第2話

文字数 948文字

作品2 作品名 
『ビニール傘法』

 始まりは一本のビニール傘を巡る裁判だったので、通称『ビニール傘法』と、呼ばれている。

 今から二十五年程前にМ氏が、突然の雨に降られた時に、路上に捨てられていたビニール傘を使用した。
 それを目撃した警察官がМ氏を詐取の容疑で捕らえたのだ。
 М氏は、
「このビニール傘は、所有者が不特定多数の人に使用して欲しくて放置したのだ」
 と、主張して、最高裁まで争う事となった。
 当然、М氏の主張は、通用しなかった。
 しかし、事件は公に報道される事になり、世論が動いた。

 その当時の時流がリサイクルと節約という風潮だった事も影響したのだろう。
「ビニール傘の所有権を放棄して、公共の物として誰でも自由に使用できる」
 そんな法律の立案をマニフェストにする政治家やビニール傘特区を掲げる自治体が現れた。
 そして、事はビニール傘にとどまらず、あらゆる物を共有する社会風潮が生まれた。
 問題は共有物への提供と称して、所有権を放棄する際に、故意に無用の物を不法投棄する犯罪行為が起きた。
 やむなく、役所に堅苦しい申請をして、許可を受けた物にシールを貼り、決められた場所に置かれた物は自由に誰でも使用出来るという内容の条例、『所有権の放棄に伴い、共有物として、申請する為の許可に関する条例』が作られて通達された。
 通称『ビニール傘法』の誕生である。

 それから20年程の間に驚くべき事が起きた。
『ビニール傘法』は、世界中に広まり、その内容は物だけに収まらず、ありとあらゆる権利を全人類の95%の人が放棄したのだ。

 金融商品は無くなり、貨幣が通用しない世界になった。
 殆どの会社は姿を消したが全てでは無かった。
 小さなコミュニティーが生まれ、協力し合って生きていた。
 自給自足が基本だが、それぞれの特色を持った共同体が会社のように活動していた。
 手作りのバイクを作る集団も有れば、薬を作る集団もあり、子供に教育してくれる人も大勢いた。
 皆、報酬を求める事がない。
 生きていくのに必要なものは、すぐに手に入ったからだ。
 
 人々は争う事が無くなった。
 勿論、戦争も起きない。
 戦争を起こす理由も無ければ、したくても出来ないのだ。

(了)

880文字
※あらすじ
所有権を放棄した人類の幸せな未来。
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