第10話 すべてはノリと勢いで

文字数 4,276文字

「起きてください、リスタ。朝です」
「……ん、キュレ? 早いね」
 まだ日が出る前で薄暗い。目をこすりながら起きると、いつも通り冷静なキュレがいた。シュスタも起き上がり、簡単に身支度をしている。
「キュレ!?」
 ボクの声に驚いて飛び上がったのがメルク。メルクはキュレを見るなり離れた。
「どうしたの、メルク」
「だ、だってキュレ! 昨日は……」
 メルクは怯えるが、キュレ本人は不思議そうに見つめるだけ。ボクは笑いながらメルクに言った。
「キュレは一晩眠ればいつも通りになるんだって。大丈夫だよ」
「何のことです? ふたりとも」
「……キュレ、昨日はうるさかった」
 シュスタが不機嫌そうな顔でキュレにぼやくと、キュレは咄嗟に謝った。
「す、すみません! シュスタ。またあなたに迷惑を……」
「……迷惑だったけど、私のためなんでしょ? ならいい」
「相変わらずだなぁ、おふたりさん」
「シュスタ殿はキュレ殿に甘いですな。もしワタクシがシュスタ殿を起こしていたら……想像するだけで恐ろしい!」
 グリムとマッドも目を覚ます。これで全員だな。ボクはみんなに武器を持たせると、メルクに確認する。
「この山はどのくらいで越えられるかな?」
「そうだね、日がちゃんと出るまでには向こう側につくと思う」
「だったら少し急ごう。もう戦いは始まってるんだから、ね?」
「どういうこと?」
 説明は不要だ。敵陣に着けばすぐわかる。夜討ち朝駆け。夜討ちはせずにしっかり休んだけど、その分疲れは取れた。だから朝、敵陣が油断したところを攻める。
 もし、国から村に使者が来たことを敵が知っていたとしても、ボクらの正体まではわからないだろう。まさかイセカイから来た殺人鬼なんてね。その上少数だ。たった6人で襲撃するなんて、予想もつかないはず。だからボクらは山道を走る。
「ねぇ、マッド! この翻訳機っていうか腕時計って、時間を計ることはできるの?」
「もちろん! タイマー機能付きですぞ!」
「いい? みんな。山を下りて、敵陣がどうなっているのかを偵察。攻撃まで10分。30分で全攻撃終了ね!」
「は!? そんなことできるわけが……」
 先頭のメルクが走りながら振り向く。
「メルクは道案内、しっかりして。ボクらはいつも個人行動だ。できるかどうかわからない。でも、時間を決めて、その中で最高のパフォーマンスをすることは可能だ」
「私とシュスタはふたりで攻撃します。効率がよいので。リスタとマッドくん、グリムさんは単騎で」
「当然!」
 目の前にあった木の枝を、ボクはナイフで切り裂く。
「仕方ないな……」
 グリムも手袋を脱ぎ、ポケットに突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 白衣に爆弾を仕込んでいるので……」
「自爆してもいいから急いで!」
「リスタ殿! 無茶を言わないでくださいっ!」
 山道を駆け下りると、そこには野営している軍隊がいた。ボクらは3組に分かれて敵陣を偵察する。女の子同士とグリム、マッド。そしてボクとメルクだ。
 シュスタとキュレは武器さえ見せなければ敵を油断させられる。メルクもだ。通りかかった村人として誤魔化せる。
グリムとマッド……。ふたりはどう見ても怪しいけど、そこはリスク分散。グリムはむやみやたらに人を殺すような真似はせず、きっと敵に剣を抜かれないように諭すだろう。マッドは逆。テンション高めで攻撃を仕掛けるはずだ。そうなったらグリムも戦わざるを得ない。
つまり『どうしようもないから突っ込ませる』。本人たちは無自覚の突撃部隊だ。
「敵、多いね……」
 メルクが心配そうにつぶやくが、この小隊はせいぜい60人くらいだろう。
「ひとり10人殺せば余裕だよ」
「10!? それでも大勢じゃ……」
「この間村を襲ったのは100人だったんだよ? 大丈夫だって。おっと、銃もあるのか。気をつけないとね」
「そうだよ! 向こうは砲弾もあるんだよ?」
「気をつけるのはボクらじゃない。メルク、キミだ。流れ弾に当たらないようにね?」
 メルクに注意真っ赤 すると、ちょうど10分。偵察からみんな無事に帰ってきた。
「まだ敵は起床したばかりのようです。すっかり油断していました」
 キュレが報告すると、マッドもみんなに告げた。
「ここの砲弾はワタクシめにお任せを」
「……銃は5丁置かれてた。だけど、まだ隠してあるかも」
 そう口にしたのはシュスタ。グリムは手をゴキゴキ鳴らすと、ふうと息を吐く。
「すぐ手にできないのなら、俺が銃を壊す。生き物の命を奪うより、よっぽどいい」
「グリム、そんなこともできるんだ……」
メルクが驚いた顔を見てから、腕時計に目をやる。残り30分。タイマーを再度セットする。
「みんな、準備はいい? 行くよっ!!」

◆◇◆

 ボクらは敵陣に正面から殴り込む。朝食の準備をしていた軍人たちは数名。あとはまだ眠っている様子。ボクが朝食当番の頸動脈を切り、頭を煮だった鍋に突っ込むと、眠っていた輩も起き始める。間髪入れず、シュスタが空を舞う。キュレも鉈を持ちくるくると回る。
「ほ、砲弾の用意!!」
「そうはさせませんぞ!! グリム殿!」
「俺は武器を壊すだけだからな!!」
 どうやって作ったのかわからないが、多分グレネの村を襲った兵からくすねた大砲の火薬 をうまく取り出して作ったものだ
ろう。マッドお手製の爆弾をグリムが代わりに投げ込む。マッドの腕力じゃあそこまで飛ばせないからだ。
 ボンッ!! と大きな音が響き、地面が揺れる。グリムは砂埃の中、敵が手にしようとしていた銃に触れ、溶かしていく。
「うわあっ! 化け物っ!!」
「化け物じゃねぇよ……ひでぇな」
 吹っ飛ばされてきた軍人たちをナイフで切り裂くと野営地が血まみれになる。
その頃ピピッとタイマーが鳴った。ちょうど30分経過。ボクらは予定通りに攻撃を終了。意外とあっけなかった。
 残ったのは、ただひとり。この小隊をまとめていた男だ。
「どうするの、この人……」
 隠れていたメルクが、ボクらと合流する。ボクはみんなの顔を見つめた。
「そうだねぇ……正直つまらなかったんだよね。案外あっさりと終わっちゃったし。だからこいつを連れて、敵国に行こうか!」
「な、何言ってるの、リスタ!!」
「え? だって、リスタの村や国にとっても悪い話じゃないでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
 完全に困惑してるな。でもボクらは本気だ。シュスタとキュレはあまり表情を見せないが、震えてる。怖いからじゃない。武者震いってやつだ。マッドも残りの爆弾の数を数えている。
「俺もリスタたちが国民にまで手出ししないか 見ておかないとな」
「グリムまで!」
 唯一の良心だったグリムも同行すると言い出し、メルクはびっくりして目を見開いた。
「まぁいいじゃん。ねぇ、殺されたくなかったら……」
「はいっ!! 国まで案内させていただきます~!!」
 こうして男に案内され、敵国に向かう。しかし待っていたのは――

「ふうん、ちゃんと城壁で囲まれてるんだ。当たり前だけど」
「どうするの!? 国の中にも入れない……」
「……門番倒したけど、身ぐるみ剥がせばいい?」
「え?」
 慌てていたメルクだが、シュスタとキュレが先に攻撃を仕掛けていた。こうなったらもう行くしかない。『引く』なんて選択肢は最初からなかったけどね。
「でも、甲冑重いね。着られそうなのはグリムぐらいじゃない?」
 メルクがボクを見つめる。それだったら……。
「グリムが敵の兵のフリしてよ。あとは『不審者を捕まえたー』とか言って、城に入ることができたなら、いくらでも手は打てる」
 ボクがけろっと言うと、マッドも鼻息を荒くする。
「城ごと爆発させても構いませんしね!」
「……国王を人質にとってもいい」
 シュスタの意見にキュレも同意する。
「まぁ、街で暴れるよりはマシなのか……? それならやるしかないのか」
 グリムは仕方なく、甲冑を身に着ける。あとはボクらを縛り上げるだけ。
「ぼ、僕も行くの!?」
「どうなるかわからないから、ボクらと一緒のほうが安心だと思うけど?」
 ニヤッと笑うと、メルクも渋々グリムに縛られた。

「すまない、門の外に怪しいやつらがいたのだが……」
 ぷっ、グリムのやつ、カチカチに緊張してる。最悪自分で殺しちゃえばいいのに演技に徹するのは、見ていてバカらしい。これも自分自身の手を汚したくないきれいごとなんだろうな。
「お前……新入りか?」
 今度は疑われ始めた。これはまずいかも。グリムができないなら、ボクらが……。
「マッド、煙幕を!」
「承知っ!!」
 マッドが地面に弾を投げつけると、煙がもくもくと上がる。その隙に、びっくりしていたグリムとメルクを引っ張り、城の中へと潜入する。そこからは全力疾走。敵に出会ったら
即攻撃だ。
「ひ、ひい!」
「メルク、ボクから離れないでよ?」
「わ、わかった!」
 本当にお荷物だから、余計な手間はかけさせないでほしいというのが本音。他のメンバーも先ほどと同じペアになり、城中を駆け回る。
「みんな! とりあえず国王かその家族を探してっ!!」
 ボクらは散り散りになると、片っ端から扉を蹴破る。
「だ、誰だ!! お前らは!!」

                                  ◆◇◆

「見ぃ~つけた♪ ここの国の王様だよね?」
 ボクはニヤニヤしながら2本のナイフをくるりと回して握り直す。ボクとメルクが出た場所は、城の2階の中心。お決まりのように王座に座っていた。そのわきにはお姫様とお妃様だ。
 近衛兵がボクを止めようとするが、顔面にナイフを突き刺してやった。ずんずんと進んでいくと、後ろからシュスタやマッドたちも合流する。そのさらに背後には、また兵士たち。
 だけどこっちには王様たち人質がいる。
「さぁて、どうしようかなぁ~?」
「わしらに何を要求する気だ!?」
「わぁ~お、強気~。王様、殺すのはアンタとは限らないからね? 向こうのお妃様や王女様が死ぬかもよ~」
「くっ……」
「条件は1つだ。グレネの村とそこを治めている国には手を出すな。そうすれば傷つけたりしない」
 グリムが冷静に言う。こういうときは大人にしゃべらせるほうが効果的だから。
「……わかった、誓う。だから妻や娘に手荒い真似は……」
「あら~、案外簡単に言う事聞くね。でも、不安だから……王様の首はいただこうかな?」
 ボクがへらへら笑いながら、王様の首元にナイフを持っていこうとしたとき。

「お父様を傷つけないでっ! そのかわり、私の首を持っていきなさいっ!」

 王様の前に飛び出したのは、この国の王女様だった――

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み