第16話 オルリの苦悩

文字数 2,329文字

 知的生命体がどのように発生し進化していくのかが、オルリの重要な研究テーマの一つだ。

 オルリが惑星の環境に合わせ作成した生命の種が発芽をし生命体が育ち始めた。
今、オルリは生命体を定期的に観測し、場合により実地調査をしている。
そして、研究成果もそれなりに評価されていた。

 とはいえ失敗もあった。
ある銀河系の恒星が不安定となり大規模なフレアーが発生したことがある。
そのフレアーが生命が熟成しつつあった惑星を襲ったのだ。
せっかく育っていた生命体は、一瞬で燃えてしまった。
ただ、この恒星が不安定となったのはオルリの責任ではない。
そのためオルリの汚点とはなってはいない。

 またある惑星では、環境を整えるナノマシンが暴走した。
これは、外宇宙からの時空の歪みをうけて暴走したのだ。
離れた恒星がブラックホールになる直前、ガンマバーストを起した。
ガンマバーストは、その惑星が不規則に回転をすることで至る所にガンマ線を放出した。
運悪く種を蒔いた惑星近くをガンマ線が通り過ぎたのだ。
その時に、この惑星近くでガンマ線の二次放出が起った。
この衝撃によりナノマシンが暴走したのだ。
偶然に偶然が重なった結果である。

 ナノマシンが暴走するまでは、生物が順調に進化しており期待をしていた。
しかしナノマシンの暴走で、この惑星の生命他は全滅してしまったのだ。
学会でも問題とならなかった。
だが、リードが学会で追求をしてきた。
何時ものこととはいえ、気が滅入る・・。

 生物の進化が順調に進んでいる惑星も多数ある。
砂の惑星、水の惑星、氷の惑星などで生物が進化をしている。
知的生命体が育った惑星も出て来た。

 以外な知的生命体がいたのはガス星雲だ。
ガスの生命体である。
これには驚いた。

 ガス星雲の中に、ガスが蜘蛛の巣状に変形した地帯がある。
このガスの形状は、脳細胞のニューロン同士が繋ぎあい網目状になった姿に似ている。
このようになったのは、宇宙創生の時のダークマターのムラや、ガス星雲が生成された後に、ガス星雲の内部で惑星が誕生し始めてガスが払いのけられたのが要因だ。

 このガスの中を微少なエネルギーが流れるようになった。
このエネルギーは、宇宙線や重力波などがガスにぶつかり発生するものだ。

 最初の頃は、発生したエネルギーはガスの中を縦横無尽に動き回っていた。
それがやがて特定の場所でエネルギ-が捕えられ蓄積する場所が現れる。
その場所は、ガスの濃厚な部分の中心地だ。
ガス星雲全体を能に例えると、あたかもニューロンの場所に見える箇所である。
この様子は、能だけが宇宙空間に浮んでいる姿を想像してもらえばよいだろう。
数十光年に及ぶ巨大な能だ。

 ガス星雲の一部にエネルギ-が留まる。
これは何かを記憶するのと同じだ。。
やがて、年数とともに複雑なニューロンを形成していったのだ。
それにより知的水準はかなり高いものとなった。

 知的水準は高い・・。
しかし体を持たないので進化はできない。
だが知識は蓄え続けられ、やがて膨大な量となった。
それも、思考をし、推論し、観察し得た知識だ。
不思議な生命体に育ったのだ。

 これを学会で発表すると、科学者は興奮し大騒動となった。
この時、リードは沈黙した。
新発見であり、文句のつけようがなかったのだろう。
学会発表で初めてホットしたことを覚えている。

 そして、もう一つ予想外な惑星あある。
地球という惑星だ。
この惑星の生命体は寿命が非常に短い。
ナノマシンのパラメータ・ミスかと思い、見直しを行ったが問題はなかった。
おそらく、長い命より、短い生命で増殖し数を増やすことで種を残すことにしたのだろう。
そして頻繁に生れることで、体を環境変化に対応するよう進化をしてきている。
体を進化させるだけでなく、知的生命体になって欲しいものだ。

 この地球の生命進化は予想外であり面白い。
そのため、オルリはこの惑星の様子を見ることにした。

 そんな時だった。
カイルから、この惑星にもうすぐ隕石が衝突すると知らされた。
それを聞いてオルリは、この惑星に手を加えることにした。

 本来ならば、生命の種を蒔いた後は手を加えずに進化を観察をする。
これは、なるべく自然に進化する過程を見たかったからだ。

 だが、隕石が衝突すれば今いる生物のほとんどが絶滅するだろう。
それならば、今いる生物に手を加えて絶滅するまでの進化を見て見たくなったのだ。
だめもとで科学アカデミーに、このことを申請した。
すると簡単に了承されてしまったのだ。
普通は通らないのだが・・。

 早速実験をするため地球に降立つ。
オルリは無作為に水中生物を捕まえ、陸に上がることができるよう遺伝子操作を行った。
それは陸に上がると知的生命体が生れるのではないかと考えたからだ。

 そして、この遺伝子操作が生物に目まぐるしい進化をおこすことになる。

 余談であるが、オルリが遺伝子操作を行った後の地球で変化が起る。
火山活動などによる気候や大気の変動、地殻変動などだ。
オルリ自体も生物の進化を進めるため、多少地殻に手を加えたこともあるのだが・・。

 まあ、これらにより地球生物は絶滅の危機を隕石衝突前に経験することとなった。
だが、オルリが遺伝子操作により水中生物は進化し絶滅を乗り越えたのだ。
さらに陸に進出して恐竜へと進化することとなる。

 オルリは、遺伝子操作を終えると地球を散歩した。
見る限り退屈な惑星だ。

 さて、そろそろ帰るか・・。
そう呟くと地球からオルリの姿は消えた。
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