第21話 Paperbagman

文字数 22,322文字

 八喜子(やきこ)は洋館をみあげ間違えていないだろうかと不安になった。
鉄柵にぐるりと囲まれた、お城のような、その洋館は白い壁で屋根は紺色をしている。

晴れて16歳となりアルバイトをできるようになった八喜子(やきこ)は友人の朱珠(しゅしゅ)の紹介で隣の市の商店で働くことになった。商店といっても普段は乱雑な店内の整理など体力仕事なのだが今日は配達に来たのだ。

 朱珠(しゅしゅ)の祖母の友人だという年配の女店主は厳しいが理不尽さはなく指示も的確なので八喜子(やきこ)には働きやすかった。
ただし、どこに何を売っているのか収入は不明である。八喜子(やきこ)はお店に客が来たのを見たことはない。
朱珠(しゅしゅ)はふざけて女店主のことを「魔女」と揶揄し祖母のあけみにしたたかに尻を叩かれていた。

 迷っていても仕方がない。大きさの割には重たい小包を片手で落とさないようにしながら八喜子(やきこ)はインターホンを押した。
下校中の小学生が「お城にお客だ」と口にしながら通り過ぎていく。
確かにお城のようだ、と八喜子(やきこ)は思った。それでも逢魔(おうま)の屋敷よりは小さい。

 お城、表札には八十上と書いてあった。八喜子(やきこ)には読めない、八十上邸の廊下をメイド服の中年の女性に案内されながら八喜子(やきこ)は歩いていた。インターホンを鳴らすと裏へ回るように言われ裏門から入ったのだが、なぜか居間へと通され待つように言われたのだ。
前髪が鼻のあたりまである、その女性を見て八喜子(やきこ)は以前の自分のようだと思った。その女性も愛想はなく八喜子(やきこ)から目をそらすようにしている。

一目で質の良いものだとわかるソファー、それでも逢魔(おうま)の屋敷のものよりは簡素に感じられる、に腰掛けながら八喜子(やきこ)は待っていた。テラスからは庭が見え色とりどりの花が咲いている。
ドアが開きショートヘアの洋館の主が入ってきた。まだ若くジーンズにTシャツといったラフな格好で八喜子(やきこ)の向かいに座る。

「ご苦労様。いつもはおばあさんが来るのに珍しいね」

洋館の主はミヤ、と名のったあとに気さくに八喜子(やきこ)に話しかける。
先ほどの女性がお茶を用意し「帰る」と言い出せぬまま八喜子(やきこ)はミヤとの会話を続けた。
ミヤの話は楽しく八喜子(やきこ)が気がついた時には外はすっかり暗くなっている。彼女の携帯の着信件数は3桁近くになっていた。



 迎えにきた逢魔(おうま)の車の中で八喜子(やきこ)雪輝(ゆきてる)逢魔(おうま)から説教を受けていた。仙南(せんなん)の運転は正確で静かだ。

「だからって! こんな時間まで話してちゃダメだ!」

雪輝(ゆきてる)に言われ八喜子(やきこ)はごめんなさい、とうつむく。

「やっぱり俺のところ以外のバイトはやめたら? 心配しすぎで胃が痛くなる」

逢魔(おうま)も苦笑しながら言う。
雪輝(ゆきてる)逢魔(おうま)に頷く。

九重(ここのえ)のばーちゃんの紹介でも、ちょっと怪しいな。やめたらどうだ?」

そう言う雪輝(ゆきてる)八喜子(やきこ)はむっとする。

「ミヤさんはいい人だよ!」
「眼鏡をかけてても何か見えたか?」

雪輝(ゆきてる)にきかれ八喜子(やきこ)は首を横に振る。

「ううん、何も見えなかった。楽しく話してただけだもん。えっとね、カナカさん、メイドの人なんだけど、カナカさんが帰りに教えてくれたんだけど、ミヤさんはあんまり外に出られないから話し相手になってほしかったんだって。自分じゃ年が離れてるから」

いい人たちだよ、と言う八喜子(やきこ)逢魔(おうま)はくすくすと笑う。

八喜子(やきこ)。『いい人』だったら、こんなに帰りが遅くなるまで話相手をさせないよ」

逢魔(おうま)は調べておくよ、と続ける。それから決めよう、とも。
まだ逢魔(おうま)に名前だけでよばれることに慣れていない八喜子(やきこ)はくすぐったいような、けれども嬉しい胸の高鳴りに顔を赤くしながら、ありがとうございます、と礼を言った。

 翌日は休日。天気は春の日差しが気持ちいい晴れ。
ひととおり家事を終えた八喜子(やきこ)仙南(せんなん)の運転する車で逢魔(おうま)の屋敷へと向かった。
雪輝(ゆきてる)は「草」野球部のためいない。今日は逢魔(おうま)の屋敷で昼食をつくるからお弁当を届けない、と言われた兄の周りには眼鏡越しでも悲しみの青が見えていた。



 昼食を終え日課である彼の森の散策に付き合いながら八喜子(やきこ)朱珠(しゅしゅ)とるる子に言われたことを思い出していた。
デートしないの? と。
そういえば、と八喜子(やきこ)は思った。
逢魔(おうま)と出歩くといえば彼のものである、この霞末(かすえ)の森だけだ。あとは彼の屋敷で勉強を教わるか、掃除のアルバイトをしているかのどちらかである。
黙りこんだ彼女に逢魔(おうま)はいつもの通り柔和な笑みをむける。

「どうしたの?」
逢魔(おうま)さんはしたいんですか?」
「は!?」

前から、と言いかけた彼は言葉を切り、何を? ときく。

「えーっと、デートです。ここだけじゃなくて、ほかのところに行きたかったりするんですか?」
「俺は君といるなら、どこでもいいよ」

間をおかずにこたえられ八喜子(やきこ)は嬉しくてほほえんだ。

「君が行きたいの? いいよ。どこに行く?」
逢魔(おうま)さんは嫌じゃないですか?」
「嫌って何が?」
「だって、どこに行っても見られますよね。前に学校に来た時も、みんな見てました」
「嫌も何も俺にとって普通のことだよ。八喜子(やきこ)は嫌なの?」
「恥ずかしくないですか? その、私と一緒にいて」
「何で? 俺は君だから一緒にいたいんだよ」

屈託なく笑う逢魔(おうま)の周りには白い光が見えている。

「嬉しいです。逢魔(おうま)さんと一緒ならどこでも……」



『一番行きたいのはベッドの中だけど』



「嫌です!」
「まだ何も言ってないでしょう? ちゃんと待ってるってば。髪、のびたね」

逢魔(おうま)は背を向けた八喜子(やきこ)の髪をはらい首筋にキスをする。八喜子(やきこ)はびくりと体を震わせ思わず声をもらした。

「かわいいよ、八喜子(やきこ)
「知りません!」

背を向けたまま怒る八喜子(やきこ)逢魔(おうま)はくすくすと笑った。


 2人が屋敷の大広間に戻ると仙南(せんなん)が待っていた。
逢魔(おうま)仙南(せんなん)からの書類を受け取り目を通していく。

八十上(やそがみ)宮都(みやと)は普通の人間。カナカの方は経歴不明?」
「はい。申し訳ありません。何もわかりませんでした」
「かまわないよ。生まれはいいみたいだね。嫡男か。後継にはなれなかったみたいだけど」

逢魔(おうま)仙南(せんなん)にねぎらいの言葉をかける。
八喜子(やきこ)は彼の隣に座りながら黙ってその様子を見ていた。
いつもと違ってかっこいい、と思いながら。

「怪しいところはなさそうだけれど。店主の方は調べがついた?」
尾長(おなが)八重(はちえ)は昔から八十上(やそがみ)家に出入りしていたようです。八十上(やそがみ)家からの代金で生計を立てています」
「金持ちの道楽かな。今回は何もなかったからいいけどね」

仙南(せんなん)は姿勢を正し一礼すると大広間を出て行った。

八喜子(やきこ)八十上(やそがみ)家にまた行きたいの?」
「ミヤさんとの話は楽しかったです。花の名前とかピアノの弾き方とか知らないことを色々教えてもらいました」
「ああ、そう。俺よりも?」
「どっちがって決められないです。女の人だし逢魔(おうま)さんとは話せないこともありますから」

逢魔(おうま)は眉をひそめた。

「女? 八十上(やそがみ)宮都(みやと)が? 彼は男だよ」
「え? 女の人でした」
「見えたの? 眼鏡があるのに?」
「はい。眼鏡があってもわかります」

八喜子(やきこ)は目をぱちぱちとさせた。

「見えるってどういう風に? 裸でも見えたの?」
「違います。なんか、こう、女の人はふわっとした感じの色です。男の人は、ふわっとしてなくて、かっちりしたような色です」

逢魔(おうま)はそうなんだ、と返し質問を続ける。

「君が会ったのは八十上(やそがみ)宮都(みやと)じゃなかった?」
「わかりません。ミヤだって言っただけですから」
「俺以外のところにアルバイトに行くのは駄目。やめよう」

八喜子(やきこ)が口を開くよりも早く、彼女を黙らせるように逢魔(おうま)は続けた。

「俺のところに来て勉強しないでいられるほど君の成績に余裕はないでしょう? アルバイトよりも学業を優先しないと駄目だよ! 追々々試の常連なんだから!」
「それはそうですけど……週に一回くらいは」
「駄目! むしろ毎日、来てたって、ついていけないんだから今でも足りないくらいだよ。テスト前だけよく来ても付け焼き刃」

八喜子(やきこ)が目を瞬かせ、つ、と言い出したところで逢魔(おうま)は付け焼き刃、という言葉の意味を説明した。

「本当に進級できたのが奇跡だよ」
「追々々試では受かってます!」
「俺のおかげでね。R高校って進学校でしょう? よく入れたよ」
「お母さんがお願いしに行ったみたいです。誰にかはわかりませんけど」
「よかったね。それで、アルバイトはやめよう。特課(とっか)の手伝いも今後は一切合切(いっさいがっさい)禁止!」

イッサ? と首をかしげる八喜子(やきこ)逢魔(おうま)は意味を説明してから続ける。

「この間みたいに俺以外にさわらせることは許さない」
「……どういうことですか?」
鷹司(たかつかさ)の方を締め上げても口を割らなかったけれど千平(せんだいら)が教えてくれたよ」
「何をしたんですか?」
「何も。君と約束したでしょう。誰も殺すなって」
「そうじゃなくて! そっちも気になりますけど私は征士郎(せいしろう)君に何をしたんですか?」

八喜子(やきこ)は顔を赤くして逢魔(おうま)を見上げる。

「君の体に入ってたクサいのが胸をさわらせたんだよ。俺もまだなのに」

八喜子(やきこ)は全身の毛を逆立てて赤い頰を両手でおおった。

「……征士郎(せいしろう)君ともう会えないです」
「ちょうどいいじゃないか。特課(とっか)の手伝いもやめよう」
「先生が最近、休んでいるのって逢魔(おうま)さんのせいなんですか?」
「殺してないよ。約束したでしょう?」

逢魔(おうま)は柔和な笑みをうかべている。



 K市。R総合病院の診察室で医師はうなっていた。レントゲン写真と目の前のあくびをしている男、鷹司(たかつかさ)を何度も見比べる。

「骨折してたんですよね」
「はあ」
「もう治ったんですか?」
「はあ。俺がきく方じゃないですか?」
清二郎(せいじろう)様はまだなんですが……」
「今は俺の診察なんじゃないんですか。昔から治りが早いんです」

医師は顎をなでながら言葉をつなげていく。

「おそらく、ですが、鷹司(たかつかさ)さんは念動力(サイコキネシス)も使えますよね? 無意識のうちに折れた骨を圧着させているので治りが早いのではないかと思います」
「あんまり得意じゃないですが。役に立ってたんですね」

医師はあくまで推測ですが、と付け足す。

「以前、腕を砕かれた時も治りましたから、その可能性は高いです」
「へえ。砕いた奴の砕いた顎は治りましたか?」
「いいえ。まだです。こちらもおそらくですが鷹司(たかつかさ)さんは打撃にも念動力(サイコキネシス)を加えているのでしょう。まるでゴリラの一撃です」

鷹司(たかつかさ)は鼻を鳴らす。

「本当のゴリラに比べたら微々たるものでしたね。霞末(かすえ)のゴリラは指の力だけで折りやがった」

鷹司(たかつかさ)は忌々しげに吐き捨てる。
先月、会議中に突然、現れた逢魔(おうま)が隠し事があるよね? と鷹司(たかつかさ)の腕を折ったのだ。彼の叩きつけた拳や炎は逢魔(おうま)までとどくことはなかった。
千平(せんだいら)すみれは、いまだに()(かた)を怒らせて、と、ことあるごとに兄の清二郎(せいじろう)鷹司(たかつかさ)を咎めている。
鷹司(たかつかさ)清二郎(せいじろう)霞末(かすえ)の色つきに縮みあがって動けない部下たちよりはましだったな、と思った。
踏みつけられる兄の清二郎(せいじろう)をかばった征士郎(せいしろう)が白状するまで逢魔(おうま)の一方的な蹂躙は続いたのだ。



昔よりは、はるかにましになった。
昔よりは。
だが、あいつは変わらずクソ野郎だ。



鷹司(たかつかさ)八喜子(やきこ)を思うと、少し胸が痛んだが、すぐにそれはなくなった。
彼はあきらめることに慣れている。



 逢魔(おうま)の屋敷。大広間。
顔を赤くして怒っている八喜子(やきこ)逢魔(おうま)はなだめていた。

「先生の腕を折るなんて、どうしてそんなことをするんですか!」
征士郎(せいしろう)は折らなかったよ。俺が一番、折りたい奴だよ」
「そうじゃなくて!」
「話し合おうと思ったけれど、いきなり殴りかかってくるんだから仕方ないだろう? 俺は温厚だよ」
「先生にきいてもいいですか?」
「俺を信用してくれないの? 悲しいなぁ」

悲しげに目を伏せる逢魔(おうま)をほうっておいて八喜子(やきこ)鷹司(たかつかさ)に電話をかけた。
呼び出し音が鳴り出すと逢魔(おうま)八喜子(やきこ)の携帯を取り上げる。

「俺といる時は、ほかの男と話すのはやめて。雪輝(ゆきてる)君だけはいい」
「……わかりました。すみれちゃんにききます」

八喜子(やきこ)の差し出した手に逢魔(おうま)は携帯を返した。
最初は不在だったが、しばらくして千平(せんだいら)すみれから折り返し電話がかかってくる。

[ こんにちは。金扇(かねおうぎ)さん、どうなさいました? ]
「こんにちは。すみれちゃん、逢魔(おうま)さんが先生の腕を折った時のことなんですけど」
[ ええ、そうなんです ]

電話の向こう側ですみれは物憂げにため息をつく。

()(かた)がいらっしゃった時にいきなり殴りかかるものですから。驚かれましたよね。あらためてお詫びいたします。申し訳ありませんでした ]
「本当に? 逢魔(おうま)さんから先に暴力をふるったんじゃないの?」
[ はい。()(かた)がいらした時にお怒りのご様子でしたから、それを怖がったのでしょうね。わたくしの兄の清二郎(せいじろう)も ]

すみれはまた深々とため息をつく。

[ 本当に困った人たち……。正直に申し上げると、わたくしも恐ろしかったです。お怒りで瞳が金色に輝いていらして、でも身震いするほど、お美しくて……不思議ですね ]

すみれは夢見るような口調から普段の凛とした声をとりもどす。

鷹司(たかつかさ)さんと清二郎(せいじろう)は本能で生きていますから考えるより先に行動して今回のような、ご無礼をはたらいたのです。そちらにいらっしゃるのですか? ]
「はい。隣にいます」
[ お詫びのしようもございませんが本当に申し訳ありませんでした、とお伝えくださいますか? ]

心の底からすまなそうに言うすみれに八喜子(やきこ)はきっぱりと言った。

「でも、逢魔(おうま)さんもやりすぎです。腕を折ったりしなくても平気じゃないですか。暴力はいけないです」
「それを君が言うの?」
逢魔(おうま)さん、黙っててください」
「はい、はい」

電話の向こうで、すみれが鈴を転がすような声で笑う。

()(かた)はあなたに、とてもよくしてくださっているのですね ]
「よくってどういうことですか?」
[ そうですね……幸せですか? ]
「はい!」
[ そう。よかったですね。お父様たちのことはー ]
「もういいです!すみれちゃんのせいじゃないですから。雪輝(ゆきてる)もいつも言わないでほしいって言ってました」

すみれはしばらく沈黙し礼を言うと失礼します、と通話を切った。
逢魔(おうま)八喜子(やきこ)と目が合うと笑顔を引っこめ嘆いてみせる。

「俺のこと信用してくれなかったんだなぁ……傷ついた」
「先生の腕は折ったじゃないですか」
「傷ついたなぁ……信じてくれなかったんだ」
「でも腕は折ったんですよね?」
「傷ついた。悲しい」
「でも腕は折ってるじゃないですか」

八喜子(やきこ)逢魔(おうま)の目をまっすぐ見た。
逢魔(おうま)はくすくすと笑い出す。

「わかった、わかった。悪かったよ。謝る。ごめん」
「それは先生にじゃないですか?」
「先に向こうが殴りかかってきたんだよ。俺は謝らない」

兄の(あがま)に似ているな、と八喜子(やきこ)は思った。


週が明け学校が始まる。休みで崩れた調子を取り戻した放課後。
八喜子(やきこ)尾長(おなが)のバイトをやめることを朱珠(しゅしゅ)に伝えた。
ドーナツショップの店内に朱珠(しゅしゅ)のえ? という大きい声が響く。
八喜子(やきこ)朱珠(しゅしゅ)と同じように制服姿の少女たちの視線を集めたが、すぐに皆、自分たちの話にもどった。

「……そっか。あたしから、ばーちゃんに言っておこっか?」
「ううん、あとで、ちゃんと電話して挨拶しに行ってくる」
「そっか。しっかし、神さまも厳しいね。勉強しなさい! なんて」

朱珠(しゅしゅ)はストローでくるくるとカフェオレを混ぜながら笑う。

「少子化だねー。ひとクラスしかないからクラス替えもなかったけど。るる子ちゃんは受験!って言って塾だし。早くない?」
「そうだね。雪輝(ゆきてる)も夏前には野球もやめるって言ってるし」
「そうなの? そっか。八喜子(やきこ)ちゃんも大学行くの?」

八喜子(やきこ)はうーんとうなって首を横に振る。

「勉強できないし……でも就職もできる気がしない」
「あるじゃん。就職」
「え?」
「永久就職。神さまと結婚するんじゃないの?」
「え!?」

八喜子(やきこ)の大声に店内の注目が集まる。八喜子(やきこ)は眼鏡の奥の目を伏せ顔を赤くした。
朱珠(しゅしゅ)は気にせず続ける。

「違うの?」
「……わかんない。そこまで考えてなかった」
「彼氏的にはどうなのよ?」
「……いっつも『俺と一緒にいればいい』って言うけど」
「マジで? よかったじゃん! お金持ちなのは間違いないし」

朱珠(しゅしゅ)はにまにまと笑う。

「別れる時はたんまりもらえってママがよくテレビ見ながら言ってるよ」
「別れる前提なの?」
「だってさ、神さまだから変わり者だし。八喜子(やきこ)ちゃんは幸せ?」

朱珠(しゅしゅ)にきかれ八喜子(やきこ)は嬉しそうにほほえんで、うん、とこたえた。よかったね、と朱珠(しゅしゅ)も笑う。2人の笑い声がかさなった。


翌日の放課後。八喜子(やきこ)は制服のまま八十上(やそがみ)邸の前に来ていた。
彼女がアルバイトをやめることを伝えた尾長(おなが)が見せることがないような落胆をみせたのだ。
先日、帰りが遅くなったことが原因なら自分がいたらなかったせいなので許してほしい、とまで懇願された。
八十上(やそがみ)家の「ミヤ」は長い間、家にこもっており友人がおらず八喜子(やきこ)と話したことを大変楽しんでいた、とも。
尾長(おなが)は「ミヤ」が小さい頃から知っているので子供のいない自分には我が子のように思えるのだ、とまで言われた。
母親のように悲しむ尾長(おなが)を前にして八喜子(やきこ)は「やめます」とは言えず、ここにいる。
今日からは「ミヤ」の話し相手としてアルバイトを始めることになった。
帰ったら絶対に怒られる、と思いながら八喜子(やきこ)はインターホンを押した。
すぐに、はい、とカナカの声がこたえる。まるで待ちかまえていたかのように。

八十上(やそがみ)邸の庭は手入れが行き届いており色取りおりの花が咲いている。ミヤとその庭を散歩しながら八喜子(やきこ)は彼女から色々教わった。種を植える時期や手入れのしかた、そして花言葉などを。
当然のことながら逢魔(おうま)の森よりははるかに狭いため散歩はあっという間に終わった。

八喜子(やきこ)ちゃんはきき上手だね」

ミヤは今日もジーンズにシャツというラフな格好で明るく笑う。

「そうですか? いっつも自分の話ばっかりの人といるせいかもしれないです」
「それって彼氏?」

八喜子(やきこ)は少し照れながら、はい、と返事をした。

「好きなの? その人」
「はい。大好きです」

満面の笑みでこたえる八喜子(やきこ)にミヤはそう、と口元をほころばせる。ミヤは木に咲いた白い花を指先ではじいた。

「僕もね、好きな人がいたんだけど」

八喜子(やきこ)は眼鏡越しに目を凝らした。

「好きになってもらえないからやめた」

八喜子(やきこ)は息を飲んだ。ミヤの周りに黒いもやのような色が見えてくる。

「君は僕を好きになってくれる? 楽しいだろう?」

後ずさりをする八喜子(やきこ)の肩を誰かが後ろから、がっちりとつかんだ。彼女が悲鳴をあげて振り返るとカナカが立っている。

「お嬢さまと一緒にいてください」

カナカの前髪の奥の目が縦にまばたいた。白目がなくすべて黄色い瞳が光っている。怪しく光るその目を見つめていると八喜子(やきこ)の意識は遠のいていった。

夕方。オレンジ色の光にあたりが満たされる頃。朱珠(しゅしゅ)に呼び出され近所の公園まで出向いた雪輝(ゆきてる)はブランコに座る彼女の隣に座った。

「よう。どうした?」
八喜子(やきこ)ちゃん、って家にいる?」
「いや。今日は彼氏のところだろう?」
「本当に? ばーちゃんにバイトやめるって話ししたんだけどオナガさん、バイト先の人に連絡取れないって騒いでるんだけど」

雪輝(ゆきてる)は携帯を取り出し逢魔(おうま)に連絡をとった。
電話の向こうで逢魔(おうま)は友達と会う、と言われた、と言っている。
礼を言って雪輝(ゆきてる)は電話を切った。

「ばーちゃんに車だしてもらう! 雪輝(ゆきてる)も来て!」

雪輝(ゆきてる)は駆け出した朱珠(しゅしゅ)の後をすぐに追いかけた。


尾長(おなが)の店はシャッターがおり中には誰もいないようだった。
朱珠(しゅしゅ)の祖母、あけみはシャッターをならしながら大声をはりあげる。
何事かと出てきた近所の住民たちに友人が倒れたかもしれない、と嘆いてみせ警察を呼ぶ。

「お前のばーちゃん、女優だな」
「年のコーだって……ごめん。あたしが変なバイト紹介しちゃった」
「いや。俺が八喜子(やきこ)の教育がなってないせいだ」
雪輝(ゆきてる)っていい父親になりそうだよね」

言って朱珠(しゅしゅ)はやだー! と雪輝(ゆきてる)の肩を勢いよく叩く。雪輝(ゆきてる)はいてえっ! と声をあげ顔をしかめた。

「中には誰もいない。朱珠(しゅしゅ)のばーちゃんは八十上(やそがみ)って家を知ってるか?」
「きいてくる!」

朱珠(しゅしゅ)はあけみがつくった近所の人たちとの輪にとびこんでいった。


八喜子(やきこ)は気がつくと子供部屋にいた。床から体を起こしあたりを見回す。
小さなベッドには星柄のカバーがかかっており白い机とタンス。本棚には図鑑がたくさん並んでいる。部屋の中央には天井からマリオネットがぶら下がり、ゆらゆらと揺れていた。
ベッドの頭側には唯一の窓があり外が見える。空は暗くなっていた。
ない、と八喜子(やきこ)は思った。
この部屋にはドアがない。
八喜子(やきこ)は窓を開けようとしたが鍵も取手もなかった。
何階だろうか。下には庭が見える。
窓が割れる音がして庭に誰かが投げ出された。彼はしたたかに打ちつけた頭を軽く振りながら立ち上がる。
八喜子(やきこ)は眼鏡を外し窓を叩きながら彼の名前を叫んだ。

逢魔(おうま)さん!」

背丈は逢魔(おうま)と同じくらいだが体躯は倍もある男が走りより逢魔(おうま)の頭をつかむと地面に叩きつける。八喜子(やきこ)は悲鳴をあげた。男は茶色い四角い紙袋を頭にかぶり目と口のあるところは太い紐でバツの形に縫われている。すり潰すように逢魔(おうま)を地面に押しつけながら、ぐるりと首を回し八喜子(やきこ)を見上げた。縫われた紐が笑うかのように、ぐにゃりとゆがんだ。
八喜子(やきこ)の目に彼の名前が見える。

「……ナムガムレパップ? あっ! やめて!」

ナムガムレパップは逢魔(おうま)の頭を踏みつけた。何度も何度も執拗に踏みつけ踏みにじる。怒声と轟音をたてて炎がレパップに叩きつけられた。
レパップは手で叩いて体についた火を消しながら八十上(やそがみ)邸の中へと逃げこむ。
走ってきた鷹司(たかつかさ)逢魔(おうま)の腕を引いて立たせると彼は顔についた土を邪険に払い落とす。
ケガがないのが見えると八喜子(やきこ)はほっとした。再び窓を叩いて逢魔(おうま)を呼ぶが声は届かないようだ。八喜子(やきこ)は今度は兄の名を呼びながら窓を叩き続けた。
兄の耳に届くことを願いながら。


八十上(やそがみ)邸からかなり離れた路地で吐いている雪輝(ゆきてる)の背を朱珠(しゅしゅ)がさする。

「ヤバい?」
「……ヤバい」
「どんな音きこえんの?」
「吐くほど気持ち悪い」

言って雪輝(ゆきてる)は耳をおさえながら、また吐いた。
朱珠(しゅしゅ)の祖母あけみは八十上(やそがみ)邸の方を見る。
遠くにお城のように建つ八十上(やそがみ)邸は白い壁のせいか暗がりの中に浮かび上がり不気味な雰囲気を醸し出している。

「神さまのお嫁さんは大丈夫かね……」

不安そうに呟くあけみに雪輝(ゆきてる)は大丈夫です、とこたえた。
神さまが来てますから、と。


八十上(やそがみ)邸。庭。
逢魔(おうま)は痛む頭をさすりながら窓が砕けたテラスを見た。レパップの姿はない。鷹司(たかつかさ)が右手に炎をまとわせながら彼に声をかける。

「大丈夫、だな。ゴリラよりゴリラがいるとは驚きだ」

庭の奥、鉄柵の外から矢継早(やつぎばや)が叫ぶ。暗闇の中で黒いスーツ姿の彼女は首だけのように見える。

鷹司(たかつかさ)さん! やっきーは?」

鷹司(たかつかさ)も叫び返す。

「わからん! 逢魔(おうま)にも見つけられない! 雪輝(ゆきてる)は?」
「近づけません! 吐いちゃってダメです! さっきのアレは何ですか?」
「知らん! 霞末(かすえ)のゴリラが負けるゴリラだってのはわかった!」
霞末(かすえ)のゴリラが負けてましたね! ヤバいですね!」

逢魔(おうま)は眉間にしわをよせる。

「君たち失礼だよね」
「すまん。驚いた。霞末(かすえ)のゴリラでも負けるんだな」
「次に言ったら引きちぎるよ」
「さすがゴリラだな。あれは何だ?」
「さあ? 見たことない」

逢魔(おうま)はガラスを踏みながら八十上(やそがみ)邸の中へと入っていく。矢継早(やつぎばや)に待っているように叫び鷹司(たかつかさ)も続いた。


八十上(やそがみ)邸の中は明るかった。照明が点いている。
先を歩く逢魔(おうま)の背中に鷹司(たかつかさ)が話しかけた。

「どうやって、ここに来た?」
「どうって、いつも通りに車だよ。雪輝(ゆきてる)君から八喜子(やきこ)が、ここにいるってきいた。ちゃんと正面から入ったよ」
「だろうな。門が引きちぎられてた」

逢魔(おうま)は目につくドアを片っ端から開け2人で中を探したが八喜子(やきこ)の姿はない。

「君こそ、どうしているの?」
雪輝(ゆきてる)からきいた。怪異の音がする、ってな」
「ああ、そう」
「色なしならわかるんじゃないか? 眼鏡をかけてるはずだ」
「怒ってるから教えてくれない。一回、怒るとしつこいんだよね」
「呑気なもんだな。死んだらどうする?」

逢魔(おうま)はこたえず壁に手をつき力をこめていく。

「やめておけ。ぶっ壊せば見つかりやすいかもしれんが倒壊に巻き込まれたら八喜子(やきこ)が死ぬ」
「……あのさぁ、どうして君が八喜子(やきこ)を呼び捨てなの?」
「あぁ? 前に言っただろ。俺は教師だ」
「理由になってない。……ああ、気に入らない」

逢魔(おうま)は指をめりこませ壁をえぐりとる。

「だから、行くなって言ったのに! 俺の言うことなんてききやしない! 浮気と一緒じゃないか!」
「色男は浮気されるのが初めてか? 何事も経験だ。よかったな」

逢魔(おうま)は大きく息を吐く。

「せまい」
「そりゃ、お前の家に比べればどこもせまい」
「違うよ。外観と中の広さが合ってない」

言って、逢魔(おうま)は壁の穴を広げた。穴の奥に廊下が見える。

「壁を壊してたら倒壊するな。隠し扉探し……忍者屋敷だな」

鷹司(たかつかさ)の右手の炎が音を立てて燃え盛る。

「忍ぶ気はなさそうだけどね」

逢魔(おうま)も廊下の先に目線を向ける。レパップが立ちふさがっていた。



八十上(やそがみ)邸。子供部屋。
八喜子(やきこ)は叫ぶのをやめた。雪輝(ゆきてる)が遠くにいるのが見え声が届いていないこともわかったからだ。壁の方を向き目を凝らすと壁や床が透けていき逢魔(おうま)鷹司(たかつかさ)がレパップと対峙しているのが見えた。逢魔(おうま)の名を呼んでみたが、やはり声は届かない。
八喜子(やきこ)は壁にかかった標本を目にとめた。箱の中に虫がならびピンでとめてある。
階下から暴れている音と振動が響いてくる。見ると逢魔(おうま)がレパップに床に押しつけられていた。レパップは反対の手に持った先の尖った鉄の棒を高々と振り上げる。
八喜子(やきこ)はやめて、と叫んだが鉄の棒が標本をとめるピンのように逢魔(おうま)の腹を突き刺した。
八喜子(やきこ)は悲鳴をあげて壁に手をつき何度も叩いたが見えるだけで声は届かない。レパップは逢魔(おうま)に突き刺した鉄の棒を曲げていき持ち手側も同じように彼の体を貫いた。
やめて、という八喜子(やきこ)の声だけが部屋の中に響く。涙で歪む視界の中でレパップが逢魔(おうま)を殴りつけているのが見えた。
八喜子(やきこ)は震える手でポケットから眼鏡を取り出す。

「ごめんなさい、逢魔(おうま)さんを助けて、(あがま)さん」



八十上(やそがみ)邸。1階。廊下。
レパップは投げつけられた鷹司(たかつかさ)の炎を叩くようにして消し逢魔(おうま)を殴り続けている。
照明がまたたいた。気温がぐっとさがる。長い暗闇が明けるとレパップの傍らに黒づくめの男、(あがま)が立っていた。
(あがま)はレパップの腹に右腕をめりこませて体を持ち上げると壁に叩きつけた。レパップは音を立てて壊れた壁の先の廊下に投げ出される。
(あがま)逢魔(おうま)の腹に刺さった鉄の棒を軽々と引き抜き、投げ捨てる。床で跳ねた棒が鳴った。
(あがま)は目だけを細め逢魔(おうま)を見下ろす。

「愚かもの」

鷹司(たかつかさ)が一番のゴリラがきた、と呟いた。
逢魔(おうま)は体を起こし兄の肩をつかんだ。腹の穴はふさがり顔のケガもない。

「兄さん、八喜子(やきこ)はどこ?」
「まだ行けない。変わるぞ」

ひぐらしの鳴き声があたりに響いた。同時に壁と床が震え、穴もふさがっていく。

霞末(かすえ)の色なし。何が起きているんだ?」

(あがま)鷹司(たかつかさ)にこたえずに表情のない顔で逢魔(おうま)を見ている。逢魔(おうま)はあたりを見回した。

「……箱? 箱が並んでる?」
「どういうことだ?」

鷹司(たかつかさ)逢魔(おうま)がこたえる。

「そのままだよ。箱を並べた家なんだ。繋がらないと行けない部屋がある」
八喜子(やきこ)はそこにいるのか?」
「生徒なら名字でよんだら?」
「今はそんなことはどうでもいい。助けられそうか?」

不意に逢魔(おうま)は上を向いて目を輝かせる。見つけた、という言葉とともに。
あたりの気温がぐっと下がる。照明がちかちかと点滅する。寒さで鷹司(たかつかさ)の体が震え吐く息が白くなった。逢魔(おうま)が天井に手の平を向けると灰のように崩れ丸く穴が空いていく。彼は跳躍すると穴の先、子供部屋に降り立った。
床に座りこんだ八喜子(やきこ)が割った眼鏡の破片で指先を切っている。

八喜子(やきこ)、大丈夫?」
逢魔(おうま)さん!」

八喜子(やきこ)はとびあがるようにして立ちあがり、爪先立ちで逢魔(おうま)の顔に手をそえた。

「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。無事でよかった」

逢魔(おうま)はほほえんで八喜子(やきこ)を抱き上げる。

「ちょっと我慢してね」

そのまま彼は穴の中に下りる。八喜子(やきこ)は叫んで彼にしがみつき軽い衝撃に目を開けると1階にいた。
鷹司(たかつかさ)(あがま)がいる。

「無事だな。よかった。出るぞ」

鷹司(たかつかさ)のゆるんだ表情がすぐに険しくなる。レパップがゆっくりと歩いてきていた。
八喜子(やきこ)逢魔(おうま)の袖をひいて彼を見上げる。

逢魔(おうま)さん、ごめんなさい。誰も殺さないでって約束なしにします」
「いいの?」
逢魔(おうま)さんが痛い思いをする時はなしにします。嫌です。でも誰かを殺すのも嫌です」
「ありがとう」

逢魔(おうま)は柔和な笑みを浮かべて八喜子(やきこ)の頭をなで前に進みでるとレパップが振り下ろしてくる両手をつかみ軽々と引きちぎった。レパップは後ずさる。

「いらないの?」

逢魔(おうま)に投げつけられた自分の腕が腹にめりこみレパップは転倒した。そのまま顔を踏みつけられ床に穴をあける。
その様子を見て鷹司(たかつかさ)はやっぱりゴリラか、と呟いた。


八十上(やそがみ)邸の庭を鉄柵ごしに眺めながら矢継早(やつぎばや)は待っていた。轟音とともに壁を突き破って腕のないレパップが宙をまう。そのまま、どん、と音を立てて落ちた。
八十上(やそがみ)邸の砕けたテラスから逢魔(おうま)に抱き抱えられた八喜子(やきこ)が出てくる。それを見て矢継早(やつぎばや)は安堵して、すぐに雪輝(ゆきてる)に携帯で連絡を入れた。ゴリラが助けました、と。


八十上(やそがみ)邸の庭に倒れたままのレパップは動かない。腕のない肩の切り口は白い綿のようなもので満たされていた。それを靴の先でつつきながら鷹司(たかつかさ)は靴がなく逢魔(おうま)に抱きかかえられたままの八喜子(やきこ)を振り返る。

「これは何だ?」
「ナムガムレパップです」

即答する八喜子(やきこ)鷹司(たかつかさ)は少しイライラしながらきき返す。

「だから、それは何だ?」
「お人形です。ミヤさんに尾長(おなが)さんがつくった」
「人形?」

鷹司(たかつかさ)(あがま)へ目を向ける。
(あがま)は腕組みをしながら八十上(やそがみ)邸を見上げていた。
中からはひぐらしの鳴き声がきこえている。

「カナカって奴を知ってるか?」
「知らん。人間の名に興味はない」
「どういうことだ?」
「『さとり』がいる」

鷹司(たかつかさ)八喜子(やきこ)を見ると彼女は指に吸いつこうとしている逢魔(おうま)の顔をぐいぐいと押しのけているところだった。

八喜子(やきこ)、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
「ばい菌とか入ったら嫌だから嫌です!」
「ひどくない?」

鷹司(たかつかさ)は咳払いをして2人の注目を集める。

「邪魔してもいいか?」
「悪い」と、逢魔(おうま)
「いいです!」と、八喜子(やきこ)

八喜子(やきこ)がおりようとするのを逢魔(おうま)は優しくとめる。ガラスがあるから、と。
鷹司(たかつかさ)は続けた。

八喜子(やきこ)、ミヤってのとカナカってのは人間なんだな?」
「そうだと思いますけど、そうじゃないかもしれないです。黒い色、先生が怪異ってよんでる人に見えるのと同じ色が見えました」
「そうか。それで、何があったんだ?」

八喜子(やきこ)はレパップの倒れているあたりを指差す。

「そこでミヤさんに一緒にいようって言われてカナカさんの目を見たら気を失ってました」

逢魔(おうま)八喜子(やきこ)をとがめる。

「だから! ここに行くなって言ったじゃないか! ほかの男のところに行くのは浮気だよ」
「ミヤさんは女の人です!」

八喜子(やきこ)は頰をふくらませて言い返す。

矢継早(やつぎばや)! この家の奴は何者だ!」

鷹司(たかつかさ)が鉄柵の外へ向かって叫ぶと矢継早(やつぎばや)が叫び返す。

「名前は八十上(やそがみ)宮都(みやと)! いわゆる大物の息子です! 母親と住んでましたが5歳の時に死んでから、お手伝いと2人住まいです! 父親の後継は再婚相手との子供です!」
「そうか! 早いな!」
朱珠(しゅしゅ)さんのおばあさんが、ご近所から、あっという間にききだしました! 年の功ですね!」

礼を言って鷹司(たかつかさ)八喜子(やきこ)へ視線を戻す。

「やっぱり男だぞ? お前、大丈夫か?」
「ミヤさんは女の人です!」
「どういうことだ?」

鷹司(たかつかさ)逢魔(おうま)を見るが彼も首をかしげ兄の(あがま)へと目を向ける。
(あがま)は一言だけこたえた。

「解離性同一障害」

か、と八喜子(やきこ)が言い終わらないうちに逢魔(おうま)が説明をする。八喜子(やきこ)は説明をきき終え目をぱちぱちとさせた。

「体は男の人だけど女の人の心があるってことですか?」
「そう。君が見えるのは心だからね」
「じゃあ浮気じゃないです!」

えへん、と胸をはって言う彼女に逢魔(おうま)は苦笑する。

「そうだね、ごめん。でも、ここに来ちゃダメって言ってたよね?」
「それは……ごめんなさい。お友だちがいないから、また来てほしいって言われたんです」
「友だちを閉じこめちゃいけないよ」

鷹司(たかつかさ)八十上(やそがみ)邸を見上げる。ひぐらしの鳴き声は続いていた。

「ミヤって奴のからくりはわかったが、このからくり屋敷はどういうことだ?」

逢魔(おうま)が歩き出す。

「さあね。八喜子(やきこ)は無事だったんだし帰ろう」
「でも、ミヤさんがー」

八喜子(やきこ)八十上(やそがみ)邸を逢魔(おうま)に抱きかかえられながら振り返る。

「友達になりたいなら閉じこめちゃいけないよ」
逢魔(おうま)さんだって私の目がほしいって雪輝(ゆきてる)のバイトを邪魔したり逃げ場をふさいだじゃないですか」
「そうだね。ずいぶん賢い言い方だ。どこで覚えたの?」
雪輝(ゆきてる)がそう言ってました!」

誇らしげにこたえる八喜子(やきこ)逢魔(おうま)は、ああ、そう、と苦笑する。八喜子(やきこ)逢魔(おうま)の目を見て続ける。

「話したいだけなら、こんなことはやめてほしいです。ミヤさんと話すのは楽しいです」
「お人好しすぎるよ」
「だって話し相手だけのアルバイトなら、お給料がすごくいいんです」
「君はまず勉強しよう。進学するんじゃないの? できそうもないけれど」


ー神さまと結婚するんじゃないの? ー


朱珠(しゅしゅ)に言われたことを思い出し八喜子(やきこ)は顔を赤くした。

「どうしたの?」
「なんでもないです! ミヤさんをほうっておいて帰るのは嫌です」
「俺も逢魔(おうま)に賛成だ。『さとり』のお前にもわからないなら危険すぎる。帰ろう」

そう言って鷹司(たかつかさ)は手で矢継早(やつぎばや)に撤収の合図をする。八喜子(やきこ)は開きかけた口を閉じたが、ぎゅっと唇をかんで鷹司(たかつかさ)の背中に向かって叫んだ。

円戸(えんど)さんの時は間に合わなかったから今度はちゃんと見ます! 帰るのは嫌です!」

一瞬、ほんの一瞬だけ鷹司(たかつかさ)矢継早(やつぎばや)の動きがとまった。
鷹司(たかつかさ)八喜子(やきこ)を振り返る。

「あきらめろ。救える奴の方が少ないんだ。『さとり』のお前がいるのに何もわからないんじゃ何もできやしない」
「でもー」

八喜子(やきこ)の言葉を(あがま)が遮った。

「『さとり』にもわからない、とは? さっきから何の話をしている?」
「何って『さとり』の八喜子(やきこ)にもレパップっていう化け物がでてきたりした原因がわからないだろう?」

(あがま)は目だけを細めた。

「『さとり』がいるのは中だ。『さとり』が八十上(やそがみ)宮都(みやと)の心を見た。見られた心が、お前たちは怪異と呼んでいるな、怪異となった。そんなところだろう」
「『さとり』がいるってのは、そういう意味か」

八喜子(やきこ)は嬉しそうな声を出す。

「どうしたの?」

逢魔(おうま)にきかれ八喜子(やきこ)は笑顔でこたえた。

「カナカさんを私と同じだと思ったんです! 昔の私みたいに前髪で目を隠してて」
「そういえば、そうだったね」
逢魔(おうま)さんも(あがま)さんも、どうして『さとり』だってわかるんですか?」
「うーん……匂い、かな」
「私、クサいですか?」
「いや、すごくいい匂いがする」

逢魔(おうま)八喜子(やきこ)の髪に頰をよせた。彼女は顔を赤くする。
それはお前だけだ。(くさ)い、と(あがま)が言うと八喜子(やきこ)はむっとした。



 八十上(やそがみ)邸。宮都(みやと)の部屋。ミヤはベッドの上で苦しそうにうめいている。
カナカはベッドの横にひざをつきミヤの手を握りしめている。

「レパップが助けてくれます。大丈夫です」

祈りのようにカナカは静かに語りかける。

「レパップは悪い子をやっつけるんです。いつもそうだったでしょう? 今度も大丈夫です。レパップはとても強い。誰にも負けません」

大丈夫ですよ、お嬢さま、とカナカはミヤの手をより一層強く握りしめた。


 八十上(やそがみ)邸。庭。
八喜子(やきこ)矢継早(やつぎばや)が玄関から持ってきた自分の靴を履くと八十上(やそがみ)邸を見上げた。
一番上の階、窓の奥に人影が見える。
奥にはゆれているマリオネットがあり先ほどの子供部屋だとわかった。
人影は子供の頃のミヤだ。青白い生気のない顔で庭を見下ろしている。
ゆっくりと子供のミヤの口が動く。


ー お父さんが ー
ー ピアノを ー
ー 弾きなさいって ー
ー いつも弾けない ー


子供の頃のミヤは無表情のまま続ける。


ー 悪い子だから ー


彼女の周りには黒い色が見えている。
悲しい、と八喜子(やきこ)は思った。
悲しい。寂しい。つらい。ひとりぼっち。
自然と彼女の目から涙がこぼれ落ちた。八喜子(やきこ)を後ろから逢魔(おうま)が抱きしめる。

「君はここ。ここにいるよ。彼は見えても君とは違う。一緒にいるから探してごらん」

優しく言われ腕の中から逢魔(おうま)を見上げながら八喜子(やきこ)は、うん、と返事をした。あたたかさに満たされたのは抱きしめられているからだけではない。八喜子(やきこ)の目には逢魔(おうま)の周りに白い光が見えている。

 レパップの体がぶるぶると震え出す。
肩からはみでた綿が吹き出して腕を形づくる。レパップはゆっくりと体を起こし目の位置にあるバツの形の紐をぐにゃりと歪ませた。
矢継早(やつぎばや)が叫んだ。

霞末(かすえ)セットのせいで元気になってません!?」

鷹司(たかつかさ)の右手を炎がつつむ。

「だろうな。どうする」
「どうするも何も鷹司(たかつかさ)さん、どうにかできるんですか?」
「人形なら燃やせるかもしれん。穴も空いてるしな」

鷹司(たかつかさ)の右手から吹き出した炎がレパップをぐるりと取り囲む。
炎はレパップの顔と綿の腕を燃え上がらせた。矢継早(やつぎばや)が歓声をあげる。

「やりましたね! 何で急に燃やせたんですか?」
「イメージの問題だ。紙や布なら燃やし方がある」
「頭を見たら、すぐ出来ないんですか? 見るからに紙袋じゃないですか」
「紙袋の下を燃やさないと意味がないだろう」
「不思議パワーなのに面倒くさいですね」
「不思議パワーにも理屈がある」

レパップは全身を炎に包まれたまま膝をつき、そのまま崩れていく。
八十上(やそがみ)邸の中から聞こえるひぐらしの鳴き声が一段と大きくなった。



 檻の中にいすがひとつ。そのいすにミヤは膝をかかえて座っていた。
檻の外は真っ暗だ。

「ミヤさん」

ミヤは名前を呼ばれ顔をあげた。檻の外に八喜子(やきこ)がいる。
彼女からは白い光があふれ光の線で縁どられているように見えた。

「外へ出ましょう」
「出てどうするの? 僕は何もないよ」

八喜子(やきこ)は目をまたたかせる。

「何もないって……ミヤさん、つくし食べたことありますか?」
「ない」
「お金がなくて公園の山で栗を拾ったりとか山菜を探したりとか自販機のお釣りが残ってないか探したりとか」
「ない」
「近所の同級生から、お下がりをもらったりとか、お下がりの書道道具をもらったりとかで『名字が違うのにお下がりなの? 』ってきかれたりとか」

八喜子(やきこ)は檻に両手をかけた。自然と声が大きくなる。

「シロアリがでても雨もりしても、お金がないから自分たちで直すとかないですよね!」
「ない」
「何もないっていうのは! そういうことなんですよ! ミヤさんは立派なおうちもお金もあるじゃないですか! 私、旅行も行ったことないんですよ! 学校行ってなかったし修学旅行の積立も2人分は余裕がなかったし!」

八喜子(やきこ)は顔をふせた。

「動物園も遊園地も16歳になっても一回も行ったことないなんて誰にも言えないです。ゾウもテレビが壊れるまでテレビでしか見たことないし……雪輝(ゆきてる)は友だちと行ったことありますけど」
雪輝(ゆきてる)って誰? 彼氏? カッコいいの?」
「違います。彼氏よりカッコいいお兄ちゃんです」
「仲、いいんだね」
「はい! 大好きです!」

ミヤは八喜子(やきこ)の笑顔をまぶしそうに見る。

「ミヤさんはいっぱいありますよ」
「お金はね」
「カナカさんだっているじゃないですか」
「カナカも僕もひとりぼっちだから、お互いによりそってるだけだよ。ほかに誰もいないから」
「じゃあ外に出ましょう」

ミヤはおかしそうに笑う。

「外に出ても奇異の目で見られるだけ。傷つくだけ」
「…… そうだと思います。私もそうだと思ってました」
「私も?」

ミヤは八喜子(やきこ)の目を見る。彼女は寂しそうに笑う。

「お母さんと雪輝(ゆきてる)と、あとは朱珠(しゅしゅ)ちゃん以外は怖い人ばかりで私を傷つける人だと思ってました」

そうだろうね、と言うミヤに八喜子(やきこ)は続けた。

「お母さんがいなくなって……守ってくれる人がいなくなって、寂しくて」

八喜子(やきこ)霞末(かすえ)の森、そう呼ばれているのを知るのはうんと後のことだったが、霞末(かすえ)の森に入り逢魔(おうま)と出会った時のことを思い出す。

「同じように優しくしてくれる人がいるんじゃないかと思って外に出たんです」

森から逃げ出した後に再開した逢魔(おうま)を意地悪だと思ったことを思い出す。

「優しい人だと思って会いにいった人は全然優しくなくて……嫌いだったかもしれない。ううん、違う。優しくしてくれないからって勝手に傷ついて怒ってたんです」

八喜子(やきこ)はくすりと笑う。

「子供ですよね。雪輝(ゆきてる)にいっつも言われるんです。子供の怒り方だって」
「へえ。その人のせいで傷つくのは変わらないじゃないか」
「はい、そうです。いっぱい傷ついて泣いて、でも、それ以上に楽しいことや嬉しいことをくれました」

八喜子(やきこ)は檻の中に手を伸ばした。

「傷つけられても楽しいことや嬉しいことも、ちゃんとあります。外に出ましょう」
「やだよ。傷つきたくない。泣きたくない」
「一緒に泣いてあげます! 私、見えるんです。『さとり』って知ってますか? カナカさんと同じです」
「どうして、そこまでしてくれるの?」

八喜子(やきこ)はしばらく首をかしげていたが、にっこりと笑う。

「ミヤさんはお友だちです。だって話してて楽しいから」

すぐに八喜子(やきこ)の表情がくもる。

「私、友だち少ないんです……考えていることが見えるから余計なこと言っちゃったり、言ってることと思ってることが違うと変なこと言っちゃたりで変な奴だって言われるし」
「僕はいないや」

八喜子(やきこ)は目を伏せた。

「胸が大きいからってクラスの男の子が優しいから余計に女の子たちから嫌われるし……(むつみ)ちゃんくらいはっきり『調子にのるな』って言ってくれる子ならいいんですけど」
「それって悪口でしょ? 傷つかないの?」

八喜子(やきこ)は下を向いたまま首を横にふる。

「傷つきますけど影口だと言い返せないから卑怯で嫌いです」
「そっか、君は強いな」
(むつみ)ちゃんが手術で小さくできるって言ってたんですけど……お金ないです」

八喜子(やきこ)は顔をあげた。

「ごめんなさい! 私の話ばっかり」

ミヤは笑い声をあげた。

「いいよ。出てみようかな、外」

八喜子(やきこ)の顔が嬉しそうに輝く。

「君といると楽しそうだ。友だちになってくれる?」

ミヤは歩みより八喜子(やきこ)に手を差し出す。

「はい!」

八喜子(やきこ)はミヤの手を両手でにぎりかえす。まばゆい白い光につつまれ2人は目をつぶった。


 八喜子(やきこ)が目を開けると逢魔(おうま)の顔があった。
気を失っていたため膝をついた彼に抱きかかえられている。

八喜子(やきこ)、動物園も遊園地も行こう」
「……きいてたんですか?」
「ああ。全部。欲しいものはなんでも買ってあげる。でも、もって生まれた体をいじるのはやめよう」

逢魔(おうま)八喜子(やきこ)を抱きしめ、やや強く頭をなでる。
その様子を矢継早(やつぎばや)鷹司(たかつかさ)は訝しげに見ていた。

「やっきーが急に倒れたと思ったら、あの2人は何を通じ合ってるんですかね?」
「さあな? 以心伝心というよりは不思議パワーじゃないか?」

ひぐらしの鳴き声がぴたり、ととまり、あたりは静寂に包まれた。



 数日後。K市。千平(せんだいら)家の一室。
千平(せんだいら)すみれは矢継早(やつぎばや)鷹司(たかつかさ)から報告を受けていた。
すみれと矢継早(やつぎばや)は黒いスーツ姿で鷹司(たかつかさ)は普段通りのスーツを身につけている。

八十上(やそがみ)宮都(みやと)は自分をミヤだと思っていますし宮都(みやと)という人格はいなくなりました」

すみれはほほえみながら矢継早(やつぎばや)にきき返す。

「解離性同一障害だったのではありませんか?」
「カナカという『さとり』が宮都(みやと)の『ミヤ』という心を見続けたせいで『ミヤ』の人格が強くなり『宮都(みやと)』は消えた。理屈をつけるならそんなところだろう」

すみれは鷹司(たかつかさ)の言葉にそうですね、と返す。

「カナカさんはどちらへ?」
「しばらく行方不明だったが3日前に八十上(やそがみ)邸に帰ってきた」

すみれは3日前、と口の中でつぶやき形のよい眉をよせる。

「3日前というと八十上(やそがみ)さんのお父様が亡くなった日ですね」

鷹司(たかつかさ)は用意された目の前のお茶を飲みながら頷いた。
矢継早(やつぎばや)がけらけらと笑う。

八十上(やそがみ)宮都(みやと)は一生困らないだけの遺産を相続しましたねー。完全に自由です」
「父親は交通事故でばらばらだったらしい。引きちぎられたみたいにな。
気の毒だ」

しばらく沈黙が続いた。お茶を飲み干した鷹司(たかつかさ)が沈黙を破る。

尾長(おなが)八重(はちえ)は林道の中で首を吊っていた。足元にレパップの人形があったらしい」
「レパップって誰の心だったんですかね?」
「さあな。誰の心にもいる罪悪感だとしたら、また出てくるだろう」

矢継早(やつぎばや)はそうですね、と返し彼女もお茶を飲み干した。



 金扇(かねおうぎ)家。台所兼リビング。
を赤くして俯いている八喜子(やきこ)逢魔(おうま)が謝っている。

「ごめん、本当に悪かった」
「もういいです……逢魔(おうま)さんのせいじゃないですから」
「何があったんだ? 動物園に行ったんだろう?」

雪輝(ゆきてる)にきかれ八喜子(やきこ)はますます顔を赤くした。
逢魔(おうま)が苦笑しかわりにこたえる。

「そうなんだけどね、俺のせいで死ぬと思った動物たちが交尾をはじめちゃったんだよ。行く先、全部」
「そうか。それは災難だったな」
「生存本能なんだろうね。ほかの人たちもみんな気まずそうだったよ」
「だろうな。そういえば逢魔(おうま)は出歩くと先生たちが大変なことになるんじゃないのか?」
「ちゃんと食べてきたさ。俺を見た人たちの記憶もね」

雪輝(ゆきてる)は首をかしげる。

「ひとつあたえたら、ひとつ奪うんだろう? 奪いっぱなしでいいのか?」
「俺という存在を見る眼福をあたえたんだから記憶を奪ったところで問題ないさ」

逢魔(おうま)は当然のようにこたえる。雪輝(ゆきてる)はそうか、とだけ返し八喜子(やきこ)をなぐさめた。参考にはするなよ、と。
しない! と八喜子(やきこ)は顔を赤くして怒鳴るように返した。

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