第23話 惑星の順位入れかえによる生物の絶滅

文字数 2,188文字

 カイルが惑星順位の入れ替え実験を行う少し前の事。
オルリは、実験が行われる太陽系のある惑星に姿を現した。

 その惑星では知的生命体が育っていた。
この惑星の表面は、水が92パーセントを占めている。
生物のほとんどは海洋生物だ。
陸上にも生物はいたが、知的生命体は海洋生物だけであった。

 オルリは、この海洋生物の進化を追っていたのだった。
単細胞から進化し続けて、やがて地球でいうイモリのような生物に進化した。
手は4本指で水かきがあった。

 彼らはやがて道具を作り、文明を築いていった。
やがて反重力駆動装置を開発する。
コクピットを水で満たした乗りものにし、地上、上空を移動した。
さらに宇宙服のような服を着て、地上を支配していく。
それが200年位前だった。

 今では、宇宙空間に進出していた。
惑星の静止軌道にコロニーを打ち上げて、己の文明を謳歌(おうか)していた。
だが、他の惑星に行くための宇宙船の開発には至っていなかった。

 オルリは彼らをイグアーと呼んでいた。

 オルリはイグアーの進化をアカデミアで発表した。
それが、文明が発生する切っ掛けを明確にしたとして学会で評価されたのだ。

 そして、今また、オルリは宇宙コロニーのイグアー達を観測している。
自分の惑星や恒星の研究をするイグアーらの姿を眺め、思わず微笑む。
彼らは観測対象であるが、愛おしく思うからだ。
どう言えばいいのだろうか?
ペット?
いや、違う・・。
・・・
()えて言うならば・・。
オルリにとっては子供のようなものだ。

 できるなら、あと1000年位このまま平穏でいさせたかった。
そうすれば、オルリ達の世界の幼稚園児が習う知識に到達するかもしれない。
そう思うと残念でならない。
寂しさを覚える。

 50年ほどしたら、惑星の順位入れ替えの実験開始となる。
おそらく、この惑星の生物は滅びるだろう。
もしかしたら、宇宙に飛び出して一握りは助かるかも知れない。
だが、今の文明を維持できる程の数はいないだろう。

 色々と彼らに思うことはある。
だが、科学者である自分は感情で動いてはならない。
実験対象である生物に感情移入してはならないのだ。
オルリはその点、理解しており割り切っていた。

 オルリは、一通りの観測を終え監視モニターを設置した。
このモニターは今後の彼らの運命を記録するための装置だ。
彼らが他惑星に進出し文明を築けるかどうかの確認用でもある。
この監視モニターは、異次元空間からの覗き見するため、彼らから見る事はできない。
オルリは設置を終えると、この惑星を去った。

 そして、惑星の順序入れかえの日、オルリはカイルの実験に立ち会った。

 オルリは、惑星に設置した監視モニターを凝視する。
イグアー達は、自分達の惑星の異変に気がついたようだ。
そして科学者達は、惑星の異変が転変地位を引き起こすと判断した。
政府は研究者達の結論を聞いて、この件を極秘にさせたようだ。
だが、民間の者が惑星の動きに気がついた。
すると惑星への狂信者が現れはじめ、社会秩序が乱れ始めた。
オルリは、この状況が理解できず観察に集中する。

 どうやら彼らは惑星が意思を持っていると信じているようだ。
惑星は人々に試練を与え、一度は滅ぼした後に復活をさせるという。
それがオルリには理解ができない。
一度滅んだ人々など復活などできるわけがない。
あのカイルでさえ、できるものではない。
オルリには、根拠の無い信仰というものが理解できなかった。

 一方、科学者はというと・・。
イグナーの科学力はまだ未熟だった。
惑星の順番が入れ替わり始めたと理解ができないのだ。

 そうこうしているうちに異変が出始めた。
近づいてくる惑星の重力の影響を受け始めたのだ。
地震や津波、海洋循環の異常、電磁波障害だ。

 イグナーの科学者は、こうなることは予測できたようだ。
政府は、科学者の一部と政府高官を静止軌道にあるコロニーに非難させた。
当然、民間には知らせず極秘で行っていた。

 惑星の順番の入れ替えが進むにつれ、この惑星への影響が大きくなった。
大地震、大津波、そして至る所で噴火が発生した。
海洋循環がめちゃくちゃとなり、地上には嵐が吹き荒れた。
やがて海に住んでいた海洋生物は全滅した。
陸地にいた生物も動揺である。

 静止軌道にあったコロニーは電磁波の嵐に見舞われた。
それにより生命維持システムに不具合が生じているようだ。
やがて接近する巨大惑星と銀河の影響でコロニーは静止軌道から弾き出された。
コロニーは太陽に向かい、やがて呑まれ消滅した。

 オルリは、その様子を見て、カイルに気がつかれないよう肩を落とす。
もしかしたらイグアーは宇宙船で脱出するのではと期待していたからだ。
だが、コロニーに避難という消極的な判断をしたのだ。
彼らは絶滅の道を選んだのだ。
しかし、彼らの文明は、それなんりに進化したのは確かだ。
良くやった、と、内心で彼らイグナーをオルリは褒めた。

 オルリは惑星の順位が入れ替わり実験を成功させたカイルに微笑みかけた。

 「実験の成功おめでとう。」
 「ありがとう、オルリ。」

 そういって互いに握手をして微笑んだ。
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