第11話 生命の進化・陸

文字数 2,426文字

 海洋生物が陸に上がり長い年月が経った。

 今では恐竜と呼ばれる生物が繁栄していた。
彼らは先祖から進化するときの記憶を受継いでいる。
おぼろげではあるんが、どう進化して恐竜になったか分るのだ。
それは脳の大きさがもたらしたものだったのだろう。

 オルリは再びこの惑星に降立った。
そして、その目で数多(あまた)の種族に進化し繁栄している恐竜を確認した。
確認が終ると、惑星に設置しておいた生命観測装置のデータを回収する。

 オルリは研究室に戻る前に、大雑把にこのデータに目を通すことにした。
データを見てオルリは独り言を呟く。

 「進化は順調だな・・。」

 そう言いながらも思案顔となる。
データによると恐竜に進化してから、かなりの年月が経つ。
それにもかかわらず、恐竜から進化しないのだ。
進化が停滞しているように見える。

 だが初めて地球に誕生した、待ちに待った知的生命体である。
知能は満足できるものでないが、それなりに発達をしている。
宇宙観測や、この惑星の構造解析まで行えるようになっていたのだ。
しかし、宇宙に進出しようとしてはいない。

 オルリはその理由を考える。

 現状維持で満足してしまっているのではないだろうか?
それは、あまりにこの惑星に適合しすぎたのが理由であろう。
それにこの惑星には恐竜に必要な資源も充分にある。
そのため宇宙に出る価値を見いだせないのではなかろうか?
または宇宙に出て冒険・探査する知的欲求が無いのかもしれない。

 まあ、これはこれで面白い結果ではある。
学会で報告できそうだ。
そう思いオルリは地球を後にした。

========

 オルリが地球を去ってどのくらい時間が経っただろうか・・
宇宙から隕石が地球に飛来した。

 宇宙では惑星に隕石が衝突するのは珍しくも無い。
しかし衝突される惑星の生命体にとっては傍迷惑(はためいわく)な話しである。

 恐竜たちは隕石が地球に衝突するのを把握していた。
彼らは観測データから、地球に衝突する詳細な日時、場所を割出していたのだ。

 もし、彼らが恐竜でなく今の人類であったならどうしていたであろうか?
貴方が地球に隕石が衝突することを知ったとしよう。
それも正確な日時、場所までも。
そして自分や家族が死から免れないと分ったとしたならばどうしたであろうか?

 確かに生あるものはいつか必ず死を迎える。
それは自然の摂理(せつり)であり(ことわり)だ。

 しかし人は自分が死ぬなどと言うことは四六時中考えない。
老人になり体の自由が利かなくなってから考えることだ。
あるいは病を得て考える人がいるかもしれない。
しかし殆どの人は、自分が死ぬんだ、などというは考えもしないだろう。

 もし自分が寿命を迎える前に確実に死ぬ日時時間場所が分ってしまったなら・・。
冷静でいられるだろうか?

 恐竜たちは、まさに其の立場に立たされたのだ。

 彼らは現代の人類と同等、あるいはそれ以上の技術を持っていた。
宇宙船を作ることも、地中深く潜り長年暮せる技術も開発できたであろう。
しかし、彼らはそれをしなかった。

 では何故彼らはそのような技術を確立しなかったのか?
それは彼らの経済、文化構造に問題があった。

 健全な競争は発展を促すが、欲がそれを許さななかったのだ。
自国の優位性を保つため、技術の独占、技術の隠匿が技術の発展を阻害する。
それは特許による技術の独占や、軍事圧力による他国の技術開発阻止などだ。
さらにはヒエラルキーな社会では、有能であっても底辺の者の能力は宝の持腐れとなる。
充分な教育や、チャンスが与えられないからだ。

 これが宇宙開発を遅らせた要因である。
さらに言うなら、宇宙にいかなくても生活に困るわけでもないという要因も大きかった。

 彼らは隕石が地球にぶつかると分った時点で生残るための技術的検討を行った。
皮肉なことに隕石衝突回避のため、先に述べた弊害が取払われたのだ。

 検討した結果、多くの命を救うのは宇宙への脱出が一番有効であった。
旧約聖書にあるノアの箱船的な存在を模索したのだ。
しかし、隕石が地球にぶつかる前に技術を確立し対処するのは不可能だと分った。

 次に彼らは何とか隕石を破壊できないか模索した。
核爆弾も水爆も隕石にぶつけたとしても無意味だというシミュレーション結果が出た。
隕石が自動車だとすると、核爆弾はコガネムシなどの甲虫に例えられた。
虫が自動車に体当りしても車はびくりともしないということだ。

 それならと、核融合装置を改良して爆弾を作成する案もでた。
核融合爆弾だ。
しかし爆弾にするための小型化の目処がたたずお蔵入りのアイデアとなる。

 最後にシェルターを建設し備蓄を行うことを検討した。
しかし、隕石衝突に耐えてもその後の生活維持が問題だった。
生態系が回復するまでのエネルギー確保や食糧確保が困難であった。
つまり隕石衝突直後は生残れても、その後は絶滅するしかない。

 彼らは為す術がないということを確認しただけ、という結果になった。

 その結果から、彼らは滅亡は免れないという事実を受入れた。
つまり、彼らは絶滅を肯定したのだ。

 そして彼らが最後の最後にした事がある。
それは後世に自分達が存在した事を残すことだ。
彼らは何が残せるか真剣に検討した。

 自分達が滅んだ後に繁栄する生物は何か?
シミュレーションし自分達より劣った生物が繁栄するだろうという結論に辿り着いた。
ならば自分達の事を化石で残せば、自分達が繁栄したことが分るだろうと結論を出した。
そして自分達を模した化石を作り上げ、後世に発掘できるようにしたのだ。

 そして、これらをやり遂げた。
絶滅の日、恐竜たちは家族と共に静かにこの日の朝を迎えたのだった。

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