第4話 夜行性の鳥
文字数 2,941文字
とすっかりしょげ返った
「
そもそもこの姉弟子にも責任がある。
「姉上、なんであんな台風の日に
「高波がどれほどのものか見たいって、ちょっと目を離したら車から飛び出して行ったのよ。そもそもアンタが言い争いをしたからでしょ。原因はアンタよ」
はあ、と
「いつも以上に公務も内務もお勤めだけど。
食べたくない、眠れない。
女皇帝はすっかり
「やっぱり
典医の
「・・・本人が嫌だって言ってる。水と塩飴でも置いて置けばまあ大丈夫でしょう」
特に
昨日は勢いよく大きな赤い牛の置物が頭にぶつかって、額にでかいたんこぶが出来た。
「・・・
弟弟子を責める口調で姉弟子が呟いた。
こっちが気の毒すぎるだろ!!
来ないはずの台風がガクンと直角に曲がり、直撃した。
「お前はなんて薄情な家令なんでしょう。皇帝陛下に害を為すなんてもはや背信罪よ。亡き
「
「
などと言われ放題だ。
その上、当の蛍石からは、いまだ花瓶や本を投げつけられる。
横殴りの風雨の中、
見た目重視で買った車高の低い輸入車は、今や半分ほど水に浸かっている。
「あ!水入ってきた!嘘だろ、もう!」
ついに車内に浸水し、このまま
ザブザブ水が入ってくる。
「
どこからが海でどこからが道なのかわからない中、歩き出した。
「こんな台風の日に、変わってるー。やっぱり夜行性だから夜来たの?」
夜間ずぶ濡れで現れ、玄関先に
「
「・・・いや、大丈夫です」
タオルを出して貰い、拭いたからだいぶいい。
「でも、ベタベタよ?磯臭いし。浜に落ちてるワカメみたいな臭いする」
「雪ちゃん、内陸の人はわからないのよ。沿岸の台風って水かぶるとだいぶ海水なのよね」
「車もきっと廃車ね。・・・あの車、バカみたいに高いのよ?性能は普通以下。特に
「えー、勿体無い!そんなポンコツ、わざわざ誰が買うの?」
だから、こういう人よ、と
ここの家もだいぶ言葉に
「・・・何ぶん、台風の日に海にいることがなかったもので」
ありがたく風呂を使わせて頂くことにした。
落ちつき、お軽食でもとやたらうまい
「で?何しに来たの?なんで何回も来るの?」
と自分も2回目の夕食となる蕎麦を食べながら残雪が尋ねた。
「はあ。もう、こうなってみては、申し上げます。お願いに参りました。陛下が
「まあ、ご体調お悪いの?」
双子が顔を見合わせた。
「ここ1週間程、食事も召し上がらず、お眠りにもならずにおられます」
「大変。それ大病じゃないの」
「お城には優秀なご典医がいらっしゃるし、あなたという方がおられるんだから、まあ大丈夫でしょうけど」
その典医は、いよいよになったら点滴ね、だし、自分は、水と塩飴という手段の無さだが。
「静養として離宮に移られるタイミングで、一度いらして頂けませんか」
うーん、と残雪は頷いた。
「正直な話ね、何から何までよくわかんないけど。あなた、変わってるんじゃなくて、大切な方の為に一生懸命なのね。じゃあ、お見舞いに行こっかな」
「・・・ありがとうございます!!」
生成りの麻のワンピース姿で残雪がお辞儀をした。
「ごきげんよう、陛下。
やつれた蛍石が、感激し頷いた。
「えぇ。ようこそー・・・。よくいらしたわね」
言いながら、水をごくごく飲んでいる。
「まずは。先日を危ないところを、ありがとう」
「はあ、いえ、ご無事でよろしゅうございました。お怪我は召されなかったとお聞きしましたが、ご体調が優れないとのことですね」
「うん、そうなの。いきなりガックリ来てしまってね・・・」
うっとりと見つめている。
「あら。まあ、ほら、お座りなさい」
言われて、
継室候補群の生まれではあるが、こうして皇帝と対面する機会などはそうない。
母と伯母によると、彼女達も遠い昔に宮城での園遊会で当時の女皇帝にお菓子を賜って、同じ顔で面白いから近くで食べなさいと言われて、近くと言う割には結構離れた席で桜餅を食べたという記憶しかないらしい。
やはり廷臣と言えども王族とは心理的にも物理的にも距離があって然るべきという事だろう。
だからこそ、皇帝と家令の距離の近さには驚く。
「それ。かわいらしいこと。星?」
胸元の紫と水色のブローチ。
「ヒトデです」
「・・・ヒトデ?」
「はい。本物のヒトデのブローチなんです」
「本物の?」
残雪はブローチを取ると、どうぞと手渡した。
「ヒトデってこういうものなの?初めて見たわ。これが、どこにいるの?」
「海の底ですよ」
「魚なのに?」
「ヒトデは魚じゃありませんから、岩にくっついてたり、底に沈んでたりするんです」
「まあ、そう」
大分おかしな会話なのだが、蛍石は嬉しそうで。
また来てくれる?と尋ねると、残雪はハイと答えた。
残雪が離宮を辞した後、しばらくソファでぼうっと幸せを噛み締めていた
「また来週来てくれるって。・・・いけない!私、肌もカサカサだし、髪もパサパサ!」
いきなり元気になったようでとりあえずは良かったと
「何、ボヤッとしているの?お前もよ!あのオパールを急いで指輪にしなくちゃ!・・花!お花も注文しなさい!」