第41話 合わせ鏡
文字数 2,205文字
出迎えの中に懐かしい顔があるのに気付いて、歓声を上げた。
「まあ久しぶり!なんて嬉しいの」
久々に会う女家令はより美しくなって、これは女皇帝が嫉妬するというのも頷ける。
「雪様!お変わりありませんこと!私もずっとお会いしたくて。・・・この子たちはお役立ち出来ているでしょうか?」
「えぇ。とってもお利口さんで助かっているのよ。こちらの皆さんからも大人気なの」
「そうでしたか。よかった。やっぱり私の適切な指導がいいものですから」
ぎゅうぎゅうに押さえつけられ怒鳴りつけられた記憶はあるが、適切な指導かは怪しいところだと
「・・・あら、雪様。こちらは?」
「あ、そうだった。ファーガソンさんよ。公邸の昼食会に送迎してくださったの。コリン、この可愛らしい子は、
「ファーガソン様。ご紹介預かりました家令の
コリンは新たに現れた美女に少々ドギマギしながらも愛想良く挨拶をした。
「これはようこそ。ああ、針葉樹の森にいる小鳥ですね。子供の時によく見かけました」
「まあ、その頃に貴方にお目にかかっておりました小鳥が羨ましいですこと」
出た、これ。と蜂鳥と駒鳥がまた顔を見合わせた。
宮廷でもこの姉弟子はこんなわかり切った色目を使ってよく紳士を
そして彼らは面白いようにコロコロと転がされるのだ。
しかし、コリンは意味を分かりかねている様子で他にも子供の頃に見かけた鳥や蛙がどうのこうのと話を始めた。
コリンが帰り、
「もう!雪様、なんですか、あの男!鈍いったら無いわ!この国はあんなのが本当に宮廷にお仕えしているんですか?」
自分の魅力、つまり色目が通用しなかったと
「そうですよ?信じられないでしょう?だって、貴女みたいな小慣れた女性もいないんだもの。こないだなんて、駒ちゃんがある女性を詩の引用をして褒めたら、その方、感激して泣き出してしまったのよ。なんてピュアで可愛らしいの」
「・・・その女性、何の詩かもわからない程の無教養ぶりでしたけどね。
「パクリじゃなくて、それが引用だろうよ」
「雅や粋を解さない、なんて粗野な連中の社交界でしょう!」
宮廷育ちからしたら、信じられない野蛮さだ。
「昔はもう少しは気が利いたものでしたけど。そんな方は皆、死んじゃったのね。朴念仁のカスやクズしか残らないなんて国の不幸だわ!・・・え?嘘・・・。アンタ、お茶なんかいれられるの?」
「姉上、
テーブルにカップを置いた
女家令は、自分が何年もやって、ついぞ習得出来なかったのに、と悔しそうに弟弟子を睨んだ。
「雪様。・・・ご無事でお過ごしのようで安心致しました。まさか高貴なる人質に目をつけられるなんて・・・」
「・・・大変だったの貴女方も。・・・こちらに来た時にね、あの三叉路を通ったの。やっぱり、怖かったわ」
この女性があの三叉路で失ったものの大きさと重さを、自分もまた痛感して来た年月だった。
「貴女は、何より自分の一部、半分を失ったようなもの。・・・でもね、その生き方はいずれ貴女が苦しくなるわ。あなた、
え?!と
美貌の女家令はちょっと驚いた顔をしてから、頷いた。
「やっぱり。うちの母と叔母も双子でしょ。ほら、以前、私は帰国出来ない、母は国を出れないで。叔母は自由な立場だったから、あの人達、ちょくちょく入れ替わってたのよ。全く都合良いんだから」
母と叔母は、各々の個性と権利を認めよと主張する割には、お互いを便利に使っている。
「
「え?じゃ、亡くなったのは、
「そう。まあ、家令だし、どっちが死のうが国にとったら大した物損じゃないだろうけどさ。私達には問題大有りなわけよ」
姉弟はびっくり仰天のまま話を聞いていた。
「な、なんでですか?」
「
「な、なんでですか?」
この姉弟子は、そんなに
「多分、雪様と同じ。・・・雪様、以前一度こちらに来てますね」
え?と姉弟がまた驚いた。
「・・・そうね」