第18話  カイルとオルリ・リードについて語る 2

文字数 2,296文字

 オルリとしては、リードとは関わりたくはない。
何かと絡んでくるオルリには辟易としているからだ。

 だが、カイルの様子だとリードが今回何かしたことは問題視する事なのだろう。
今までも何かと揚足を取ってきたリードだ。
カイルも気にはしてくれてはいたが、今回のように報告しに来ることはなかった。
いやな予感がする。

 カイルは恐る恐る尋ねた。

 「リードが何かしたのかい?」
 「ああ、そうだ。」
 「・・・」

 「地球に隕石がぶつかっただろう?」
 「それが、リードとなにか関係があるのか?」
 
 その言葉に、カイルは軽く(うなず)く。

 「まさか・・リードが?」
 「その、まさかだ。」
 「・・・」

 「ただ、リードは用意周到だ。
 証拠を残さないのは、さすが、とでもいうべきだろうな。」
 「まあ、彼は頭が切れるからね。」
 「奴を褒めてどうする!」
 「あ、まぁ、そう・・だね。」

 「ともかく、あいつを告発する確実な証拠がないので、告発は難しい。」
 「ああ、わかった、ありがとうカイル。」
 「すまんな。」
 「なんで君が謝るんだ?」
 「地球に関しては、研究の統括責任者の立場上、俺にも責任がある。
 リードの行動を見張るべきだった。」

 「いや、それはカイルが謝ることじゃない・・。
 でも、リードが本当にしたのかい?・・。
 自然に起きたこととも言えるだろう?」

 「確かに自然に起きないとは言切れない。
 小惑星帯の外れにある隕石が、地球に向かっても不思議ではない。
 だが、静止しているあの小惑星が引っ張られる要因が不明なんだ。
 引っ張られたとしてもだ、あの隕石が地球に衝突する確率はあまりに低い。
 それに地球に向った軌道が、計算されたかのように無駄が無い。
 このような事が実行できるのは彼奴(あいつ)ぐらいだろう?」

 「確かに彼なら簡単にできるだろうね。
 だからと言って彼を疑うのは・。」

 「いや・・、リードのことを調べてみたんだ。
 すると光粒子計算機に、あいつだと思われるログが残っていた。
 巧妙に隠しているが、隕石の軌道シミュレーションだ。」
 「・・・。」
 「俺は地球に衝突した時刻から逆算し、隕石が動き始めた日時を特定した。
 そしてリードのアリバイも確認したんだ。
 すると、リードはその頃、研究室にいたことが分った。」
 「・・・」
 「そして、隕石が動き始めた時刻、あいつ以外は研究所にいない。
 だが、彼奴が無空間装置の部屋に入ったという証拠がないんだ。
 部屋の入室記録、部屋の中と外の監視モニタ、部屋の生体監視装置にもな。
 そして、彼奴の研究室の記録には、彼奴が居た事を示してはいた。」

 「?・・、示してはいた、とは、どういう意味だ?」
 「その意味の通りだ。
 巧妙に改竄(かいざん)されている。
 正確に言うと、改竄されているという可能性が大きい。
 だが、可能性が高いだけで証明が難しい。」

 「なるほどね・・リードなら、改竄はできるだろうね・・」
 「リードがここまでやるとは思わなかった。」
 「そうだね・・、普通ならしないだろうね。」
 
 「リードの追求ができない以上、オルリ、気を付けろよ。」
 「え? ああ・・、でも、気を付けろと言われてもな~・・。」
 「まあ、そうだな。
 でも、俺はあまりお前を心配はしてはいないんだ。
 お前は優秀で研究の成果を残している。
 もし、失敗をしても失敗を失敗とせず、その失敗を生かすからな。」

 「えっ?! 君がが俺を認めてくれるのかい?」
 「ばっ、馬鹿野郎! いまのは独り言だ、忘れろ!」
 「え~、もう一度聞きたいな、もう一度言ってくれないか?」
 「五月蠅い!」
 「なあ、いいだろう? もう一回位は。」

 そういってオルリが茶化すと、カイルは”この野郎!”と呟いた。
そして二人は顔を見合わせ笑い出した。

 「カイル、有り難う。」
 「え? あ、まあ、礼をいわれるほどの事ではないが。」

 「今日、ちょっと飲みに行かないか?」
 「おお、いいね、お前のオゴリな!」
 「え? あ、ちょ、そ、それは無いんじゃないか!」
 「ほう~、お前から誘っといてか?」
 「うっ!・・分かった、分かったよ。」

 「じゃあ、キルスも誘っていくか。」
 「え? キルスも・・え、えええええ!
 お、俺、自分も含めて3人分払うのか!」
 「当たり前だろう? お前の部下なんだぜ?」

 オルリは、こめかみに手を当てて後悔した。
しかし、今更、後悔も何もない、と、開きなおる。

 「じゃあ、行くか・・」
 「おお、じゃあ俺は一度自分の部屋に戻り、戸締まりをしてくる。」
 「ああ、じゃあ俺はキルスを誘ってくるよ。」
 「それじゃあ、何時ものバーでな。」
 「ああ、分かった。」

 そう言って、オルリはカイルが部屋を出るのを見送った。
そして呟く。

 カイル、ありがとう・・お前と出会えてよかったよ。
今の俺があるのは、お前の優秀さに触発されたお陰だ。
その上、平民の俺を差別せずに接し、さらに心配までしてくれる。
ありがとう・・。

 オルリはカイルが出て行ったドアに向い頭を下げた。
そして、部屋の中を軽く点検してから、戸締まりをして研究室を出た。

 キルスの奴、どこで時間を潰しているのだろう?
あいつの居そうなところは・・。
う~ん・・・甘党だからカフェにいるかな?
まずカフェを探そう。
そう思い、早足にカフェへ向った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み