第4話

文字数 1,507文字

作品4 作品名 
『約束』

 私は初夏の心地好い微風に身をゆだね、朝の光の中をゆっくりと歩いていた。
 今朝の朝食で食べたフレンチトーストの出来に満足し、お気に入りの木陰で一時を過ごした後、古い街中の壁画に描かれたアート作品を眺めていた。

 私達は成長を終え、解放された世界に生きていた。
 約百年前の朝の通勤ラッシュと言われていたものは、私達の想像を遙かに超えたパニック状態だったという話だ。

 世界地図が一夜にして様変わりしようとした、その時、人類は数千年の間、続いてきた利権、権益を手放したのだった。

 国籍、人種、民族、宗教、思想に関わらず、この地上に住む全ての人々は大自然の節理がもたらす恵みと人類の英知の恩恵を得る事が出来た。
 それは、この世に生を受けたもの全てに約束された決まり事だった。

 私達人類はエデンの園を手に入れた時、多くの者達は百年以上前までの人々を苦しめた、過度の欲望や執着心との訣別に成功した。
 求める者の努力は報われ、何も持たない者も全てを持っていた。
 それは、有史以前の15000年前に私達人類の原点に立ち返った姿だった。
 今、私達人類は再び、目に見えない大切なものを信じる事が出来るようになった。

 家族と仲間だけで必要な分だけの経済活動をして、仲間達と収益を分かち合う。

 一年の半分の時間を家族と共に過ごすのだ。

 かつて、森の中のホテルに集まった、世界中の資産家達により作られた自由経済の秩序に従って、世の中は動いていた。

 グローバル資本の経済システムが完成した時、人類は二つのグループに分かれた。

 一つ目のグループはグローバル資本の経済システムに属さない多くの人類だ。
 彼らは、少人数のコミュニティー内だけで生計を立て、何世代にもわたって、そのコミュニティーの中だけで一生を終える。
 短い人生を生きる事が目的であり、一族が寄り添い、幸せな生活を全うしている。

 もう一つのグループはグローバル資本の経済システムに属する人々だった。
 彼らは、産まれて直ぐに借金をした。
 そして、生命保険に加入して、多くの機械を購入した。
 育児は勿論、家事は全て、機械がこなした。
 仕事も機械任せだった。
 彼らの経済圏の産業は全て、機械が行い、人々は芸術にいそしみ、快楽を満喫した。

 彼らの中で、最初の革命が起きた。
 一部の資本家のトップの人々がグローバル資本の経済システムに属さない、少人数コミュニティーの人々全てを暴力で従わせ、自分達の経済システムに組み込もうとした時に起こった。
 反対運動と共に、資本主義は成長する事を止め、小さなコミュニティーの人々の生活は守られたのだった。

 第二の革命は、最初の革命の直後に起こった。
 資本を独占する者が倒れ、この経済圏で暮らす人々全てが収益を分かち合う資本家となった。
 世界の資本が1つになった時に、一人の人間が資本を独占する事が出来なくなったのだ。

 第三の革命は、器から漏れる水滴のように静かに起きた。
 何不自由なく、芸術と快楽を満喫していたはずの人々が、小さなコミュニティーで暮らす人々の後を追うように、完璧なはずの社会システムから逸脱し始めたのだ。

 短い人生を、ただ生きるだけが第一の目的として、一族が寄り添い、尊敬しあい、神の恵みに感謝する世界へと旅発って行った。

 明日から私達家族も、この機械に囲まれた社会システムから抜け出し、森の中の小さなコミュニティーに属する事となる。

 引っ越しの荷物は何もない。
 その世界へは、ただ朝日の昇る方角に歩いて行くと辿り着くという。

(了)

1415文字
※あらすじ
命あるもの全てに、約束された世界へと、たちかえる人類。

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