第4話 ゲームスタート!
文字数 4,278文字
「殺し……? 戦争が起こってるの?」
「まぁ、戦争もあるっていえばあるけど……基本的にボクらの世界は平和。だけど、
ボクらの周りは殺しばかりだ」
「どういうこと?」
メルクには説明してもわからないかもしれないね。この村は、戦があっても殺人鬼なんて住んでいないだろう。人口も少ないし、ボクらみたいな異常者はいない。
ボクは笑って誤魔化すことにした。
「わからないならわからないままでいいと思うよ?」
「何、それ。余計に気になっちゃうよ」
ぷくーっと頬を膨らませるメルクを見たシュスタが立ち上がる。何をするのかと思ったら、指でその膨らんだ頬を潰した。
「なっ!?」
「…………」
シュスタは無言でメルクの頬を突き続ける。
「い、痛いっ! シュスタ!? な、何!?」
「あははっ! シュスタ、メルクのことを気に入ったんだ」
「シュスタが人を気に入るなんて、珍しいことですね」
「えぇっ!?」
ボクとキュレがのんきに言うと、メルクは顔を赤らめて困った表情になる。
「気に入ったって……だ、だから、止めてって! そ、そうだ、みんな、疲れてるでしょ
? よかったらバッツに入る?」
「『バッツ』とは?」
ポクラムを食べていたマッドが、また興味深そうにメルクへ顔を寄せる。
「ま、マッド、近い……」
「はっ! 失礼しました! メルク殿」
マッドが離れると、メルクはバッツとやらが何か、説明してくれた。
「うちの外にあるんだけど、あったかくて気持ちいいよ! 身体も汚れてるだろうし、すっきりすると思う」
「もしかして、露天風呂のことか?」
グリムが聞くと、メルクは強くうなずいた。
「そうそう! それ! 女の子と偶然一緒に入っちゃったり、女の子の裸をのぞき見る、アレ!」
「……それは小説の中の話だから」
ぼそっとつぶやくシュスタに、男性陣をキッとにらむキュレ。キュレは誤解してる。この中の誰が、女湯をのぞくっていうの? ボクは妹の裸に興味ないし、マッド はそもそもそういうものが苦手だ。女の子の裸を見ると、一瞬で鼻血が出てしまい、それどころじゃない。よりもロボットのほうが好きだ。グリムは大人だから、そんな下衆な真似はしない。
のぞくとしたらメルクくらいだけど、のぞいた時点で頭を打ちつけられて、首と胴体を切り離される。それに、メルクはいい人っぽいから、客人の風呂をのぞくなんてことはないだろう。
「メルク、さっそく案内してくれねぇか? 露天風呂に!」
「う、うん。そんなに広くはないけどね」
風呂と聞いて気分をよくしたグリムが、メルクの肩に腕を回す。
そのあと風呂に案内してもらったけど、メルクが自分用に穴を掘って作ったもののようだった。でも、これは温泉だ。硫黄の匂いがする。
「シュスタとキュレが先に入りなよ」
「リスタ、のぞいたりは……」
「はぁ……シュスタ、ボクらがそんなことするわけないって。キュレ、大丈夫だから早く行ってきてよ」
女子を追い出すと、ボクらはまたメルクの質問に答える。ラノベで読んだような学校が本当にあるのか、とか、なんで主人公はこんなにモテるのか、とか。
そんなことボクらも答えられない。ただ、夢を見ているようならそのままにしてあげたほうがいい。ボクは適当にこっちの世界の学校は楽しいと、嘘をつく。マッドもグリムも、それが嘘だと指摘はしなかった。
「……お風呂、よかった」
しばらくすると、長い髪をまとめたシュスタとキュレが戻ってくると、今度はボクらの番だ。
「はぁ~……娑婆に出て、初めての風呂が温泉、しかも露天だとはな!」
肩まで浸かって大きなため息をつくグリムは、完全におっさんだ。気持ちはわかる。ボクだって久しぶりの風呂だし、露天っていうのも気分がよくなる。
ただ、マッドはそんな場合じゃないようだ。
「硫黄……ふふふっ、いい材料が見つかりました! おっ! これも使えそうだ……」
マッドは風呂よりも、周りの土や草、石に興味があるようだ。白衣のままで、地面に這いつくばっている。
「そんなに広くなくてごめんね?」
「ううん、十分だよ。それに星がきれいだしね。ありがとう、メルク」
「僕も君たちから色んな話を聞くことができて嬉しかったから!」
「でも……なんであんなに詳しく研究しようなんて思ったの?」
あの、床や壁にまで書かれた文章。小説に貼られたメモ。『絵がかわいかった』とか、そんなレベルじゃない。ボクたちのセカイでここまでやるとしたら、言語学者ぐらいなんじゃない?
「……興味があったからだよ」
メルクは笑顔で答えたけど、一瞬だけ暗い顔に見えたのは気のせいなのかな。
ボクらはゆっくり身体をあたためると、風呂から上がった。
◇◆◇
――翌朝。
ドン、ドンッ!! という音と振動で目が覚める。
「なぁに~?」
ベッドが足りないせいで床に寝ていたボクは、まだ眠かった。ボーッとしながら身体を起こすと、メルクが窓から外をのぞいている。
「どうしたの?」
「まずいよ、敵兵だ!」
「今のは大砲の音……ですかな?」
メガネをかけると、マッドがメルクにたずねた。
「多分。でもどうして? 今まではこんな小さな村を襲うなんてこと、しなかったのに……」
「……敵ってことは……殺していいの?」
ベッドで眠っていたシュスタがぼそりとつぶやく。
その言葉に、ボクやキュレが反応する。
「ハハッ、そうだよ! やっと殺しができるよ! 敵ならなんの問題もない!」
「ようやく外に出られたと実感できそうです」
「キュレ……支援を」
「もちろんですわ、シュスタ」
ふたりもやる気で、さっそく武器を手にしている。
「メルク殿、あの風車小屋の中は?」
「あそこは粉を挽く場所で……」
「上出来です! リスタ殿、風車小屋に敵を集めてください」
「その前に、何人かは殺っちゃうよ?」
ボクがニヤリと笑うと、マッドはメガネを光らせる。
「みんな、どうするつもりなの? ま、まさか、敵軍と戦うとか!? 死んじゃうよっ!」
「大丈夫だ、こいつらは」
グリムが青ざめるメルクの頭にぽんと手を乗せる。
「今日はグリムも戦うんだ?」
「一宿一飯の礼だ。俺は別に戦にも殺しにも興味はない。だが、メルクの村の人間が
虐殺される可能性があるなら、手を貸す」
そう言いながら、手袋を外す。グリムも本気だ。
「む、無茶だよ! たった5人で戦うなんてっ!」
止めに入るメルクだけど、ここで引く気はさらさらない。
「それはどーかなぁ~? やってみなくちゃわからないよ?」
ボクはくすっと小さく笑うと、ベルトのナイフを取り出す。
「さあ、久々にゲーム、開始ってところだねっ!」
「え、ええっ~!?」
ボクらはふらりと村の入口に立つ。メルクはそれを遠くから見ていた。他の村人たちは、どうやら家に閉じこもっているようだ。だが、それも時間の問題。敵の侵入を許しちゃえば、きっと略奪なんかが起こるだろうなぁ。
ボクらが入口を塞いでいると、敵の中で一番偉そうにしている、ひげを蓄えたおっさんが声を荒げた。
「◇●※△×!!」
参っちゃうな。メルクがいないと、何を言っているか理解できない。多分「どけ」とかそういうことなんだろうけど……ま、関係ないか。
どうもこの敵の軍人らしき人は、サマとやらは、 品がよいようには見えない。敵は100人程度。100人
でこんな小さな村を襲うなんて、弱い者いじめ以外の何ものでもないよね。
ともかくボクは相手のおっさんに謝った。
「ん~、ごめんね~。ボクたち、ここのセカイの言葉、わかんないんだよねぇ~。だから、勝手に始めさせてもらうよ!」
ボクは敵をひとり捕まえると、思い切りナイフで首の頸動脈を斬る。そのまま踊るようにターン。うしろで剣を抜こうとしていた男の目をえぐる。くるりと回転すると、左の男の喉にナイフを刺す。うん、いい調子だ。
「……キュレ、行くよ」
「わかりました」
シュスタリスタ はボクの背中を蹴り、宙を舞う。そして振り上げた釘バットで相手の頭を殴る。し
かし、兜をかぶっていた兵士は無傷だ。
「ちっ」
舌打ちすると、シュスタは体勢を整えて攻撃方法を変える。バットの先で相手を突いた。
「っ!?」
敵の男は顔を押さえる。 男の顔には無数の釘の刺さった痕が見える。シュスタの釘バットの先は、釘の尖ったほうが出ていて、槍のようにも使えるのだ。
シュスタの背中を守るのがキュレ。ボクと同じように首を狙って鉈を振るう。首がダメなら顔面だ。鼻を削ぎ落す。顔がダメなら手。指や手首をばっさりと持っていく。
「気乗りはしないが、俺も行こう」
襲いかかって来た兵士たちの顔に両手で触れる。すると、シュウシュウと音を立てて身体がしぼんでいく。
「地獄で会おう」
「……許してくれ」
「グリムさん! そんなことを言っている場合じゃありませんぞっ!」
マッドに言われ、前線で戦っているボクらに合流する。
「リスタ殿! 風車小屋の用意はできましたぞ! 早くこちらへ!」
「わかってるよ。じゃ、そろそろおびきよせるとしますか! シュスタ、キュレ!」
合図するとふたりも風車小屋へと向かう。いい具合に軍隊もボクらを追う。
敵が風車小屋に入ると、小さな窓から外へと脱出して、外にいた兵士たちを無理やり力技で押し込む。それでも入らなかったやつは、ボクらの手で惨殺だ。
「マッド! これくらいでいい?」
「マーベラス! それではワタクシがラストを飾らせていただきますよ!」
マッドは火がついた木材を風車小屋の中に投げ入れた。
――ドカンッ!!
大きな爆発音。粉塵と煙が辺りを覆う。中に閉じ込められた敵兵士たちは、全員吹っ飛んだ。これで全滅、かな。
「はぁ~、久々に動いた! 楽しかったぁ~」
「……服が粉だらけ……」
「シュスタ、ケガはありませんか?」
「すまない、命を奪ってしまって……」
「やはり、爆発は大きければ大きいほど迫力がありますなぁ!」
音に驚いた村人たちが、家の中からボクらを見つめる。遠くに隠れていたメルクは、こちらへと駆け寄って来た。
「み、みんなすごいよっ! やっぱりあの本の通りだ!! 君たちこそが、このセカイを守る勇者だったんだね!」
メルクがボクの手を固く握る。勇者って、それは完全な誤解なんだけど……とは、言えそうもない。
ボクはみんなの顔を見る。シュスタは相変らずの無表情だし、キュレも困惑している。マッドはずっと壊れた風車小屋を見てニヤニヤしているだけ。グリムはまだ人を
殺した罪悪感に浸っているのか、天を仰いでいる。
グリムはお手上げといった感じ。
ボクはなんとも返すことができず、ただ笑うしかなかった。
「まぁ、戦争もあるっていえばあるけど……基本的にボクらの世界は平和。だけど、
ボクらの周りは殺しばかりだ」
「どういうこと?」
メルクには説明してもわからないかもしれないね。この村は、戦があっても殺人鬼なんて住んでいないだろう。人口も少ないし、ボクらみたいな異常者はいない。
ボクは笑って誤魔化すことにした。
「わからないならわからないままでいいと思うよ?」
「何、それ。余計に気になっちゃうよ」
ぷくーっと頬を膨らませるメルクを見たシュスタが立ち上がる。何をするのかと思ったら、指でその膨らんだ頬を潰した。
「なっ!?」
「…………」
シュスタは無言でメルクの頬を突き続ける。
「い、痛いっ! シュスタ!? な、何!?」
「あははっ! シュスタ、メルクのことを気に入ったんだ」
「シュスタが人を気に入るなんて、珍しいことですね」
「えぇっ!?」
ボクとキュレがのんきに言うと、メルクは顔を赤らめて困った表情になる。
「気に入ったって……だ、だから、止めてって! そ、そうだ、みんな、疲れてるでしょ
? よかったらバッツに入る?」
「『バッツ』とは?」
ポクラムを食べていたマッドが、また興味深そうにメルクへ顔を寄せる。
「ま、マッド、近い……」
「はっ! 失礼しました! メルク殿」
マッドが離れると、メルクはバッツとやらが何か、説明してくれた。
「うちの外にあるんだけど、あったかくて気持ちいいよ! 身体も汚れてるだろうし、すっきりすると思う」
「もしかして、露天風呂のことか?」
グリムが聞くと、メルクは強くうなずいた。
「そうそう! それ! 女の子と偶然一緒に入っちゃったり、女の子の裸をのぞき見る、アレ!」
「……それは小説の中の話だから」
ぼそっとつぶやくシュスタに、男性陣をキッとにらむキュレ。キュレは誤解してる。この中の誰が、女湯をのぞくっていうの? ボクは妹の裸に興味ないし、マッド はそもそもそういうものが苦手だ。女の子の裸を見ると、一瞬で鼻血が出てしまい、それどころじゃない。よりもロボットのほうが好きだ。グリムは大人だから、そんな下衆な真似はしない。
のぞくとしたらメルクくらいだけど、のぞいた時点で頭を打ちつけられて、首と胴体を切り離される。それに、メルクはいい人っぽいから、客人の風呂をのぞくなんてことはないだろう。
「メルク、さっそく案内してくれねぇか? 露天風呂に!」
「う、うん。そんなに広くはないけどね」
風呂と聞いて気分をよくしたグリムが、メルクの肩に腕を回す。
そのあと風呂に案内してもらったけど、メルクが自分用に穴を掘って作ったもののようだった。でも、これは温泉だ。硫黄の匂いがする。
「シュスタとキュレが先に入りなよ」
「リスタ、のぞいたりは……」
「はぁ……シュスタ、ボクらがそんなことするわけないって。キュレ、大丈夫だから早く行ってきてよ」
女子を追い出すと、ボクらはまたメルクの質問に答える。ラノベで読んだような学校が本当にあるのか、とか、なんで主人公はこんなにモテるのか、とか。
そんなことボクらも答えられない。ただ、夢を見ているようならそのままにしてあげたほうがいい。ボクは適当にこっちの世界の学校は楽しいと、嘘をつく。マッドもグリムも、それが嘘だと指摘はしなかった。
「……お風呂、よかった」
しばらくすると、長い髪をまとめたシュスタとキュレが戻ってくると、今度はボクらの番だ。
「はぁ~……娑婆に出て、初めての風呂が温泉、しかも露天だとはな!」
肩まで浸かって大きなため息をつくグリムは、完全におっさんだ。気持ちはわかる。ボクだって久しぶりの風呂だし、露天っていうのも気分がよくなる。
ただ、マッドはそんな場合じゃないようだ。
「硫黄……ふふふっ、いい材料が見つかりました! おっ! これも使えそうだ……」
マッドは風呂よりも、周りの土や草、石に興味があるようだ。白衣のままで、地面に這いつくばっている。
「そんなに広くなくてごめんね?」
「ううん、十分だよ。それに星がきれいだしね。ありがとう、メルク」
「僕も君たちから色んな話を聞くことができて嬉しかったから!」
「でも……なんであんなに詳しく研究しようなんて思ったの?」
あの、床や壁にまで書かれた文章。小説に貼られたメモ。『絵がかわいかった』とか、そんなレベルじゃない。ボクたちのセカイでここまでやるとしたら、言語学者ぐらいなんじゃない?
「……興味があったからだよ」
メルクは笑顔で答えたけど、一瞬だけ暗い顔に見えたのは気のせいなのかな。
ボクらはゆっくり身体をあたためると、風呂から上がった。
◇◆◇
――翌朝。
ドン、ドンッ!! という音と振動で目が覚める。
「なぁに~?」
ベッドが足りないせいで床に寝ていたボクは、まだ眠かった。ボーッとしながら身体を起こすと、メルクが窓から外をのぞいている。
「どうしたの?」
「まずいよ、敵兵だ!」
「今のは大砲の音……ですかな?」
メガネをかけると、マッドがメルクにたずねた。
「多分。でもどうして? 今まではこんな小さな村を襲うなんてこと、しなかったのに……」
「……敵ってことは……殺していいの?」
ベッドで眠っていたシュスタがぼそりとつぶやく。
その言葉に、ボクやキュレが反応する。
「ハハッ、そうだよ! やっと殺しができるよ! 敵ならなんの問題もない!」
「ようやく外に出られたと実感できそうです」
「キュレ……支援を」
「もちろんですわ、シュスタ」
ふたりもやる気で、さっそく武器を手にしている。
「メルク殿、あの風車小屋の中は?」
「あそこは粉を挽く場所で……」
「上出来です! リスタ殿、風車小屋に敵を集めてください」
「その前に、何人かは殺っちゃうよ?」
ボクがニヤリと笑うと、マッドはメガネを光らせる。
「みんな、どうするつもりなの? ま、まさか、敵軍と戦うとか!? 死んじゃうよっ!」
「大丈夫だ、こいつらは」
グリムが青ざめるメルクの頭にぽんと手を乗せる。
「今日はグリムも戦うんだ?」
「一宿一飯の礼だ。俺は別に戦にも殺しにも興味はない。だが、メルクの村の人間が
虐殺される可能性があるなら、手を貸す」
そう言いながら、手袋を外す。グリムも本気だ。
「む、無茶だよ! たった5人で戦うなんてっ!」
止めに入るメルクだけど、ここで引く気はさらさらない。
「それはどーかなぁ~? やってみなくちゃわからないよ?」
ボクはくすっと小さく笑うと、ベルトのナイフを取り出す。
「さあ、久々にゲーム、開始ってところだねっ!」
「え、ええっ~!?」
ボクらはふらりと村の入口に立つ。メルクはそれを遠くから見ていた。他の村人たちは、どうやら家に閉じこもっているようだ。だが、それも時間の問題。敵の侵入を許しちゃえば、きっと略奪なんかが起こるだろうなぁ。
ボクらが入口を塞いでいると、敵の中で一番偉そうにしている、ひげを蓄えたおっさんが声を荒げた。
「◇●※△×!!」
参っちゃうな。メルクがいないと、何を言っているか理解できない。多分「どけ」とかそういうことなんだろうけど……ま、関係ないか。
どうもこの敵の軍人らしき人は、サマとやらは、 品がよいようには見えない。敵は100人程度。100人
でこんな小さな村を襲うなんて、弱い者いじめ以外の何ものでもないよね。
ともかくボクは相手のおっさんに謝った。
「ん~、ごめんね~。ボクたち、ここのセカイの言葉、わかんないんだよねぇ~。だから、勝手に始めさせてもらうよ!」
ボクは敵をひとり捕まえると、思い切りナイフで首の頸動脈を斬る。そのまま踊るようにターン。うしろで剣を抜こうとしていた男の目をえぐる。くるりと回転すると、左の男の喉にナイフを刺す。うん、いい調子だ。
「……キュレ、行くよ」
「わかりました」
シュスタリスタ はボクの背中を蹴り、宙を舞う。そして振り上げた釘バットで相手の頭を殴る。し
かし、兜をかぶっていた兵士は無傷だ。
「ちっ」
舌打ちすると、シュスタは体勢を整えて攻撃方法を変える。バットの先で相手を突いた。
「っ!?」
敵の男は顔を押さえる。 男の顔には無数の釘の刺さった痕が見える。シュスタの釘バットの先は、釘の尖ったほうが出ていて、槍のようにも使えるのだ。
シュスタの背中を守るのがキュレ。ボクと同じように首を狙って鉈を振るう。首がダメなら顔面だ。鼻を削ぎ落す。顔がダメなら手。指や手首をばっさりと持っていく。
「気乗りはしないが、俺も行こう」
襲いかかって来た兵士たちの顔に両手で触れる。すると、シュウシュウと音を立てて身体がしぼんでいく。
「地獄で会おう」
「……許してくれ」
「グリムさん! そんなことを言っている場合じゃありませんぞっ!」
マッドに言われ、前線で戦っているボクらに合流する。
「リスタ殿! 風車小屋の用意はできましたぞ! 早くこちらへ!」
「わかってるよ。じゃ、そろそろおびきよせるとしますか! シュスタ、キュレ!」
合図するとふたりも風車小屋へと向かう。いい具合に軍隊もボクらを追う。
敵が風車小屋に入ると、小さな窓から外へと脱出して、外にいた兵士たちを無理やり力技で押し込む。それでも入らなかったやつは、ボクらの手で惨殺だ。
「マッド! これくらいでいい?」
「マーベラス! それではワタクシがラストを飾らせていただきますよ!」
マッドは火がついた木材を風車小屋の中に投げ入れた。
――ドカンッ!!
大きな爆発音。粉塵と煙が辺りを覆う。中に閉じ込められた敵兵士たちは、全員吹っ飛んだ。これで全滅、かな。
「はぁ~、久々に動いた! 楽しかったぁ~」
「……服が粉だらけ……」
「シュスタ、ケガはありませんか?」
「すまない、命を奪ってしまって……」
「やはり、爆発は大きければ大きいほど迫力がありますなぁ!」
音に驚いた村人たちが、家の中からボクらを見つめる。遠くに隠れていたメルクは、こちらへと駆け寄って来た。
「み、みんなすごいよっ! やっぱりあの本の通りだ!! 君たちこそが、このセカイを守る勇者だったんだね!」
メルクがボクの手を固く握る。勇者って、それは完全な誤解なんだけど……とは、言えそうもない。
ボクはみんなの顔を見る。シュスタは相変らずの無表情だし、キュレも困惑している。マッドはずっと壊れた風車小屋を見てニヤニヤしているだけ。グリムはまだ人を
殺した罪悪感に浸っているのか、天を仰いでいる。
グリムはお手上げといった感じ。
ボクはなんとも返すことができず、ただ笑うしかなかった。