第6話 カイリ

文字数 1,655文字

 無空間実験装置の許可が会議で通知された日から私はまた多忙となった。

 実験装置の許可がおりる前も多忙ではあった。
しかし、実験装置が使用できると分かった瞬間、それまでの疲れなど吹き飛んだ。
私は精力的に実験計画の見直しや、予想データの検証、理論の構築などを入念に行う。

 それと平行して無空間実験装置の初期設定と試運転を行った。
それらは問題なくスムーズに行った。
次に無空間実験装置の稼働を開始し、無空間の生成検証を何度も繰り返した。
これも問題なく気抜けするほどすんなりと終わる。
最終段階として本格稼働を開始したが、無空間を安定して保持し続けてた。
全ての検証は終わった。
後は実験をするだけとなった。

 そして、いよいよ無空間での実験の日となった。

 前日は寝られなかった。
嬉しくて、興奮しすぎてしまったようだ。
決して緊張のため眠れなかった訳では断じてない。たぶん・・。

 早朝、実験棟の仮眠室から無空間実験装置の部屋に向った。
手をポケットに突っ込み、ブラリブラリとゆっくり歩く。
上司から手をポケットに突っ込んで歩くなと、見られる度に注意されている。
なんでも研究室にくるお客の手前だとか、転んだ時に危ないとか。
しかし、癖なので仕方がない。
歩いて考える事が多く、その時に無意識にポケットに手を突っ込む。
そうしないと、よいアイデアなどが浮ばないのだ。
まあ、上司に見つからなければ良いだけなの話しなので問題はない。
それにお客が来ているときに、さすがにポケットに手など突っ込んで歩きはしない。
子供じゃないんだから。

 そうこうするうにち実験室に辿り着いた。
部屋に入ると、無空間実験装置の独特の音が聞こえる。

無空間実験装置のステータスを確認する。
 温度   絶対0度 (-273°k)
 空間物質   0.0000000000%
 真空度  100%
 範囲   10000光年

 よし、問題ない。
この実験のために作った宇宙創生のための種を手にとる。

 苦労したぜ、この種には。

 同僚の錬金術研究者に種の作成を頼んだのがいけなかった。
悪友とは、アイツの代名詞ではないだろうか?
打ち合わせの度、あるいは相談だと称し、だいぶ奢らされた。
それも酒豪だから質が悪い。
アイツはザルどころではない、(わく)だ。
いや、ブラックホールなのかもしれない。
いったいどれだけアルコールに強いんだ。
散財という言葉がなぜあるのか分かった。
まあ、その代わり、さすが奴だけのことはあった。
満足できる種ができた。

 種のプログラムは自分自信で作成し書き込んだ。
本当にたいへんだったよ。状態変化とパラメータ調整が・・・。
まあ、おかげで数十年、休憩をとれなかったけどね。

 さあ、この種を置こう。

 そう思い、種を摘まんだ。
無空間の装置が作成した無空間に、左手を突っ込む。

 あっ! いけね、種をもっているのは右手だった。
あわてて左手を引っこ抜く。
そして右手を突っ込み、無空間の真ん中あたりに種を置いた。

 よし、実験開始だ。

種が置かれた状態で無空間実験装置のステータスを確認する。
 温度   絶対0度 (-273°k)
 空間物質   種のみ
 真空度  100%
 範囲   10000光年

 よし、問題ない。
種の起動、開始。
発動まで、3・・2・・1・・0!

 よし、発動。
問題なし。
空間物質の広がり状況は・・・よし、想定内。

 どうだ~・・・空間物質は規定内で広がるのを制御できるか~・・・
よし、等速度運動に切り替わった。

 じゃあ、次はこれを持って・・・
よっと、右手に持ったし、無空間に入れてと、一滴を、ほいっ!と。
よし、成功。

 どれどれ、おお~!!いいじゃん。いいじゃん。
俺って天才だ!
うん、ダークマターもうまい具合だよ。
とりあえず、ここまでは順調だね。

 では、星の生成を観察するとしましょうか・・。
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