うまく言葉を出すことが出来なかった。だから、落ち着いてから、私は言った。
「圭太君……ありがと、ごめん」
「こっちこそ、話してくれてありがとう。何に辛いかはわからない。それでも、富田が頑張ってるのはわかるんだ」
彼は優しい。だって、たった少しの言葉を、一生懸命理解しようと考えてくれたのだから。
「今はどういう状況かわからないけど、休みたいときは休んじまえ。完璧に生きなくていい、もっと気持ち抜いてけ。あと、自分の気持ちはどんどん吐いて楽になれ!」
「それだけ言っておく!」
「ありがとう」
「いつでも電話してきていいから、無理すんなよ。自分に正直に生きろ」
彼はそう言って、じゃあまた、と電話を切った。苦しみの内容は、自分でもわからず話していないけれど、全て伝わっているような気がした。
そして、私は次の日に、初めて仕事をお休みした。
「あれ、誰だろう」
今日も仕事から帰ってきて、そのまま寝てしまおうとしていたところに、スマートホンの電話が鳴る。時刻は二十時。せっかくの早い帰宅なのに、仕事先からだったら嫌だなと、顔を歪めて、画面を見る。
「け、圭太君?」
画面を見ると、高校の同級生である圭太君からだった。パッと顔色を変えて、スマートホンを手に取った。分厚い本のアイコンが、画面で光っている。突然鳴る、圭太君からの電話に、疲れていた私は出ようか迷ったが、とりあえず応答を押す。
「こんばんは、富田です」
「おひさしぶり……佐々木だけど……ごめん夜に」
「どうしたの?」
「いや、富田どうしているかなって思って、ちょっと気になって電話しただけなんだ。最近はどう?仕事とか……社会人、大変なのに迷惑だったら、ごめんな」
「うん、大丈夫だよ。うん、多分、うん」
私は疲れきっていて、電話が来たことの喜びや、話したいことなんて出てきてはくれなかった。せっかくの電話なのに。嬉しいはずなのに。上手な言葉で隠せない。
「えっと、元気ない?疲れてる?大丈夫か?」
私の声に元気がないからだろう、何かを察して、彼は心配をする。そして、圭太君の声に、私は久々に目に波を作る。これから、彼に話したって、どうにもならないのに、どうしようもなく言葉を漏らしてしまう。
「私、今何が楽しいかわからない。仕事が出来ているかもわからない。夢が、何なのかもわからない。どうしたらいい、どうしたら……」
久々の何気ない電話なはずなのに、私は何をしてしまっているのだろうか。楽しく明るい会話をしたいはずなのに、どうして壊しているのだろうか。自分でも、わからないけれど、止まらない。
「なんかいろいろ分からない」
私は電話の向こうの、圭太君に向かって叫んでしまう。羨ましい大学生を前に嫉妬しているのだろうか。
すると、沈黙のあと、圭太君の声が聞こえた。
「富田は頑張ってるんだな、人一倍」
その言葉で、目の中は、おさまりきらない雫が溢れ出す。こぼれても、こぼれても出てきてしまい、声に出して溢れ出す。
「富田はすごいよ、誰よりも」
圭太君のさらなる言葉に、私は声を震わせるほどの涙を流す。誰かにこんな風に言ってほしかった。私は言ってほしかったのだ。褒めてもらうことも、認めてもらうこともできなくて、何もわからなかったのだ。自分がわからなくなってしまっていたのだ。私はただ、電話の向こうへと、涙を流す。あまりにも、泣いたままなので、圭太君は心配をする。
「ご、ごめん。余計な事」
「余計じゃない、嬉しがっだ、うれじがっだがら」
涙でくしゃくしゃの声は恥ずかしくて、うまく言葉を出すことが出来なかった。だから、落ち着いてから、私は言った。
「圭太君……ありがと、ごめん」
「こっちこそ、話してくれてありがとう。何に辛いかはわからない。それでも、富田が頑張ってるのはわかるんだ」
彼は優しい。だって、たった少しの言葉を、一生懸命理解しようと考えてくれたのだから。
「今はどういう状況かわからないけど、休みたいときは休んじまえ。完璧に生きなくていい、もっと気持ち抜いてけ。あと、自分の気持ちはどんどん吐いて楽になれ!」
「それだけ言っておく!」
「ありがとう」
「いつでも電話してきていいから、無理すんなよ。自分に正直に生きろ」
彼はそう言って、じゃあまた、と電話を切った。苦しみの内容は、自分でもわからず話していないけれど、全て伝わっているような気がした。
そして、私は次の日に、初めて仕事をお休みした。