華の一族 Ⅸ

文字数 1,914文字

 風を切る音。ラモラックが愛用の大尖槍(グロース・ブレード・スピア)、ガンバンテインを軽々と振り回す。
 にやりと笑ったラモラックが、ガンバンテインを構える。穂先がやや下になっているのは、突き、または斬り上げで仕掛けてくることを意味していた。対してランスロットはアロンダイトを双剣で構えた。
 先ほどと同じように長い膠着状態となるのかと、周囲が息を呑んだその時だった。雄叫びをあげたラモラックが、ガンバンテインを構えたまま、ランスロットに向かって突進した。
 勢いそのまま、ラモラックがガンバンテインを突き出す。ランスロットはそれを難なく躱した。だがラモラックは、右手を握り直すと左腕を押し込み、ガンバンテインを半回転させるように石突きを繰り出した。
 予期せぬ攻撃に晒されたランスロットは、アロンダイトを交差させて石突きを防いだ。即座に石突きを下げたラモラックは、もう一度手首を返してガンバンテインを振り抜いた。
 強烈な石突きの一撃を、ランスロットはなんとか防いだ。だが態勢を大きく崩す、そこをラモラックが連続で突きを仕掛ける。ラモラックの剛力はヴォルフガングと遜色のないものだった。それだけではない。ヴォルフガングにはない速さを備えている。手数では勝るはずのランスロットが、完全に防戦一方となっていた。
 槍の突きと斬撃、石突きと柄の打撃。多彩な攻撃でランスロットに襲い来るラモラックだったが、周囲の者は次第に気づきはじめていた。
 これだけの猛攻を受けても、ランスロットは傷一つ負っていないということを。
 ラモラックは自分の武器の特性を最大限に生かし、アロンダイトの到達範囲の外から攻撃していた。それは先のヴォルフガングとの闘いを目の当たりにしていたからだ。一撃必殺の鋭い斬撃を持つランスロットの間合いに入ることは危険だと、判断していた。猪突猛進なようで、機略に富む一面を持つ。ラモラックの意外な側面が垣間見える。
 舌打ちをしたラモラックが、ランスロットと間合いを取る。心気を統一し、呼吸を整える。下手な数撃ちを諦め、一撃仕留めることに切り替えたようだ。同じくランスロットも体内のアーテルフォルスを高め、来たる衝突に備える。
 ヴォルフガングとの対峙同様、空気が張り詰めている。両者の呼吸も大きくなり、緊張も最大まで高まっている。
 先に仕掛けたのは、またしてもラモラックだった。右腕を伸ばし、突進すると同時にガンバンテインを突き放つ。ランスロットのアロンダイトが届かないぎりぎりの距離での一撃は、完全にランスロットの胸を捉えたかに思われた。
 ランスロットはアロンダイトを連結剣に切り替え、ガンバンテインを掻い潜ると、渾身の力でアロンダイトを突き出した。相手の攻撃が届かないと計算していたラモラックにとっては、不意打ちにも似た攻撃であった。
 すぐさまアロンダイトを双剣に持ち替えたランスロットは、ラモラックに眼にも止まらぬ連続の斬撃を浴びせた。躱す暇も防御する機会も与えられなかったラモラックは、ガンバンテインを地に落とし、広場に膝をついた。
 膝を折ったラモラックに、ランスロットはアロンダイトを突きつけた。見下ろすランスロットと、痛みと口惜しさに表して見上げるラモラック。勝敗は誰の目にも明らかだった。
 ランスロットはラモラックから眼を外すと、アロンダイトの先をラムサスに向けた。衆目を集めるラムサスであったが、背に負う愛用の特注クレイモア、ファリドゥーンを抜くことはなかった。
 ラムサスが一礼すると、手当を終えたヴォルフガングが、ランスロットに対して跪く。
「ここまで完璧やられちゃ、俺だって何も言えねえよ。ランスロット・リンクス、あんたに従うぜ」
 膝をついたままのラモラックが、頭を下げる。ランスロットが周囲を見渡すと、虎豹隊の兵すべてがランスロットに一礼していた。
「教練をはじめる。各自すぐに準備をし、城外へ集まれ。これまでのぬるま湯とは違うぞ。死すれすれまで鍛え抜く。生き残った者が、本当の精兵となるだろう」
 ランスロットに対する畏怖が浸透していく。力と恐怖で従わせることが正しいとはいえない。それはランスロットにもわかっていたが、今はこれでいい、と思っていた。
 兵たちが準備をはじめる。その動作はすでに機敏になっていた。
「見事なお手並みでした」
 隣に立ったラムサスが言う。この男はまだ屈していない。ランスロットはラムサスを見て感じた。ラモラックやヴォルフガングとは違う。ラムサスを従わせるには、力ではない別のものを示さなければならないのだ。
 アロンダイトを連結剣に持ち替えたランスロットは、自らも城外へ向かう。その後ろを、ラムサスがぴたりとついてきていた。

 
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