第22話 カイルの実験

文字数 2,472文字

 カイルは無空間で銀河の生成が一段落してホットしていた。

 しばらくすると、発生した銀河が活動しはじめた。
銀河同士がぶつかり合ったり、離れたりしながら宇宙は進化していった。
ある銀河は、別の銀河と衝突し巨大な銀河に成長した。
逆に別の銀河同士の衝突は、星々が銀河から弾きだされたり、あるいは星同士の玉突き衝突で壊滅した銀河もあった。
また、ある銀河は巨大なブラックホールと化したものもあった。
しかしほとんどの銀河同士の衝突は、銀河内部の星を入れ替え銀河の形を変えて、また二つに分かれ、別の銀河と再び交わる旅に出た。

 これらは、カイルの予測した宇宙の進化と一致していた。
あまりの誤差のなさにアカデミアでは賞賛の嵐が吹き荒れた。
そのため、ある科学者は老いも若きも、カイルに媚びを売り、なんとかカイルの実験に加わって、カイルの業績の一部に名を乗せてもらえないか画策したが、カイルの理論についていけず逃げ出す者が多数いた。
またある科学者はカイルをなんとか貶めようと、学会でカイルの揚げ足を取ろうとした。
しかし逆にカイルから質問の矛盾点をつかれ真っ青になって逃げたり、逆に反論されてオロオロする始末だった。

 そういうなかでオルリはカイルの実験を認めながら、不足の点を的確に指摘した。
指摘はカイルの理論の欠点を突いて揚げ足を取るのではなく、より理論を明確化するための指摘であり、天才といわれているカイルもオルリにあらためて敬意を払った。

 さて、オルリがした指摘の1つは、実際に自分達のいる次元での惑星の配置だった。
これは、惑星が本来恒星から離れる程、大きく、且つ、惑星自体の比重が軽くなる並びのはずなのに、大きさが入れ替わった順に並ぶ太陽系があるからだ。
この指摘にカイルは、オルリの着眼点と細心さに関心した。
たしかに、このような構成が希にあったからだ。
この構成は膨大な宇宙の中では、少数の中のさらに少数で、見落としていても不思議はないケースだったからだ。
実際にカイルでさえ気がついていなかった。

 そんなオルリは持論をカイルにぶつけた。
それは、莫大な質量の巨大惑星が存在し、その惑星が数千年周期で太陽系に影響を与える特殊な軌道を描いている場合、惑星が巨大惑星の重力を受ける。
その時、別の銀河が接近してきていた場合、太陽系の星々の重力との相互作用で弾き出されて順序の入れ替えが起きるというものだ。
そして影響を与えた銀河系が離れると、順序の入れ替わった太陽系の完成となる。

 これにはカイルも唖然とした。
そんな発想はしたことがない。
カイルはオルリと議論を交わし、アイディアが閃いた。
ダークマターの注入時、揺らぎのパラメータに手を加えてシミュレーションをしてみた。
その結果、発生した銀河の中に希に低い確率で発生することがわかった。
カイルは雑音をなくした自然の揺らぎでダークマターと星間物質を均一化にすることに細心の注意をしていて、この場合、調和がとれた安定した宇宙が生成される。
粗末な実験でなければ、惑星の順番が入れ替わる事象は発生しない。

 この結果を確かめたくても、今から無空間の実験を最初からやりなおすことはできない。
そこで、擬似的に巨大惑星を作成して惑星の入れ替わりが起こるか確認することにした。

 カイルは早速、準備にとりかかった。
光量子計算機により、比較的早く実験対象に適した太陽系を見つけることができた。
それから移動させる銀河が実験のため移動方向や速度を変えても、隣接する他の銀河に影響がないかのシミュレーションや、対象とする太陽系に影響を与える巨大惑星を投入したときに、投入先の銀河に波紋が広がらないかのシミュレーション、および投入する巨大惑星が太陽系に適度に作用するための質量、構成物質、軌道などを検討した。

 そして、この実験に適した手頃な太陽系が、オルリの生物の進化の実験対象がある惑星だった。
カイルはオルリに相談をすると、オルリは実験を快諾をした。
オルリによるとカイルの研究こそが重要であるので、気にすることはないという。
確かに見つけてしまった惑星の現象を科学者として検証するのは、研究成果を求められるカイルに課せられた義務であり、統括責任者のカイルが優先されて当たり前だった。
よってオルリに相談する義務はなかった。
オルリは気にしていなかったが、カイルは借りを作ったと考えている。
しかしカイルは、そのようなことはおくびにも出さなかった。
オルリも自分の実験はカイルの実験の二の次と割り切っていて全く気にしなかった。
ただ、オルリはこの実験の前に、絶滅する生命の最終観察は徹底的に行った。

 そして、実験当日、オルリはカイルの実験を見に来た。
カイルはオルリと握手をすると、緊張した面持ちで実験を開始する。

 普段、フランクな態度と、人をおちょくる性格であるカイルから、研究している姿は想像ができないだろうな、と、オルリはカイルの後ろ姿を見ながらニヤついた。
天才と言われているが、確かに天才であることに間違いはない。
しかし、それ以上に努力と、絶えず自分のやることに疑問を持ちながら実験している姿は、ごく一部の友人しか知らないだろう。
よき友人であり、科学者として敵わない人だとは思うが、よきライバルを持ったとオルリは改めて感じた。

 そして、その実験の結果だが、惑星の入れ替わりが発生し、計算どおりとなった。
また、想定どおりに実験をした太陽系にあった生物がいた惑星が、他の惑星が入れ替わるときの影響を受け、生物が絶滅した。

 この結果をカイルはオルリとの共同で行った成果としてアカデミアで発表をして賞賛を得た。
ただ、カイルはオルリを共同研究者として発表するなどとオルリには言っていない。
言えばオルリは絶対に承諾しないことがわかっていたからだ。
発表当日、講演をきいたオルリが口を開け呆然としていた姿を少ない友人が目撃をして笑っていた。

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