第16話

文字数 1,653文字

 この舞は、一人舞で走舞ともいわれ、太刀を帯び鉾を持って舞う、武舞の傑作と評されている。地の神を鎮める地鎮の舞とされ、陣を取り固めて、大将の柱立ての時に用いる、ともされる。
 かつてこの曲を殊の外好み、得意とされ舞われていた天子………その天子が鈴木の身体を使う様に………鈴木が天子の玉体を使う様に………二人は時空を超えて一体となって舞を舞う。その周りに数多の神々が、面白そうに可笑しそうに、共に時空の狭間で見ている。

…………善きかな善きかな………

 煌々と輝く社に、小さな玉はどんどん増えていき、社の屋根の上を天に向かって、光の柱が伸びていく………。

………ああ、ここの動きはもう少しゆったりと………ここは速く………深く浅く…………

 一つ一つの動作が違うのは、天子の癖と計算の所為だ………

…………さても懐かしき舞よ…………

 社の屋根に上った天の柱が、目を射る程に輝いて語った。
 

…………この舞が見たかった……この舞に逢いたかった………


 その声を耳にして、友塚と向井は天を仰いだ。


…………快い舞よ………気に入った………好い舞人よ………気に入った………
ならば一つ恩情を授けてやろう………

 天が回り、辺りもグルグルと回る。
 とある小さな社なのか、何処か大きな庭園なのか分からなくなる程に、両方の時空がくねり合い縺れ合いながら、ポポーンと一つになって止まった。

………近い将来、競り合っている者達が、大きな戦いを起こすだろう。かつて我の大地は、大きな穢れに見舞われた。しかしながら、此の国は八百万の神の国であり、全ての事を協議で決める。ゆえに忿怒を抱きし我はその決定に従い、穢れは自然の治癒に委ねる事と致した。だが三度は無い。もしも再びの穢れを予期した場合、我は対となる大神と共に、其れを阻止すべく撃って出る事と決めた。如何なる事があろうとも、我の大地は穢される事は許さず。()の地の神々は、此の国の神の力を思い知る事となる………まずは思い知らしめた後に、もはや穢れた大地を、浄めるべく動かす事となる。地は大きく動き穢れを祓い、天は雨を降らし穢れを洗い流し、海は大きく荒れて穢れを呑み込む………だが此の国を統べるは、我が譲りし天の大神の末裔である。ゆえに大神は子孫を護るが為協議を重ね、半分を大神の元で受け止める事とされた………つまり半分だ。半分だけ地上の災害を、八百万の神々と関わりのある神の地に流して受ける。其処に穢れを含めて流し、神の地で清めて鎮める。しかしその地は、此の地上の縁ある所に存在致すが、その地を汚して失くしておれば、其処から受け止める事は叶わず、命を失う者達の数は増える。またその地は、愚鈍なるその方達には分かりにくい。だが他の生き物達は、持って生まれた能力で探し当てられる。ゆえに他の生き物達の方が、その方達よりも生き延びるものは多い。そして其れ等の生き物達が、多く存在しなくば、その方達に聖地を知り得る術も無い。其はお前達が此の神の星に与えて来た、因果と思い諦める事だ………

 天の声が終わると、再び音楽と舞が夢の様に繰り広げられる。


………ああ……()に快い舞である………我は此の事を、その方達が我の言葉を探り当てるか、気に入る舞を舞えるか……試してみる事とした。どちらも叶わずば、ただその方達の犠牲が増えるだけの事だ………だが実に見事に、我が気に入りの天子(もの)の舞を舞って見せた。そう……()()()が気に入りなのだ………

 天を仰いでいた友塚と向井は、我に戻って視線を合わせて探り合った。
 すると側に居た何人かの者達が、呆然とする様に顔を見合わせている。
 舞を終えた鈴木が、敷物から退場しようした時


………暫し此れを奉ぜよ。したらば暫しの間護ってやる……だが其は暫しの間だ。また伝えしコレを、他者に広めるも勝手。八百万の神の関わりし、聖地を探るも勝手……だが努努忘れる勿れ……星の半分が浄められる。その時如何程の人間(もの)達が残るかは、その方達の心掛け次第である………


 天の声は御言葉を残して、目映い光と共に消えた。
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