第7話 オルリ

文字数 1,969文字

 カイリは、そろそろ銀河が安定してきたと言っていたけど・・
そう思いながら、自分の研究室でカイリの報告書に目を通す。

 報告書を見ながら、ここ数ヶ月のカイリの様子を思い浮かべる。
不眠不休で頑張っていたよなカイリは・・・。
本当に学者馬鹿とは、彼奴のことを言うんだろうな。
まあ、俺も人のことは言えないけどさ。
奴が天才で俺が凡人だという違いはあるけどね。
そう思い、ふと笑う。

 報告書を読み終えて、袖机の引き出しを開けた。
そこに報告書をしまいながら、さすがカイリの報告書はよくできていな、と呟く。
袖机から身を起した時、目に壁に掛かった時計が入った。
午前0時を回っている。

 こんな時間になってしまったか。
そう思いながら、自分の机の上を見る。
そこには、自分が作成した

が鎮座していた。
色とりどりの種だ。
つい先ほど全部の種が完成したばかりである。

 この種を眺めると、やり遂げた高揚感が

と湧き上がって来た。
感無量とはこのことをいうのだろうか。

 本当、苦労したよ・・、この種には。

 生物のための惑星環境を変える惑星改造装置のプログラムと装置の組込み。
生命発生のための化学反応、進化促進の装置のプログラムと装置の組込み。
それらを各銀河に1つ、ないし数個用意したんだ、大変だったよ。
それも、その銀河にある惑星に合せて個別に種を用意したからね。
太陽からの惑星の距離、惑星の物質構成、大気の物質など惑星毎に異なるからね。
どれ一つとして同じものはないんだ。
同じ物や、似通った物があれば楽ができたのに。
まあ、それがやりがいであり、今後の生物の進化がどうなるか楽しみでもある。
言うまでも無く、カイリの研究に影響を及ぼさないように細心の注意を払っている。
ほんと、自分を褒めちゃうよ。
誰か褒めてくれないかな・・。

 さて、今日は帰ろうかな・・・。
だいぶ遅くなってしまった。
そう思い席を立った時だった。

 コンコン!

 ドアがノックされた。
え~・・、今日は疲れたから帰りたいんだけど・・。
もう帰った振りでもしようか?

 しかし性格的にできないでいた。
思いあぐねているうちに、勢いよくドアが開いた。
どうやら此方(こちら)の返事などまっている気はなかったようだ。

 ドアを開いたのは、カイリだった。

 「待たせた! できたぞ。」
 「えええ~、これから帰ろうとしていたのに・・」
 「そう? じゃあ、俺も一緒に帰ろう。」
 「いや、待て! 誰が帰るか、実験をするに決まっている!」
 「だろ?」

 カイリの言葉に、オルリは思わず苦笑いをする。
カイリは、カイリで、そりゃそうだろう? という顔でニヤリと笑う。

 「カイリ、知らせに来てくれてありがとう。」
 「どう致しました。」
 「ん? 致しました? 何それ。」
 「だって、お礼を言われてあたりまえだろう?
 だから、どう致しました、だよな?」
 「あのなぁ・・。」

 突っ込み所満載のカイリに言葉が詰まる。
そんなオルリの事など意に介していないカイリだった。
マイペースで会話を進める。

 「じゃ、俺、帰るから、頑張れよ。」
 「おお、サンキュウ!」
 「だれが産休じゃ!」
 「・・なあ、疲れているから、これ以上は・・」
 「あははははは、じゃあな。お先。」
 「おお・・」

 そういうとカイリはドアを閉めて去って行った。
本当に台風なような奴だ。
だが、本当に気持ちいい奴だ。

 さてと、助手に手伝ってもらおう。
隣の部屋で作業をしているキルスに声をかけた。

 「キルス! 手伝ってくれ!」

 キルスはオルリの問いかけに、隣の部屋から顔を(のぞ)かせ不満を言う。

 「ええええ、帰っちゃだめ?」
 「当たり前だろう?」
 「彼女と待ち合わせが・・」

 「ふ~ん、で、名前は?」
 「え? あ、名前? 名前ね~・・」
 「何考えてんだよ・・、嘘いってんじゃないよ。」
 「・・ばれちゃったか。」

 「あたりまえだろう? お前に彼女ができるなら、俺にも出来ている。」
 「なんですか、それは? どういう公式ですか?」
 「俺が公式だ。文句ある?」
 「・・ありません。」

 「よし、無空間のある部屋に行くぞ! これを持ってくれ。」
 「は~い。」

 オルリはキルスに実験用の機材を持たせた。
自分は机の上の

を大事そうに抱え持つ。

 オルリは不器用であった。
小さな惑星に、作った種(ナノマシン入り)を注入するなんてできない。
助手のキルスにお願いするしかないのだ。

 頼んだぞ、キルス。
そして、済まない。
そう心の中で、オルリはキルスに謝罪をした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み