第20話 春雷
文字数 2,584文字
遠くの方で雷鳴が聞こえた。
春雷の声を聞き、春になったのだと
海外遠征中の
数日後には夫と恋人はきっと山のように土産を持って帰って来るだろう。
子供達は、帰って来るのが楽しみだと朝な夕なに言い合っていた。
実家の海外にある別荘に似た作りにしたくて、周りは果樹園になっている。
すぐ窓の向こうで、子供達のはしゃぐ声と水しぶきの音がする。
まだ肌寒いのに水遊びかと
「ママ、お腹が空いた」
「春は食前食後にご飯食べるのねぇ。おにぎり作って来るから食べよっか」
頷くと、娘はまた小川に戻って行った。
子供達の頭数を数えるなら5個。
いや、まるで子グマのように食べるから15個か、と立ち上がった。
「失礼します、雪様」
静かな声で
ちょっと私、子供達に食糧あげてくるわ、と言おうとして、異変に気付いた。
いつも思慮深い家令だが、いつもより更に抑えたものを感じた。
「どうしたの」
聞きながら、ああ、と思った。
どれだ。どれだ。
事態はどう転んだ。
何でも言え、どんな悪いことでも。
そういう顔をされて、
「1時間程前に、陛下のお乗りあそばされた馬車が襲撃を受けたそうです。
どうか助かってと思いながら、同じだけの絶望感が押し寄せて来る。
「
「20分前に心拍が止まりました」
残雪は苦労して呼吸しながら頷いた。
「家令は・・・?双子と、
随行した家令はどうなった。
「
「・・・やっぱり、あなたがついて行けば良かった・・・」
子供達と
この優秀な医師が同伴すれば、皆、助かったかもしれない。
「いえ。雪様、直近で爆破したのです。同じ馬車に乗っていた
そう断言されて、
「
心は張り裂けそうであろうに、泣き出すでも取り乱すでもない
「・・・10日です、残雪様」
皇帝が死んだら、10日で全てが決まる。
良いことも悪いことも。
そのうちに全てしなければならない。
「次の皇帝は何事もなければ、
皇后と
そしてもうその二人はここには居ない。
残された自分達に刃が向く事など、火を見るより明らかだ。
「・・・
「
「
「・・・薄情な家令の事とお笑いくださいまし。私も
私、家令ですから子供ってどうやって育てたら良いかわかりませんもの、と以前言った時、私だってよく分からないけれど、きっと可愛い可愛いって育てれば良いのよ、と
「
「適正充分。困ったものです。・・・雪様、
穏やかに微笑むと、残雪は窓に身を乗り出し娘と太子を呼び寄せた。
1人づつ持ち上げて、部屋に入れる。
手早く
「ママ、なあに?」
「海のそばのおうち覚えてる?去年行ったでしょ」
「これから行くのよ。銀ちゃんも」
太子が見上げた。
「春ちゃんと?」
「そうよ。私と、春と。・・・銀ちゃん、海に行きたいと言ってたじゃない?海行こう」
残雪がそう言うと、子供達は嬉しそうに頷いた。
逆半球にある
母の双子の妹の
母にそっくりで、娘である自分にも見分けがつかないほどだ。
「大変だったわね」
そう言われ、
「
娘から短い知らせを受けた両親によって、女皇帝と総家令の客死は、限られたギルドの人間達に知らされた。
守れるものはなるべく多く守る為に、彼等は奔走している事だろう。
それは、王族以下、元老院も家令も同じ事。
「当たり前だけど、報道もないし宮城から何の知らせもないわ」
皇帝が死んだことを、知らせるまで知られてはならない。そういう慣習だ。
その間に知った者のみ、爪を研いでいた者は動くし、また、隠したいものがある者はそうする。
そして、それを防ごうとするものも動き出す。
まずは、今現在、小太子と娘、そして自分の命と安全を守らねばならない。
この子達を守る為に、自分と
いくつもの辛い別れを想定した対策。
訪れたのは、一番考えたく無い最悪のものだったけれど。
まだ、崩れ落ちるわけにはいかない。
夫と恋人と約束をしたのだから。
この先長くなるだろうこの地での生活において、穏やかな性格のあの犬は子供達の良い遊び相手になってくれるだろう。
「きっとお庭にいるわよ」
庭へ続く扉を開けて子供達を誘導しながら、