第9話 未知のウイルス?
文字数 2,159文字
「それが人にものを頼む態度?」
「こっちはちゃんと申請したのよ。文句言われる筋合いは無いわ!」
「だから、アレは在庫が足りないから貸せないって言ったじゃない」
「まだ1ヶ月以上あるんだから買えばいいでしょ。予算はまだあるんでしょうに」
「なんでこんな何やってるか分かんない部活に予算を使わなきゃいけないのよ!」
「あなたも社会に出れば分かるわ。職業に貴賤無し、よ」
「文芸部は職業じゃないでしょ!」
文芸部の中で珍しく、激しい言葉の応酬が行われている。
文化祭実行委員長の真中 さんが部室の引き戸を開けてから、ずっとこの調子である。でも、具体的な単語 が出てこないから、何で揉めてるのか全く分からない。
ミイナは頬杖をつき、ふたりに冷たい視線を投げている。
「萌絵奈 さん、この人たち何の話をしてるんですか?」
「さあ? 本人たちも分かってないんじゃないかな」
萌絵奈の言葉に、言い争うふたりが同時にこちらを睨 む。
『そんなわけないじゃない!』
こいつら、ハモった!
「じゃあ、何の話で言い争ってるんですか?」
輝羅が大きく息を吐 く。
「長机の話じゃなくて?」
ボブカットで可愛い真中さんは口をあんぐりとさせ、よろめきながらデスクに手をつく。
「電子ピアノのことよ。長机は十分に在庫あるからね……」
この人たち、10分も関係ない事で言い争ってたのか。出来の悪いコントみたいだ。
「輝羅 さん。電子ピアノなんて、何に使う気だったんですか?」
「萌絵奈はピアノ弾けるから、霧子のベースと一緒に弾いて呼び込みしてもらおうと思って」
うーん。真中さんが正しいな。この部活のためにピアノの在庫を増やす必要は無い。というよりもまずその呼び込みが必要無い。
ミイナは納得して頷 いた。なんとなく分かっていたけど、輝羅はバカなのだ。
「バ……輝羅さん。真中さんの言う通りですよ。文芸部にピアノは必要ありません。諦めましょう」
「嫌だ!」
真中とミイナが同時に目を大きく開く。駄々っ子の幼稚園児を見るような醒 めた視線が輝羅に向けられる。
「ちょっと篠崎 さん。輝羅に言ってよ。文化祭中にピアノなんて弾きたくないでしょ」
「えー。暇だからピアノ弾いてても良 いんだけどなぁ」
「やめてください萌絵奈さん。さらに混沌 な状況になりますよ」
輝羅が指をパチンと鳴らす。まずいぞ、バカが勢いづきやがった。
「決まったわね。本人がやりたいって言ってるのよ。文化祭実行委員会はそれを尊重すべきでなくて?」
「くっ! 卑怯だぞ輝羅! 篠崎さんを味方につけるなんて……」
あれ? もしかして真中さんも?
「仕方ない。この話は私が預かるよ。次の委員会で議題にあげてみる」
「よろしくね、真中。頼りにしてるわよ」
真中さんは口の端をあげて、部室と、さらに生徒指導室を出て行った。もしかすると、この学校は未知のウイルスに侵食されているのかも知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それはさておきゲーム作りだ。文化祭で1人5分くらいで面白いと思ってもらえる、パンチの効いた単純明快なゲームを作りたい。
今は、画面端で揺れながら靴を発射するキャラクターがいて、池に落ちないようにキャッチすると、中央で取れば取るほど、タイミングが良ければ良いほど、得点が大きくなる仕様だ。
正直面白くはないが、もっとブラッシュアップしていけるはずだ。
「でも、いまいち面白くなりそうな気がしないのよ。萌絵奈、何か良い案はない? 芸術家志望ならそういうヒラメキも必要でしょ」
「ヒラメキ、ねぇ。素人ながらだけど、今のゲーム画面には華 が無いよね。3Dにしたら? ちょっとは格好がつくんじゃないかな」
ミイナが唸 った後 、手を挙げて言う。
「今から3Dは厳しいと思います。モデルデータをどっかから引っ張ってくるか、自分で作らなきゃいけないので」
輝羅がホワイトボードに「3D」と「無理」を書き込む。だから、やらないならその言葉は書かなくてもいいでしょ。
「まあ、所詮5分遊ぶだけだからね。そんな壮大なものを作る必要はないわ。身の程をわきまえることね」
自分に言ってる? やっと気付いたのか。
「分かったわね、下村ミイナ。ひとまず完成を目指すわよ」
「あたしに言ってたんですね。はいはい、頑張ります」
ホワイトボードに「完成」「目指す」が書かれた。もう、ホワイトボードいらないだろ。
不毛な会議をしていると、引き戸を開けて霧子 が入って来た。
「霧子、遅いわよ。大事な会議に遅れるなんて、相応の理由があるんでしょうね」
「あるわよー。課外授業で保育園に行って来たのよ」
「ああ、今日は霧子のクラスか。授業なら仕方ないわね」
霧子は色紙で作られたメダルを置く。
「それ、何ですか?」
「昔懐かしの輪投げ大会をしたのよ。間違えて優勝しちゃって、子供にあげるはずだったメダルを私が頂いちゃったの」
鬼畜だなぁ。ん? ……メダル……優勝……。
「決勝は子供たちが前に立って邪魔してくるから、逆に本気になっちゃったのよねぇ。非難轟轟 だったわ」
邪魔!
勢いよく立ち上がり、ミイナはホワイトボードに「邪魔」「順位」「メダル」を書き込む。
言葉を見た輝羅の目が輝き、彼女は感嘆の声を上げた。
ミイナは言葉をそれぞれ丸で囲み、振り返って笑顔で言う。
「これです! きっとこのゲームは面白くなりますよ!」
「こっちはちゃんと申請したのよ。文句言われる筋合いは無いわ!」
「だから、アレは在庫が足りないから貸せないって言ったじゃない」
「まだ1ヶ月以上あるんだから買えばいいでしょ。予算はまだあるんでしょうに」
「なんでこんな何やってるか分かんない部活に予算を使わなきゃいけないのよ!」
「あなたも社会に出れば分かるわ。職業に貴賤無し、よ」
「文芸部は職業じゃないでしょ!」
文芸部の中で珍しく、激しい言葉の応酬が行われている。
文化祭実行委員長の
ミイナは頬杖をつき、ふたりに冷たい視線を投げている。
「
「さあ? 本人たちも分かってないんじゃないかな」
萌絵奈の言葉に、言い争うふたりが同時にこちらを
『そんなわけないじゃない!』
こいつら、ハモった!
「じゃあ、何の話で言い争ってるんですか?」
輝羅が大きく息を
「長机の話じゃなくて?」
ボブカットで可愛い真中さんは口をあんぐりとさせ、よろめきながらデスクに手をつく。
「電子ピアノのことよ。長机は十分に在庫あるからね……」
この人たち、10分も関係ない事で言い争ってたのか。出来の悪いコントみたいだ。
「
「萌絵奈はピアノ弾けるから、霧子のベースと一緒に弾いて呼び込みしてもらおうと思って」
うーん。真中さんが正しいな。この部活のためにピアノの在庫を増やす必要は無い。というよりもまずその呼び込みが必要無い。
ミイナは納得して
「バ……輝羅さん。真中さんの言う通りですよ。文芸部にピアノは必要ありません。諦めましょう」
「嫌だ!」
真中とミイナが同時に目を大きく開く。駄々っ子の幼稚園児を見るような
「ちょっと
「えー。暇だからピアノ弾いてても
「やめてください萌絵奈さん。さらに
輝羅が指をパチンと鳴らす。まずいぞ、バカが勢いづきやがった。
「決まったわね。本人がやりたいって言ってるのよ。文化祭実行委員会はそれを尊重すべきでなくて?」
「くっ! 卑怯だぞ輝羅! 篠崎さんを味方につけるなんて……」
あれ? もしかして真中さんも?
「仕方ない。この話は私が預かるよ。次の委員会で議題にあげてみる」
「よろしくね、真中。頼りにしてるわよ」
真中さんは口の端をあげて、部室と、さらに生徒指導室を出て行った。もしかすると、この学校は未知のウイルスに侵食されているのかも知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それはさておきゲーム作りだ。文化祭で1人5分くらいで面白いと思ってもらえる、パンチの効いた単純明快なゲームを作りたい。
今は、画面端で揺れながら靴を発射するキャラクターがいて、池に落ちないようにキャッチすると、中央で取れば取るほど、タイミングが良ければ良いほど、得点が大きくなる仕様だ。
正直面白くはないが、もっとブラッシュアップしていけるはずだ。
「でも、いまいち面白くなりそうな気がしないのよ。萌絵奈、何か良い案はない? 芸術家志望ならそういうヒラメキも必要でしょ」
「ヒラメキ、ねぇ。素人ながらだけど、今のゲーム画面には
ミイナが
「今から3Dは厳しいと思います。モデルデータをどっかから引っ張ってくるか、自分で作らなきゃいけないので」
輝羅がホワイトボードに「3D」と「無理」を書き込む。だから、やらないならその言葉は書かなくてもいいでしょ。
「まあ、所詮5分遊ぶだけだからね。そんな壮大なものを作る必要はないわ。身の程をわきまえることね」
自分に言ってる? やっと気付いたのか。
「分かったわね、下村ミイナ。ひとまず完成を目指すわよ」
「あたしに言ってたんですね。はいはい、頑張ります」
ホワイトボードに「完成」「目指す」が書かれた。もう、ホワイトボードいらないだろ。
不毛な会議をしていると、引き戸を開けて
「霧子、遅いわよ。大事な会議に遅れるなんて、相応の理由があるんでしょうね」
「あるわよー。課外授業で保育園に行って来たのよ」
「ああ、今日は霧子のクラスか。授業なら仕方ないわね」
霧子は色紙で作られたメダルを置く。
「それ、何ですか?」
「昔懐かしの輪投げ大会をしたのよ。間違えて優勝しちゃって、子供にあげるはずだったメダルを私が頂いちゃったの」
鬼畜だなぁ。ん? ……メダル……優勝……。
「決勝は子供たちが前に立って邪魔してくるから、逆に本気になっちゃったのよねぇ。
邪魔!
勢いよく立ち上がり、ミイナはホワイトボードに「邪魔」「順位」「メダル」を書き込む。
言葉を見た輝羅の目が輝き、彼女は感嘆の声を上げた。
ミイナは言葉をそれぞれ丸で囲み、振り返って笑顔で言う。
「これです! きっとこのゲームは面白くなりますよ!」