第3話 コネクション
文字数 1,487文字
校舎の廊下を、ミイナは重いものを引き摺 るように歩いて行く。
実際、腰に手を回し、金髪の輝羅 が縋 るように取り憑 いているのだから仕方ない。
「やらないって言ってるじゃないですか」
「一緒にゲーム作ろうよおぉぉ!あんな熱い夜を過ごした仲じゃない!」
「確かにあの夕方は暑かったけど、人聞きの悪い言い方しないでください」
立ち止まり、冷たい視線を投げかけながらミイナが続ける。
「あそこまで出来てるなら、もう十分じゃないですか。あたしが今更なにするんですか?」
「あれはプログラミングの練習用。私は、3Dでグリグリ動くRPGを作りたいのよ。絶対ひとりじゃ無理だわ」
輝羅は立ち上がり、前髪を払うと、にやりとして続ける。
「あなたは、あのゲームを製作者の私より先にバグを見つけてクリアした。私が席を離れている2時間の間にね。何かの因縁を感じるのよ」
なぜに因縁? せめて運命とか、奇跡とか綺麗な言葉が欲しかった。
「あの、教室までついてこられると迷惑なんですけど」
「あら失礼。じゃあ、また放課後にね」
「いや、行きませんから! 絶対!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
6限が終わり、当たり前のように学校を自転車に乗って出る。ペダルを漕いで6月のむわっとした風を受けながら、家路を急ぐ。時々後ろを振り返るが、何者かが追ってくる気配は無さそうだ。
変な奴に目をつけられたなぁ。溜息混じりに考えながら、ミイナは幅の広い道路の反対側へ行くため、自転車を降りて押し、歩道橋を上がる。
歩道橋の真ん中ほどに、萌絵奈 の姿があった。
2か月の通学では、一度も出くわしたことがないはずだ。
「萌絵奈さん、どうしたんですか」
声をかけながら、彼女がスケッチブックを持っていることに気付く。
「風景を描いてるの。私、美大に進むつもりだから」
だったらなぜ文芸部にいるんだ……。ウチの高校たしか美術部あったはずだけど。と思いながら、ミイナはスケッチブックを覗く。
「うんまっ……!」
鉛筆書きだが、ここから見渡せる街の風景が特徴的なタッチで詳細に描かれている。立体的で、街の息づかいやにおいが飛び出してきそうな絵だ。
「聞いていいですか。どうして萌絵奈さんはあそこにいるんですか?」
「それを話すには、時期が悪いわね」
え? 時期? 悪いの? その言葉、パソコンのグラフィックボードの値段が高い時にしか使わないものだと思ってた。
「輝羅は面白い娘よ。あと、無茶は言うけど、人を傷付けるようなことはしないわ。あと、人を見る目があるの。誘われたってことは、本当にあなたのことが必要なのよ」
「はあ……」
「なんにも部活やってないなら、暇潰 しにあそこを使えばいいわ。私たちみたいにね」
……やっぱり暇潰 しだったのか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水曜日は5限まで。部活に行く子はさっさと教室を出て行く。ミイナは窓の外を眺めていた。
聞き覚えのある声が遠くから響いてくる。
「ランニングはすべての基本よ! 体力なくして成就せず。誰の言葉か知らないけどね!」
「そ、そんな諺 聞いたことないよー」
「ねぇ、これあと何周するのー?」
文芸部の3人が体操服でグラウンドを走って行く。
輝羅は颯爽 と走っているが、あとのふたりはフラフラと足元がおぼつかない様子だ。
……なにやってんだ、あの人たち。
ついつい気になって、校舎の階段を降り、グラウンドに出る。
輝羅がミイナを見つけて笑顔で声をかける。
「あ、下村ミイナ。あんたも走る? 走った後のジュースは格別よ」
「なんで走ってるんですか?」
立ち止まり、腕組みして決まり顔で言う。
「そこにグラウンドがあるからよ!」
あ、コイツだめだ。
実際、腰に手を回し、金髪の
「やらないって言ってるじゃないですか」
「一緒にゲーム作ろうよおぉぉ!あんな熱い夜を過ごした仲じゃない!」
「確かにあの夕方は暑かったけど、人聞きの悪い言い方しないでください」
立ち止まり、冷たい視線を投げかけながらミイナが続ける。
「あそこまで出来てるなら、もう十分じゃないですか。あたしが今更なにするんですか?」
「あれはプログラミングの練習用。私は、3Dでグリグリ動くRPGを作りたいのよ。絶対ひとりじゃ無理だわ」
輝羅は立ち上がり、前髪を払うと、にやりとして続ける。
「あなたは、あのゲームを製作者の私より先にバグを見つけてクリアした。私が席を離れている2時間の間にね。何かの因縁を感じるのよ」
なぜに因縁? せめて運命とか、奇跡とか綺麗な言葉が欲しかった。
「あの、教室までついてこられると迷惑なんですけど」
「あら失礼。じゃあ、また放課後にね」
「いや、行きませんから! 絶対!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
6限が終わり、当たり前のように学校を自転車に乗って出る。ペダルを漕いで6月のむわっとした風を受けながら、家路を急ぐ。時々後ろを振り返るが、何者かが追ってくる気配は無さそうだ。
変な奴に目をつけられたなぁ。溜息混じりに考えながら、ミイナは幅の広い道路の反対側へ行くため、自転車を降りて押し、歩道橋を上がる。
歩道橋の真ん中ほどに、
2か月の通学では、一度も出くわしたことがないはずだ。
「萌絵奈さん、どうしたんですか」
声をかけながら、彼女がスケッチブックを持っていることに気付く。
「風景を描いてるの。私、美大に進むつもりだから」
だったらなぜ文芸部にいるんだ……。ウチの高校たしか美術部あったはずだけど。と思いながら、ミイナはスケッチブックを覗く。
「うんまっ……!」
鉛筆書きだが、ここから見渡せる街の風景が特徴的なタッチで詳細に描かれている。立体的で、街の息づかいやにおいが飛び出してきそうな絵だ。
「聞いていいですか。どうして萌絵奈さんはあそこにいるんですか?」
「それを話すには、時期が悪いわね」
え? 時期? 悪いの? その言葉、パソコンのグラフィックボードの値段が高い時にしか使わないものだと思ってた。
「輝羅は面白い娘よ。あと、無茶は言うけど、人を傷付けるようなことはしないわ。あと、人を見る目があるの。誘われたってことは、本当にあなたのことが必要なのよ」
「はあ……」
「なんにも部活やってないなら、
……やっぱり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水曜日は5限まで。部活に行く子はさっさと教室を出て行く。ミイナは窓の外を眺めていた。
聞き覚えのある声が遠くから響いてくる。
「ランニングはすべての基本よ! 体力なくして成就せず。誰の言葉か知らないけどね!」
「そ、そんな
「ねぇ、これあと何周するのー?」
文芸部の3人が体操服でグラウンドを走って行く。
輝羅は
……なにやってんだ、あの人たち。
ついつい気になって、校舎の階段を降り、グラウンドに出る。
輝羅がミイナを見つけて笑顔で声をかける。
「あ、下村ミイナ。あんたも走る? 走った後のジュースは格別よ」
「なんで走ってるんですか?」
立ち止まり、腕組みして決まり顔で言う。
「そこにグラウンドがあるからよ!」
あ、コイツだめだ。