エピローグ

文字数 609文字

 夜。自然公園は静かだった。住宅地からも離れ人気はない。街灯が照らすベンチに黒ずくめの男が座っている。男の髪と瞳も黒い。男は座っていても充分に背の高さをうかがわせる。
遊歩道の砂利が鳴る。男が顔をあげると黒いスーツ姿の青年がやってくるところだった。男は柔和な笑みを浮かべ彼の名前をよぶ。

「こんばんは。雪輝(ゆきてる)君」
「待たせたか?」
「かまわないよ。時間ならたくさんあるんだ」

雪輝(ゆきてる)逢魔(おうま)の隣に座る。

「……もう10年か。あきれてるか?いつまでもしつこい俺に」
「どうして?たった10年じゃないか。昨日のことのようだよ」

雪輝(ゆきてる)は耳をすませた。逢魔(おうま)からは妹の音がきこえる。

10年前、彼の妹の何もない葬儀に逢魔(おうま)が現れた。
怒りと悲しみをぶつける雪輝(ゆきてる)の耳に八喜子(やきこ)の音がきこえたのだ。妹は逢魔(おうま)と生きている。
喜びも悲しみもわからないが確かに彼といるのだ。
それから1年に一度、会って話をすることにしている。雪輝(ゆきてる)は返事をしない妹に話しかけるのだ。
時間はあっという間に過ぎた。

「先生もみんな元気だ。征士郎(せいしろう)は今度、子供が産まれる」
「ああ、そう。よかったね。君は家族をつくらないの?」
「もう、いなくなることに耐えられない」
「……そうだね」

逢魔(おうま)は立ち上がる。

「じゃあ1年後に。またね」

彼は溶けるようにして消えた。雪輝(ゆきてる)も立ち上がり歩き出す。
逢魔(おうま)が黒くした髪と瞳は哀悼の色だ。雪輝(ゆきてる)が身につける特課(とっか)の制服も。
街灯のない暗闇に向かって雪輝(ゆきてる)は歩いていく。




閃光リカーランス




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