第12話 アイデアが生まれる
文字数 1,965文字
「要するに、ゴルフゲームだね。これ」
画面に表示された風の向きと強さを考慮して、靴を飛ばす向きと強さを調整し、さらに動く障害物を避けるようにして放つ。画面の右側に向かって飛んだ靴を、可動範囲でタイミング良くキャッチする。これを20ステージで
「別にスルメゲーでもないし、途中で飽きるよね」
「スルメゲーって何ですか?」
「スルメって、噛めば噛むほど味が出る感じかな。小規模なゲームだったら、遊べば遊ぶほどやり込み要素が増えたり、出来ることが増えて面白くなっていくようなゲームのこと。このゲームはガムって感じ」
「噛めば噛むほど味がなくなる、ってことですか……」
エアコンの効いた文芸部の部室の中、ミイナは頭を抱える。
「5分遊んでもらうだけなのが、こんなに大変だとは思いませんでした」
RPGなら、最初のムービーシーンを見ている間に終わる5分。インスタントのうどんにお湯を入れてから出来上がるまでの5分。Jポップ1曲はだいたい5分。
5分なんてあっという間に過ぎるはずなのに、このゲームで遊んでいると、その5分が遠く感じる。つまらない時間となってしまう。
ミイナはちらっと
「座ってくれた人を、5分間椅子に縛り付けておけばいいんじゃない?」
「いいんじゃない? じゃないですよ。良くないです。犯罪じゃないですか」
「ちょっと私も遊ばせてよ。どうやるの?」
霧子が遊び方を教えようと、まずはキーボードで画面上のキャラクターに靴を飛ばさせる。萌絵奈はマウスを動かして待つが、靴は障害物に当たって散る。
「ちょっとぉ、こっちまで来ないじゃない」
次のステージでは、基地から放たれたロケットが障害物を避けたものの、操作に慣れない萌絵奈はキャッチするタイミングを逃した。
「やーい。萌絵奈の下手くそー」
「クソがっ……!」
萌絵奈がキャラにない言葉を口にして、正直ビビった。
やり取りを見ていたミイナはもう一度、輝羅を見る。彼女は、本を置いて霧子と萌絵奈の顔を眺めていた。
「どう思う? 輝羅」
「多分、ミイナとおんなじこと考えてる……」
霧子と萌絵奈は、何事かという表情でミイナと輝羅を交互に見る。
ミイナと輝羅は立ち上がり、握手を交わす。
『これだ!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
輝羅がホワイトボードに「2人プレイ」と書く。ようやくまともにホワイトボードを使えるようになったみたいだ。
「靴を放る人と、キャッチする人が同じで面白いわけないのよ。公園のブランコで、自分が蹴飛ばした靴を自分で取るようなもんなんだから」
ミイナは想像してしまった。そんな動きをする奴を見たら、多分怖くて逃げ出すだろう。
霧子が手を挙げて言う。
「先生。いいですか」
「なんですか霧子さん」
「だったらキーボードは、なんかやり辛いです。片手が寂しいというか。コントローラーにしてみませんか」
「採用」
決断が早いな。
萌絵奈も手を挙げる。
「はい、先生」
「発言を許可します。萌絵奈さんどうぞ」
「靴を飛ばす方が下手だったら、キャッチする方は暇になっちゃうから、次のステージでは役目が逆になった方が
「採用」
だから決断早いって、
「ミイナは? 何かアイデアある?」
「アイデアじゃないけど、2人プレイ必須だと1人で遊びに来た人はお断りってことになるよね」
「それはもはや仕方ないことね。ひとりきりで寂しい老後を送ってもらうしかないわ」
ひとりきりで寂しい老後……。なぜか高島先生の顔が思い浮かんだ。
「ミイナちゃんが遊んであげたら? ミイナちゃん可愛いし、男子は喜ぶと思うよ」
萌絵奈の言葉に、輝羅がパチンと指を鳴らす。
「ミイナにメイド服を着せて、1プレイ500円取ろう!」
……すぞ。
「それは勘弁してください。次の日から学校に来られなくなります」
「残念ね。部費を稼ぐチャンス到来だと思ったのに」
ミイナは大きく溜息を
「それはさておき、2人プレイでステージごとに役目を交代、コントローラー対応って、あと3週間で間に合うのかなぁ」
「そんなの余裕よ。今日帰ってから、徹夜でプログラム書くわ」
「あたし、輝羅の家に行こうかな。すぐにデバッグできるし」
輝羅の顔が紅潮する。
「え、来るの? 泊まるってこと?」
「だって、早く実装してまた試遊してもらわないと。面白いゲーム作りたいんでしょ」
「わ、分かったわ! ちゃんと親御さんには連絡するのよ!」
「家出じゃないから。1回、お泊まりの用意で家に帰るし」
霧子と萌絵奈は目を見合わせて微笑む。
「じゃあ、次回は初めてのお泊まり編ね」
だから誰に言ってんだ、それ。