第20話 ファミレス会議

文字数 2,359文字

 電車に揺られて我が街に戻ったら、もう午後8時。

「明日は日曜日だし、ファミレスでも行こうか。誰か門限あったっけ?」

 輝羅(きら)がそう言って(みんな)を見回す。
 ミイナだけが元気良く手を挙げる。

「ウチ、遅くても午後10時くらいまでには帰らないと。この前、霧子(きりこ)さんのジャズ聴いて帰ったらちょっと過ぎてて、怒られたんだよね」
「ここから歩いて30分くらいだっけ。とりあえずお(うち)に連絡してみたらどうかな」
「うん。ちょっと待ってて、くださいね」

 3人に断って、お母さんの携帯に電話をかける。今いる場所と、ファミレスで食べて帰ること、午後10時を少し越えるかも知れないことを伝える。意外なことに、二つ返事で了承を得た。

()いって。霧子さんと萌絵奈(もえな)さんは大丈夫なんですか?」
「ちょっと。なんで私はハナから大丈夫な前提なのよ」
「自分から誘ったんだから、これで門限あったら二重人格でしょ」
「う……まあ、無いけどね。夜中にラーメン食べに行ったりするし」

 それもどうなんだろうか。輝羅のお母さんの育児方針はよく分からないけど……。

「私は、一応メッセージ送っておいたわよ」
「ウチは喫茶店がまだ()いてるくらいだから大丈夫だよ」

 輝羅が指を……。ミイナが鳴らすのを止める。

「夜は鳴らしちゃダメなんじゃない?」
「それは、口笛でしょ。鳴らしたい、鳴らしたい!」

 ミイナが非情な冷たい眼差しで輝羅を見る。

「もういいから、行こ」

 そのまま手を握って、ファミレスに向かって歩き始める。輝羅は(うつむ)き、黙ってミイナに引かれて行った。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 輝羅と萌絵奈がソファ席に座り、向かいの椅子席にミイナと霧子が座った。

「お会計は別々でいいんですよね」

 霧子と萌絵奈が親指をグッと上げて答える。言葉……。
 輝羅は若干、()ねている様子で答えない。ミイナはちらっと彼女を見て、謝るかどうか考えたが、こんなことでしおらしく謝るのもどうかと思い、やめた。

 輝羅はチーズインハンバーグ、萌絵奈はカルボナーラ、霧子は抹茶パフェ、ミイナはデミグラスオムライスを注文した。四者四様である。

 注文した料理を呆けながら待っていると、輝羅が突然、自分の頬をピシャリと叩いた。
 驚く3人に、彼女は真剣な表情で言う。

「さあ、ミイナのアイデアを聞かせてもらうわよ。そのためにファミレスに寄ったんだから」
「いや、頬。真っ赤なんだけど。ちょっと目も(うる)んでるし、痛かったんじゃない?」
「景気づけよ。いいから、さっさと教えなさい」

 ミイナは気を取り直し、アイデアを話し始める。

「海で……」
「カルボナーラのお客様ー?」

 萌絵奈が小さく手を挙げ、カルボナーラが置かれる。

「萌絵奈、あったかい内に食べたほうが()いわよ」
「そうね。じゃ、遠慮なくお先にいただきます」
「さ、ミイナ、続けて」

 ミイナは嫌な予感がした。このやり取りが3回続くんじゃなかろうか。この作者なら、多分、やるぞ。
 辺りを見回す。ホールスタッフが近くにいないことを確かめて、もう一度話し始める。

「海で霧子さんが落とし物をして、女の人が交番に届けてくれたのを見て、思いついたんです。フィールドに落ちているものを拾って、特定の場所や特定の誰かに届ける。そんなゲームはどうですか」

 輝羅が萌絵奈と霧子に目を合わせると、それぞれ(うなず)く。ふたりの感触を確かめた上で、ミイナに答える。

「アリだと思う。それなら、3Dで作る意味がありそうだし、色んなアイデアをくっつけられそうな気がするわ」
「でも、あたし……」

 残りの料理が一斉に運ばれてきた。なぜカルボナーラだけ早かったんだろうか。と、それはさておき。

「あたしはこの前、輝羅に酷いことを言ったし、霧子さんや萌絵奈さんのアイデアも否定した。そんなあたしが、なんとなく思いついたアイデアを押し付けるの、やっぱりおかしな事なんじゃないかな」

 萌絵奈がミイナに微笑みかける。

「ミイナちゃんは、ミイナちゃんなりに面白いゲームを作りたくて言ったことなんだよね。あの時、輝羅は怒ってなかったのよ。ただ、自分のアイデアが妥協の(かたまり)って言われたの、図星だったみたい」
「まあ、それもあるけど、文化祭のゲームを作るためにミイナと泊まり込みで作業したことまで否定されたみたいで、ちょっと悔しかったのよね」

 輝羅が目を逸らす。ミイナは(うつむ)いて、オムライスを見つめる。

 その時、お腹が盛大に鳴ってしまった。
 霧子が笑いながら、ミイナにスプーンを手渡す。

「とりあえず、食べよ。私のパフェも溶けかかってるし」
「はい、あの……ゴメンなさい。あたし、時々自分で言葉を上手くコントロールできなくなることがあるみたいです。もっと上手(うま)い言い方があったと思います」
「もういいのよ、ミイナ。(みんな)でゲーム作りを楽しむんでしょ。そのアイデア、形にしていこうよ」

 ミイナは笑顔を作る。不自然な表情だが、優しい言葉に精一杯の反応をしてみた。

「さ、食べよ。私のパフェも溶けかかってるし」
『あなたはさっさと食べなさい!』

 輝羅と萌絵奈のハモリが店内に響いた。ミイナは笑う。この4人なら、きっと面白いゲームが作れる。そんな気がした。
 食べながら、色んなアイデアを出し合う。そうして、()()けていった。

 そして、ミイナは午前2時、家の玄関の前に立っていた。
 とりあえず開くかどうか、試しにドアノブを引いてみる。ガチャリと硬い音が鳴っただけで、ドアは開かない。

 腕を組んでどうすべきか考えていると、ドアの向こうで明かりが()いた。ドアの細長いすりガラスにうっすらと人影が映り、次第に玄関に近付いて来る。
 嫌な予感がする。背中を冷たい汗が伝う。

 ドアがゆっくりと開かれると、(おかあさん)が顔を出した。

 ー終わりー

「いや、終わらないから!」
「ミイナ! 何時だと思ってるの!!」

 その(あと)めちゃくちゃ怒られた。
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