第13話

文字数 2,147文字

 金神とは陰陽道が生み出した、最も恐ろしい方位神で、祟り神ともいわれる金神が在する方位をおかして、土を動かしたり、造築や改修、結婚、転居、旅行などをすると、家族7人が災いを受け、7人がいない場合は隣人迄も巻き添えとなる、〝七殺〟されると恐れられている。
 陰陽道は有名な陰陽師が多々、小説や漫画で描かれているから、知っている人も多いだろうが、その陰陽道が生み出した陰陽家によって扱われたものではなく、舎人親王(とねりしんのう)(天武天皇の三番目の皇子)の子孫の、清原家が提唱して育んで来たものではないかと言われている。その清原家の〝金神秘訣暦〟が今上帝の注目を得て、その後修験道の祈祷に必要な物として広まり、江戸時代には陰陽道のテキストとして、主に陰陽家が用いていた大書が、鈔本、注釈され様々な関係者によって、民衆にも普及して行った。
 金神は人々から恐れられ、金神封じと称して祈祷を行う修験者もいたし、出雲の神様に家を供えて、金神から護ってもらおうとする家も多かったが、そんな強力神の金神を、信仰した者達もいる。
 8人の子供の内7人を亡くした或る母親は、一人生き残った娘が盲目となり、金神を拝んでいる人がいると聞き参詣し金神信仰に入った。
 金神を祈祷して抗議すると、逆に金神が降臨して口を通じて話しをした事から信仰が始まり、元金神と呼ばれ祭典日には大勢が参拝し、門前には菓子屋などが建ったという。
 その親戚筋と言われている男は眼病に罹り、子供の死と妻の病気などにより、金神の祟りではないかと言われ、幾度も転居を繰り返した。親戚筋である元金神のもとに参拝し、熱心に金神を信仰する様になった。その内金神の神憑りとなり、祈祷者となり、立教の神宣を受け、神と人を取り次ぐ結界奉仕を始めた。後に元金神に降臨した金神に請われ、金神信仰の継承者となり神道の教会の教祖となった。
 その男の実の兄は三度の自宅建築により、家族、飼牛を金神の七殺の祟りで亡くし、42歳の厄年に、喉の大病を患い九死に一生を得た。その大病の折に、天地金乃神(てんちかねのかみ)の声を聞いた事から、実弟が金神の祈祷者となっていた為、金神信仰を始め次第に自らも啓示が分かる様になった為、沢山の不思議な体験をする事となり、神示により農業を辞めて神の取次に専念する様になった。そして神より、生神大神の神号を受け、或る宗教の生神大神となった。
 明治の中期最も恐ろしいとされる、艮の金神の突然の降臨により、神憑りとなって自動書記の啓示を得た女性が存在し、或る宗教の傘下での活動をしていたが、教祖となって娘婿と教団を作った。その教団では娘婿に、国常立尊の妻の豊雲野尊が降臨したとされている。
 また神典研究家であり画家で、その教団の機関誌の編集長をしていたとされる者が、国常立尊からの神示を自動書記により得て、日本で有名な予言とされる神示となっている。
 陰陽道から生まれた金神を、高級神の国常立尊と見なしているところもあるが、果たしてそれが本当かどうかは、高々の人間には分からないだろう。
 また違う神が憑依して天啓を得て、大きな教団の教祖となったとされている者もいる。
 つまり人間には、分からないと言う事だ。
 有名な宗教や神示以外にも、神は人に啓示を授けているが、果たしてソレがどこまで真実であるかは、研究者やソレを聞いた者達、信じる者達ですら判然としないものだ。なぜなら、まずその神が真実の神であるかが、判然としないからで、ご神託を得たのはほんとうであろうと思っても、真実の高級とする神のものなのか、それを模した低級の神であるのか、はたまた妖の類のものであるのか………。
 そしてほんとうにその人は、ご神託を得たのか?

 ………感じる………

 これ程人間にとって、あやふやなものはない。
 相手が嫌っているとか、好いてくれているとか………。
 宝クジが当たるとか、事故に遭うとか………そんな風に感じた事が、必ずしもそうだとは限らないのが現実で、思い過ごしとか自意識過剰とか、いろいろな要因で思い込んでいたりするわけで、痛いとか熱いとか寒いとか冷たいとか、そんな分かりやすい感覚ですら、人それぞれ違っている。まして目にも見えず、有るか無いかと、はっきり分かれる第六感的感覚は、感じる者には確かで、感じ無い者には、これ程信じられなくて、感じている相手を蔑めかねないものはない。それはその人間だけの事となり、頭の中の事だけのものとなり、想像とか空想とかの域となってしまうからだ。
 そのあやふやとしか友塚が思えない、その感覚で友塚はご神託を信じている。 そしてその世界に入ってしまったら、もはや抜け出る事はできない。どんどんどんどん、ハマりにハマって行く………次から次へと起こる偶然を繋げ合わせて、それを導きだと疑わなくなっていってしまう………。
 友塚は、この友塚の〝感覚〟に関わった人間が、全て神の関わりで繋がった者達だと感じてしまった。それはとても危険な事だ。だが友塚はそう思う事すら、思えなくなって来ている。

 ………確かに神は存在して、御言葉を伝え様としている………

 そうである事を友塚は、証明したいと思っている。
 自分が神を感じる事の出来る、人間の一人である事を………。


 
 


 









 

 

 



 





 


 



 










 
 

 
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