第5話

文字数 890文字

作品5 作品名 
『物語り』

 二人は時空を超えて、再び出逢う。はずだった。
 少なくとも、物語りとは、そういうものだ。

「いっやぁ~。父上様、お願いで御座います。おやめください」
 父親は娘の願いを聞き入れる事無く、娘の恋人の男を処刑した。
 身分違いの二人の恋仲が、世間の知るところとなり、男に罪をかぶせ、殺したのだ。
 父親にとっては、常識的な最善の判断だった。
 娘は父親の常識を受け入れる事が出来ずに、自らの命を絶った。
「必ずや、私の御霊は、あの方の御霊と結ばれる事でしょう」
 娘の最期の言葉だった。

「博士、霊魂の正体を解明したと言うのは本当ですか」
「あぁ、そうとも。つまりは暗黒物質の波長なんだよ。人間の念によって、素粒子に影響を与えるのと同じエネルギーなんだ。これこそが宇宙の誕生や生命の根源とは何かを説明できる真理なんだ。我々が霊魂と呼んでいる物も、れっきとした物質だ。人間の強い念がエネルギーとなり、暗黒物質と素粒子に影響を与えた結果なんだよ」
 研究室では、世間が幽霊と呼んでいる現象の解明に取り組んでいた。
 今や世界各国が予算を注ぎ込む、大プロジェクトである。
 博士が特殊な波長の電波を流すと、かすかに女の声が聞こえた。
「必ずや、私の御霊は、あの方の御霊と結ばれる事でしょう」
 パチンッ。
「あぁ。また、消えてしまった。霊魂を発見する事は出来るが、どうしても捕獲できない。直ぐに消滅してしまうなぁ」


「あぁ。また、成仏してしまった。まったく、最近の人間達は、すぐに、霊魂を成仏させてしまう。近頃じゃ、悪霊も祟り神も創れやしない。
 何しろ、墓は勿論、神社や仏閣でさえ、魂の一つも残っていない抜け殻だらけだ。霊界の魂も殆んど居なくなってしまった。これからは人間界の現世ではドラマチックな物語りも無くになり、魂が生まれ変る事も無い。
 今の人間達は、物語りが始まる真理を理解していない。もう人間も、お終いだな」
 神様の嘆きの一言は、人間界の終焉を意味していた。

(了)

807文字
※あらすじ
『生命とは何か』を解明しようとした時に、縁結びの神に見放され、物語りが起きなくなった人類。


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