第7話
文字数 2,019文字
近年雅楽の演奏・演舞を宮内庁の楽部が、宮中晩餐会などで演奏し、無論洋楽も演奏している。
かつては楽家の世襲職であり、其処には抜きん出た能力を持つ、天才達が誕生して天子や貴族達を魅了し、その高雅で荘重なる姿が重要無形文化財となって、現代人をも魅了しているのだろう。
かつての楽家の天才達は切磋琢磨し、その技を高みへと持っていき、最高神であり太陽神の末裔である天子に捧げ、ひいては八百万の神々に捧げた。彼等のソレは、古のシャーマニズであり、名と家を懸けた全てであったはずだ。
だが昨今のソレは、意味も形も変わってきている。特に寺社などは神事の為の、慣習としての演奏を行っている為に、その技量としての差は大きいとされているし、伝統的製造が必要な楽器や舞楽装束は、職人の技量、技術の維持や継承が難しくなっているといわれている。
また廃絶された曲や失われた演奏技法を、当時の資料に基づいて現代の奏法で復元したり、平安時代の雅楽様式を再現しようと試みている団体も在るという。だが古に全盛期を迎えたソレは、決して現代の今、同じ物を捧げる事はできはしない。
それでも、民間の神楽の普及は進んでいるから、いずれ神をも魅了する奏者が再び現れるかもしれない。
そんな希望ある民間の団体に所属する鈴木は、微塵たりと動かずに、巫女達が舞う舞を喰い入る様に見入っている。
「………面白いですね……まるで伴奏にあって無いのに、実に上手く舞っている」
「同じ動作をしてるよね?」
「………ええ、同じ動作ですね…………どうして同じ様に違うんだ?……」
鈴木が小さく呟いた。
「えっ?違うの?」
向井は、敏感に突っ込んで聞く。
「まぁ………些細な事なんですけどね………ソレを皆んな同じ様に舞ってるから、ソレがまた面白い………」
鈴木はそう言って、向井を直視した。
「………なんでこんな舞を?」
「あーいや………巫女舞を、奉納しようと思ってさ」
「この神社ですか?」
「いや………」
「………ですよねー。どう見ても此処じゃない………つまり、この録画された神社に奉納しようと?」
すこぶる真顔で、怪訝気に聞いてくる。
「巫女舞………をですよね?」
確認を真顔でされて、向井は怯む。
「いや………それが………」
「………ですよね?巫女が舞う舞じゃない………それもかなり一部というか?」
鈴木が言うから、向井は
「その一部って………」
と反対に質問していた。
一人の巫女の弟も、そんな事を言っていたらだ。
「まず最初から、舞っていないんですよ。途中からある所迄を、繰り返す様に舞っているんですけど………それも細かい所がちょっと違う………ああ、例えば指先の立て方とか、足の運びとか、腰の落とし方とか………ただ雅楽って、家によって伝承されて行ったものだから、その〝家〟によって型というか癖みたいなのはあるだろうし、一旦廃止されちゃってるから、ほんとうの所というか、平安時代に完成された物だから、その時とは多少違いがあっても、仕方ない事なんだと思うし、実際現在復元されている物は、速さや長さが違っていたりしてると言われてる。舞にしても楽器にしても、その技術者によって違っただろうし、天才と呼ばれた者によっても変化は生じたはず………つまりコレが元来の動き……って事もあり得る………とはいえ、何故こうして舞わさせたのか、凄く気になりますね」
「ああ、舞わさせたわけではないんだ……舞った巫女達も、知らず識らずに舞っていたというか………」
「巫女が、勝手に舞ったって言うんですか?」
「でもないんだ。巫女達の身体?いや……意思に反して、舞っていたんだ……そうだ………」
向井が正直に言うと、鈴木は尚一層怪訝な表情を作った。
「巫女の意思に反して?……つまり、こういう風に舞ってるつもりはない……という事ですか?」
「………ああ………巫女が舞ったのは、巫女舞として定番の舞で………」
「ああ!伴奏がそうだ?」
鈴木は、今気づいた様に言った。
巫女が舞っている〝舞〟に意識が行って、伴奏の方には気が回らなかったのだろう。それ程、インパクトのある事なのか?
「私もおかしいと思って、舞う度に彼女達に確認したんだけど、実に気持ち良く最高の気分で舞っていたらしいんだ………」
「………つまり巫女さ ん は、知らない内にコレを舞っていた?」
「………そういう事になる……第一彼女達は、こんな舞は舞った事がない……と、録画を見て驚いてるくらいなんだ」
「………でしょうねぇ……この舞は難舞とされていて、ちょっと練習したくらいで、こんなに舞えるはずはない」
「えっ?そうなの?」
「ほんの一部を舞っているとしても……僕は見て吃驚したんですよ……そして何故コレを演習させ、巫女さ ん に舞わせるんだろうと………」
「いや〜、舞ってもらって無いから………」
向井はそう言うと、鈴木にとある小さな社の前で、何故巫女に舞って貰う事になったのかの、説明をしなくてはならなくなった。
かつては楽家の世襲職であり、其処には抜きん出た能力を持つ、天才達が誕生して天子や貴族達を魅了し、その高雅で荘重なる姿が重要無形文化財となって、現代人をも魅了しているのだろう。
かつての楽家の天才達は切磋琢磨し、その技を高みへと持っていき、最高神であり太陽神の末裔である天子に捧げ、ひいては八百万の神々に捧げた。彼等のソレは、古のシャーマニズであり、名と家を懸けた全てであったはずだ。
だが昨今のソレは、意味も形も変わってきている。特に寺社などは神事の為の、慣習としての演奏を行っている為に、その技量としての差は大きいとされているし、伝統的製造が必要な楽器や舞楽装束は、職人の技量、技術の維持や継承が難しくなっているといわれている。
また廃絶された曲や失われた演奏技法を、当時の資料に基づいて現代の奏法で復元したり、平安時代の雅楽様式を再現しようと試みている団体も在るという。だが古に全盛期を迎えたソレは、決して現代の今、同じ物を捧げる事はできはしない。
それでも、民間の神楽の普及は進んでいるから、いずれ神をも魅了する奏者が再び現れるかもしれない。
そんな希望ある民間の団体に所属する鈴木は、微塵たりと動かずに、巫女達が舞う舞を喰い入る様に見入っている。
「………面白いですね……まるで伴奏にあって無いのに、実に上手く舞っている」
「同じ動作をしてるよね?」
「………ええ、同じ動作ですね…………どうして同じ様に違うんだ?……」
鈴木が小さく呟いた。
「えっ?違うの?」
向井は、敏感に突っ込んで聞く。
「まぁ………些細な事なんですけどね………ソレを皆んな同じ様に舞ってるから、ソレがまた面白い………」
鈴木はそう言って、向井を直視した。
「………なんでこんな舞を?」
「あーいや………巫女舞を、奉納しようと思ってさ」
「この神社ですか?」
「いや………」
「………ですよねー。どう見ても此処じゃない………つまり、この録画された神社に奉納しようと?」
すこぶる真顔で、怪訝気に聞いてくる。
「巫女舞………をですよね?」
確認を真顔でされて、向井は怯む。
「いや………それが………」
「………ですよね?巫女が舞う舞じゃない………それもかなり一部というか?」
鈴木が言うから、向井は
「その一部って………」
と反対に質問していた。
一人の巫女の弟も、そんな事を言っていたらだ。
「まず最初から、舞っていないんですよ。途中からある所迄を、繰り返す様に舞っているんですけど………それも細かい所がちょっと違う………ああ、例えば指先の立て方とか、足の運びとか、腰の落とし方とか………ただ雅楽って、家によって伝承されて行ったものだから、その〝家〟によって型というか癖みたいなのはあるだろうし、一旦廃止されちゃってるから、ほんとうの所というか、平安時代に完成された物だから、その時とは多少違いがあっても、仕方ない事なんだと思うし、実際現在復元されている物は、速さや長さが違っていたりしてると言われてる。舞にしても楽器にしても、その技術者によって違っただろうし、天才と呼ばれた者によっても変化は生じたはず………つまりコレが元来の動き……って事もあり得る………とはいえ、何故こうして舞わさせたのか、凄く気になりますね」
「ああ、舞わさせたわけではないんだ……舞った巫女達も、知らず識らずに舞っていたというか………」
「巫女が、勝手に舞ったって言うんですか?」
「でもないんだ。巫女達の身体?いや……意思に反して、舞っていたんだ……そうだ………」
向井が正直に言うと、鈴木は尚一層怪訝な表情を作った。
「巫女の意思に反して?……つまり、こういう風に舞ってるつもりはない……という事ですか?」
「………ああ………巫女が舞ったのは、巫女舞として定番の舞で………」
「ああ!伴奏がそうだ?」
鈴木は、今気づいた様に言った。
巫女が舞っている〝舞〟に意識が行って、伴奏の方には気が回らなかったのだろう。それ程、インパクトのある事なのか?
「私もおかしいと思って、舞う度に彼女達に確認したんだけど、実に気持ち良く最高の気分で舞っていたらしいんだ………」
「………つまり巫女
「………そういう事になる……第一彼女達は、こんな舞は舞った事がない……と、録画を見て驚いてるくらいなんだ」
「………でしょうねぇ……この舞は難舞とされていて、ちょっと練習したくらいで、こんなに舞えるはずはない」
「えっ?そうなの?」
「ほんの一部を舞っているとしても……僕は見て吃驚したんですよ……そして何故コレを演習させ、巫女
「いや〜、舞ってもらって無いから………」
向井はそう言うと、鈴木にとある小さな社の前で、何故巫女に舞って貰う事になったのかの、説明をしなくてはならなくなった。