第45話 逢魔
文字数 2,453文字
「・・・・ああ、ええと、夜分に大変な無礼を・・・。・・・どうか、そんな目で見ないでくれ・・・」
若い女性に、変人とか気持ち悪いとか思われるのが堪える年頃なのだとコリンは言った。
「いや、あの、実は明日から遠方に向かう事になってね。・・・雪に渡して・・・、ああ、いや、自分で渡す。そしたらすぐお
「・・・もう休んでおられるか。・・・もしかして外出・・・?」
答えず
「・・・ファーガソン様、もし、私共の
何を言い出すのかとコリンは戸惑った。
「・・・囚われる、と言うのは・・・それは、こちらでの我々の待遇が不満という事だろうか。確かに、ご不自由はさせていると思う・・・。それは、勿論、善処すべきところは・・・」
違う、と
「家令と言うのは。宮城に関わる仕事に
当然ではあるが、コリンはその実態は掴みかねる様子であった。
「軽く知っている程度の知識はあるが、当然、充分には理解していない。しかし、知る事と、尊重する事は出来るつもりだ」
「どうぞ。こちらへ」
二階へ続く階段へと誘った。
二階は残雪の私室になっているらしい。
照明を絞ってあるが、柔らかなペールベルーの地に
コリンは、夜間でもあり、何より女性の私室だと戸惑ったが、構わず
ゆっくりとした話し声が聞こえた。
大きなソファで男が
もう1人、女が
誰なのか。
どう見ても、親しい、かなり親しい関係。
しかし、こんな場に居合わせるとは。
2人が愛し気に抱き寄せるのは、
何かを囁いては、
2人の男女は全くこちらに気がつく様子もなく、残雪を交えて睦み合っていた。
その様子が幸せそうで、官能的で。
それを見つめる蜂鳥の目がどうにも切なかった。
蜂鳥はパーテーションの陰にコリンを誘導して、一度目を伏せてから、
薄いガラスがパリンと割れる音がした瞬間、空気が変わり、2人の男女の姿は消えていた。
コリンは驚いて、声も出なかった。
「雪様、申し訳ありません。私、壊れ物を作ってしまいました。片付けておきます。・・・ソファで寝てはお体に障ります。ベッドにどうぞ」
「・・・あらまあ、私、またソファで寝ていたの。何か割れたの?危ないから、私がやるわ」
「いいえ。ちょっとしたものですから。大丈夫ですよ」
「そう。手を切らないようにね。痛くなってはかわいそうだわ」
「おやすみなさいませ、雪様」
手が冷えていた。
コリンは、信じられない思いで自分の手を眺めた。
冷えて強張り、わずかに震えていた。
「・・・・どうぞ」
一気に流し込むと、体に熱が広がった。
ほっと安堵し、じわじわと感覚が戻っていくのが分かった。
「・・・
「あの方たちは、
「・・・・それは、亡くなった方々だ・・・」
「はい。私の父が見届けました」
「父?」
「私の両親は、
「幽霊とか、そういう類のものという事か・・・」
「はい」
美貌の女家令が美しく微笑み、断言した。
なぜ笑うのか。
「・・・こんなことが本当にあるのか・・・。あの、グラスを割ったのは?」
「あれはまあ、ちょっとした儀式、おまじないのようなものです。何か音を立てたり、火をつけたり。場の空気を変えるためのもの」
コリンには理解できない事を言う。
「・・・私は愛しい方たちの逢瀬を邪魔した事になりますね」
悲しそうに言う。
前総家令と雪はわかるが、あの先の女皇帝はどうなのだ。
女皇帝は、総家令と愛人関係だったと聞いていたのに。
しかし、実際の関係は良好であったと
「雪様は、
コリンは動揺を越えて絶句した。
確かに、先ほどの場面は、
では、
親の代から仕えた皇帝の恋人を、兄弟子の妻だった女を、奪うなと言いたいのか。
「いえ。もし、この事を踏まえた上で雪様をお望みになるなら、どうかあの方をお助けくださいませ。・・・