第16話 コンテスト

文字数 1,828文字

「ゲームの開発コンテスト、ですか」

 パンフレットをパラパラと(めく)るミイナの問いかけに、高島先生が椅子を回転させて振り向き、黒縁眼鏡をクイッと上げる。

「そう、高校生の部のエントリーならまだ受け付けてるし、提出期限は3か月後だから一応時間もある。ただゲームを漫然と作るより、目標があると()いものを作れるんじゃないかな」
「分かりました。持ち帰って、輝羅(きら)たちと考えます」

 職員室を出て、廊下を歩く。パンフレットを読むと、前回の入賞作品の画面が印刷されていた。3Dの作品が多いし、パッケージで売れそうなレベルの作品ばかりに見える。こんなの作れるのだろうか。

 生徒指導室の引き戸を開けると、3年生の担任と女子生徒が面談していた。気まずい雰囲気の中、軽く会釈してもうひとつの引き戸を開け、滑るように文芸部の部室に入った。

「高島先生、何だって?」

 輝羅がいつも通りの大きな声で聞いてくる。
 ミイナは輝羅に向かい、人差し指を口の前に上げ、静かにするように命じる。

「大丈夫よ。引き戸がちゃんと閉まってれば、あっちに音は漏れないから」
「そう? ていうか、生徒指導室の前に使用中の札入れを付けた方が良くない?」
「そんな物があったって、私たちはそこを通らなきゃいけないんだから。嫌なら他の場所で面談しろって思うわ」

 相変わらず最強かよ。これが野放しになっているこの学校、すごいな。

「ミイナちゃん、それ、何のパンフレット?」

 レザークラフト中の萌絵奈(もえな)がミイナに問う。

「ゲームコンテストの募集要項です。今はエントリー受付中で、12月いっぱいまでが作品の提出期限みたいです」

 答えて、ちらっと輝羅を見やる。彼女は手の甲を(あご)に当てて、目を(つむ)って何やら考え始めたようだ。
 アコースティックベースを鳴らしていた霧子(きりこ)が、ミイナの置いたパンフレットを(めく)り、へえ、と興味深そうな声を上げた。

「霧子さん、ゲームコンテストに興味あるんですか」
「音楽も審査対象ってなってるね。ちょうどDTM始めたから、BGMを作ってみたいなと思って」

 輝羅が指をパチンと鳴らす。

「音ゲーってのもありね。作ったこと無いけど」
「じゃあ、エントリーする? このエントリー用紙を書いて先生に持ってけば応募してくれるって」
「そうね……まあ、具体的な事は後で決めるとして、エントリーだけでもしようかしら」
「大まかなジャンルを書かなきゃいけないみたい。音ゲーにするの?」

 輝羅は霧子と一緒にパンフレットを眺める。

「2次選考に受かったらオンラインでプレゼンテーションかぁ。15分くらいでひと区切りつくようにしろって書いてあるわね。15分……」

 萌絵奈が笑顔のまま、目を細めて言う。

「プレゼンテーションを15分もするのなら、それ相応の内容がないといけないでしょうね。前に英語のプレゼンテーション大会に出た時は、英語を喋ることよりも内容を考えることの方が大変だった気がするわ」
「萌絵奈さん、英語喋れるんですか」
「a little bitね。その時は原稿読むだけだったし、大したコトないわよ」

 霧子がミイナの耳元で(ささや)く。

「萌絵奈、県大会で優勝したけどね」

 どうしてコイツが文芸部にいるんだ。誰か答えてくれ。

 ひとまず、エントリーは月末なので、今週いっぱいでジャンルを決めることになった。それぞれアイデアを考えて、3日後の金曜日の部活で発表する。
 ごちゃごちゃと話してたら、もう帰宅時間になってしまった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ハンバーガーを頬張りながら、大きな窓の外を眺めて輝羅が言う。

「ホントはそういうのに出すために、あのRPGを作ってたんだけどね」
「じゃあ、あれを3Dにして出す?」

 ミイナもハンバーガーにパクつく。最近は輝羅と一緒に夕食を食べてから帰ることが多い。おこづかいの範囲で、なるべく一緒の時間を過ごすようにしている。

「正直言って面白くないんだよね。ただ、それっぽいだけで。例えば、15分くらい暇ができたとして、あれで遊ぼうとは思わないわ」
「そうかぁ。そうだよね。ただ動くだけじゃダメなんだ。他の色んな誘惑の中で、それをやろうと思えるようなものじゃないと、か」

 ふたりは同時に溜息を()く。タイミングの良さに、目を見合わせて笑う。
 ふたりのタイミング……。

「あたし、ちょっと(ひらめ)いたかも……」
「いいじゃない。私も面白い企画、考えるわ。金曜日に勝負ね」

 ふたりは拳と拳を当てて健闘を誓う。こうして、文芸部のゲーム作りは再始動したのであった。
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