第21話 リードの苦悩

文字数 2,826文字

 リードは、(いら)ついていた。

 オルリの野郎・・今にみていろ!

 彼はそう呟くと、学生の頃を思い出していた。
リードは名門の子息で、幼い頃から周りが(かしづ)くのが当然という環境で育った。
英才教育を幼少の頃から受け、帝王学も学んでいた。
そして彼はそれに答えて育ち、家庭教師や学校の教師も、周りの子供達よりかなり優秀だとみとめた。

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 俺は期待通りに、人間社会でいう大学に相当する高等専門アカデミアに進んだ。

 その時、同じクラスにいたのがオルリ、カイルだった。
俺はオルリを見た瞬間、平民である事がわかった。
服装が安物で、所作に優美さが見えないからだ。

 オルリは、俺に逆らったり、口答えしない。
かと言って、媚び諂わない(こびへつらわない)のだ。
平民のくせに許しがたい行為だ。
それならば徹底的に(おとし)めてやる。そう思った。
マナーが悪く品位に欠けるバカだと、名門仲間と見下して笑い合った。

 一方カイルであるが・・。
彼は名門中の名門だ。
自分の友人になって欲しいと懇願したのだが、相手にされなかった。

 ただ俺には理解できない事がある。
カイルが、平民のオルリと仲良くしていることだ。
平民の彼奴(あいつ)と仲良くして、俺とは懇意にしようとしないのだ。

 カイルの前で、オルリを貶めた事がある。
するとカイルに冷たい目で見られ、それからさらに相手にされなくなった。

 カイルの態度は気にくわないが、自分の家より格上(かくうえ)だ。
さらに、学問でも天才と言われるだけあり全く(かな)わない。
忌々しいがどうしようもない。

 そして入学してから初めての試験で、信じられないことが起きた。
自分が学年で3番目という成績に、目を見開き呆然(ぼうぜん)とした。
1位がカイル、2位は自分だと思っていたが、オルリが2位だった。
俺が3位だなんて信じられるものか!
しかもカイルとオルリの成績は僅差、自分との開きが大きい。

 俺は担任教授に採点が可笑しいんじゃないかと怒鳴り込んだ。
担任教授は俺より格下の家柄だった。
そのため、俺に逆らえずオルリの解答用紙を、こっそりと見せたのだ。
それを見て、何も言えなくなった。
文句がつけようがない回答だったのだ。

 ならばカンニングをしたのではないかと担任に抗議をした。
だが・・、担任は恐る恐る、それは有り得ないと断言したのだ。

 プライドは、ずたずただ。
平民のくせに、俺より頭が良いだと?!
ふざけるな!

 それから何かにつけオルリには事ある毎に嫌がらせをしてやった。
オルリを怒らせ、こちらに手を出させるように仕向けたのだ。
だが、どんな嫌がらせをしようが、オルリは困った顔をするだけだった。
逆らいも、逆上もしない。
(ぬか)(くぎ)をさすような手応えだ。
本当に気にくわない野郎だ。

 結局、アカデミア時代は一度もオルリを成績で抜くことはできなかった。
完全な敗北だ。
名門の俺が、平民に叶わなかったのだ。
信じられん。

 卒業後、カイルは分るがオルリまで同じ研究所の研究者となった。
俺は絶対に、オルリなんか認めない。
蹴落してやる。

 そんなある日、研究所で衝撃的な出来事がおきた。
無空間装置が研究所に導入されたのだ。
それも最新鋭機だ。
この装置は俺が使ってこそ、成果がでるだろう。

 そう思い、俺は無空間使用の申請をいち早く行った。
届け出の順番は一番だった。
まあ、それも当り前だ。
俺の家の名を使えば有用な情報は簡単に手に入れられる。
これで無空間装置は俺の物だ。

 後日、申請者の開示があり他に20人申請していたようだ。
まあ、雑魚な連中だから申請は通らんだろう。
とうぜんオルリもな。
使用許可がおりるのは、俺と、カイル、テットだと確信した。

 そして、その使用者の発表が行われた。
俺は意気揚々と、その発表に出かけたのだ。
すると、オルリが顔を出した。

 まあ、せいぜい指でも(くわ)えて(うらや)ましがればいい。
そう思った。

 だが、オルリに使用許可が下りたのだ。
信じられない!
しかも、俺には申請許可が下りなかったのだ。
ショックどころではない。

 すぐに会議で持論を展開しオルリの使用に反対した。
当然だ!
だが、俺の言分に議長はなぜかカイルに意見を求めた。
そして、カイルは理路整然と俺の申請の矛盾点を突いてきた。
俺はぐうの()も出なかった。

 こうなればオルリの失敗を待つしかない。
失敗すれば、無空間装置の使用をオルリから奪える。
そして、その失敗を追求しオルリを学会から追放してやる。
俺がオルリより優秀だという事を示してやる。

 ある日の学会の事だ。
地球という星で特殊な生命体が発生したという研究が発表された。
発表したのはオルリだ。
そして、この事をオルリは予測できなかったのだ。
思わずほくそ()んだ。
これでオルリを徹底的につぶせると思った。

 だが、なぜか議長やカイルが予測できない生物の発生に興味を持ってしまった。
さらに予想外な結果については、全く問題にしなかったのだ。
俺の目論見(もくろみ)は外れ、黙るしかなかった。

 それならば、オルリが興味を引いている地球という星を消すことにした。
誰も居ない時を見計らって、無空間装置のある部屋に忍び込んだ。
そして銀河系外にある小惑星帯から適当な大きさの小惑星を地球に向けて移動するように仕向けた。
工作は完璧だった。
カイルでさえ、俺の仕業だとは思わないだろう。
伊達(だて)にアカデミアを3位で卒業はしていない。

 隕石が地球に衝突する日が楽しみだ。
慌てふためくオルリの顔を、早く見てみたい。

 だが、カイルが地球に向っている隕石に気がついてしまった。
さすがはカイルだ。
砂浜から一粒の砂を見つけるような物なのに、どうやって気がついた?
バレるのが早すぎて、カイルが地球に向っている小惑星を排除するかと焦った。
しかし、カイルは小惑星を止めなかった。
あくまでカイルは銀河系の発生と進化の研究のため、自然発生事象には手を加えないという。
さすがは研究バカだと、このときばかりは拍手した。

 ただカイルの計算では、小惑星が地球にぶつかっても地球は消滅しないという。
これはあきらかに俺の計算ミスだ。
まあ、地球が消滅しなくても生物が滅びればオルリは嘆くので良しとしよう。

 これでオルリはかなり慌てるだろう。
そして、カイルに泣きつく姿が見られるとワクワクしたのだが・・。
オルリは淡々としていた。
慌てたり、カイルに泣きつきもしない。
くそいまいましい奴だ。

 必ず、いつかオルリを無空間装置の実験から排除し、さらには学会から追放してやる!
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