第12話

文字数 635文字

作品13 作品名 
『バーテンダー』

 そのバーテンダーの作るカクテルを飲んだ人は、魂に灯が燈るという。
 催眠術や違法の薬物を混入している訳ではない。
 そもそも、そのカクテルを飲んだ人達は、そのバーテンダーが居るBar.に、何故、自分達が立ち寄ったのかさえ、覚えていない。

 自分を見失い、街を彷徨い、吸い込まれるようにして、Bar.に入店し、気付くとバーテンダーが作るカクテルを飲んでいる。
 突然、夢から醒めたように自分を取り戻し、また街に帰っていくのである。

 或る晩、一人の青年がBar.に、入店してきた。
 バーテンダーの作るカクテルを飲んだ青年は、見失った道を見付けたかのように、輝いた眼で言った。
「僕、バーテンダーに、なりたいんです。この店でバーテンダーとして働かせてください」
 バーテンダーは微笑んで答えた。
「もう、この世に未練は無いんですか」

 沈黙した空間に、時を刻む振り子時計の音が続いた。

 青年の目の前には、カウンター越しに一人の男が居た。
 青年は、男にカクテルを作って差し出した。
 男はカクテルを飲み干し、満面の笑みで言った。
「いゃ~150年。150年ぶりにカウンターから出る事が出来たよ。世の中、随分と変わっただろうなぁ。どうなっているのかなぁ。楽しみだなぁ。じゃぁ。後継者が来るまでの間、後は頼みましたよ」

 男は、現在、流通していない古銭を何枚かバーカウンターに置くと街に出て行った。

(了)

568文字
※あらすじ
バーテンダーと客が入れ替わる。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み