第5話
文字数 1,721文字
その日は三種類の舞を、社殿正面で奉納して終わりとなった。
向井は、奉納舞の様子を録画させていた。
万が一巫女達から、ご神託を得られればという、微かな期待もあったのかもしれない。だがご神託どころか、怪 しな舞となってしまった。
ところがその翌日、向井は昨日舞った巫女から、驚くべき事を聞かされた。
あの日神社で、ご神託の舞の奉納をする………という事は公言してはいない。
現代において、〝ご神託〟自体が怪しい存在だから、そんな事を公言する程友塚は度胸がよくない。というより、度胸など無いに等しいタイプだ。
だが必ず神託である確信はあるが、それを公言する度量は無いのだ。まして加担してくれる向井は、もっと疑心暗鬼だ。第一友塚が、ご神託と断言する事自体が信じられない。否、友塚を信じられないのではなくて、友塚がそう断言できる程の〝能力〟を持っている事への不信感だ。
友塚と向井は、大学を同じとした友人だ。
学生の頃からの友塚を知っている限り、友塚は嘘をつかないし、神職についてから然程父親から教えを得る事も無く、早くに父を亡くしているから、未だに父親の脛を齧ってる感のある向井と違い、努力家で勤勉で真面目なタイプだ。だから人間としては信頼しているが、特別な能力という事になると、向井同様凡人だと思っているから、〝ご神託〟と断言したところで………という感は否めない。だがそんな友塚だからこそ、その真に迫った表情と言い方は、決して嘘を口から出まかせに言っているとは思えない。だから向井は半信半疑だ。だが心の奥底では、〝ご神託〟を期待している。そう………期待しているのは、友塚ではなくて向井だ。もしも本当に〝それ〟が存在するならば、自分自身の全身全霊で感じてみたい。向井が断言する様に、確信を持ってみたいのだ。
かつて、ご神託を頂いた巫女であった、ご先祖様の様に、向井は神の声を聞いてみたいのだ。
そんな向井に、ご神託どころか怪しい舞となったにも関わらず、巫女達は
「絶対変な舞は、舞っていない 」
と言い張った。
だが様子も表情も……視線など定まった状態ではなかったのに、彼女達は全員
「今までにない出来だった」
と言うし、満悦の表情が現れている。
そんな状態の巫女と、それを見ていた自分の違和感とに、かなりの差を感じて混乱気味の向井に、一人の巫女が
「弟が見に来ていたんですけど……」
と言った。
巫女の弟は、姉が巫女となって舞を舞う様になり、日本の伝統ともいうべき〝舞〟に興味を持ち、大学にある神楽のサークルに所属しているらしい。
その弟が姉の舞いを見て
「何故、巫女舞ではないものを舞ったのか? 」
と聞いたという。
全く身に覚えが無く、それどころか今迄に無い程の舞を、舞った感がある巫女は、もの凄く不機嫌になって
「自分は予定通りの舞を、完璧に舞った」
と言って激怒した。
すると弟は唖然とする様に、携帯で撮った姉の舞を見せた。見せられた巫女は、何度もその画像に見入って驚愕した。
陶酔する様に舞う巫女は、確かに自分で………だが舞っているものは、自分が思って舞っているものでは無く。全く舞う事が、できない舞だったからだ。
「これは唐楽の舞の、ある部分を舞っているんだけど、何故皆んな同じ舞を舞ってたの?」
と、本当なら三種類の舞を、神様に奉納しているはずなのに、同じ様に舞う巫女達の動画が続いている。
「………そんな………私達はそれぞれ、違う舞を舞いました………」
その話しを聞いた巫女達は、点でにそれを否定するが、向井が撮らせていた画像を見た巫女達は、顔色を変えて互いに顔を見合わせた。
「こんな舞、習った事もないし………舞えるはずがない」
「…………それも皆んな、同じ様に舞ってるけど、練習した事もない………」
言葉を失った巫女達に、向井は視線を向けながら
「………舞楽の一部なんだね?」
と、弟の話を語った巫女に、確認する様に言った。
「……あ?ええ……そう言ってました……舞楽の一部だって……」
「舞楽の何の一部なんだろう?」
「……それが…………」
「ああ……大丈夫。鈴木さんにでも聞いてみるよ」
すると巫女達は、ああ……と言って納得した。
向井は、奉納舞の様子を録画させていた。
万が一巫女達から、ご神託を得られればという、微かな期待もあったのかもしれない。だがご神託どころか、
ところがその翌日、向井は昨日舞った巫女から、驚くべき事を聞かされた。
あの日神社で、ご神託の舞の奉納をする………という事は公言してはいない。
現代において、〝ご神託〟自体が怪しい存在だから、そんな事を公言する程友塚は度胸がよくない。というより、度胸など無いに等しいタイプだ。
だが必ず神託である確信はあるが、それを公言する度量は無いのだ。まして加担してくれる向井は、もっと疑心暗鬼だ。第一友塚が、ご神託と断言する事自体が信じられない。否、友塚を信じられないのではなくて、友塚がそう断言できる程の〝能力〟を持っている事への不信感だ。
友塚と向井は、大学を同じとした友人だ。
学生の頃からの友塚を知っている限り、友塚は嘘をつかないし、神職についてから然程父親から教えを得る事も無く、早くに父を亡くしているから、未だに父親の脛を齧ってる感のある向井と違い、努力家で勤勉で真面目なタイプだ。だから人間としては信頼しているが、特別な能力という事になると、向井同様凡人だと思っているから、〝ご神託〟と断言したところで………という感は否めない。だがそんな友塚だからこそ、その真に迫った表情と言い方は、決して嘘を口から出まかせに言っているとは思えない。だから向井は半信半疑だ。だが心の奥底では、〝ご神託〟を期待している。そう………期待しているのは、友塚ではなくて向井だ。もしも本当に〝それ〟が存在するならば、自分自身の全身全霊で感じてみたい。向井が断言する様に、確信を持ってみたいのだ。
かつて、ご神託を頂いた巫女であった、ご先祖様の様に、向井は神の声を聞いてみたいのだ。
そんな向井に、ご神託どころか怪しい舞となったにも関わらず、巫女達は
「絶対変な舞は、舞っていない 」
と言い張った。
だが様子も表情も……視線など定まった状態ではなかったのに、彼女達は全員
「今までにない出来だった」
と言うし、満悦の表情が現れている。
そんな状態の巫女と、それを見ていた自分の違和感とに、かなりの差を感じて混乱気味の向井に、一人の巫女が
「弟が見に来ていたんですけど……」
と言った。
巫女の弟は、姉が巫女となって舞を舞う様になり、日本の伝統ともいうべき〝舞〟に興味を持ち、大学にある神楽のサークルに所属しているらしい。
その弟が姉の舞いを見て
「何故、巫女舞ではないものを舞ったのか? 」
と聞いたという。
全く身に覚えが無く、それどころか今迄に無い程の舞を、舞った感がある巫女は、もの凄く不機嫌になって
「自分は予定通りの舞を、完璧に舞った」
と言って激怒した。
すると弟は唖然とする様に、携帯で撮った姉の舞を見せた。見せられた巫女は、何度もその画像に見入って驚愕した。
陶酔する様に舞う巫女は、確かに自分で………だが舞っているものは、自分が思って舞っているものでは無く。全く舞う事が、できない舞だったからだ。
「これは唐楽の舞の、ある部分を舞っているんだけど、何故皆んな同じ舞を舞ってたの?」
と、本当なら三種類の舞を、神様に奉納しているはずなのに、同じ様に舞う巫女達の動画が続いている。
「………そんな………私達はそれぞれ、違う舞を舞いました………」
その話しを聞いた巫女達は、点でにそれを否定するが、向井が撮らせていた画像を見た巫女達は、顔色を変えて互いに顔を見合わせた。
「こんな舞、習った事もないし………舞えるはずがない」
「…………それも皆んな、同じ様に舞ってるけど、練習した事もない………」
言葉を失った巫女達に、向井は視線を向けながら
「………舞楽の一部なんだね?」
と、弟の話を語った巫女に、確認する様に言った。
「……あ?ええ……そう言ってました……舞楽の一部だって……」
「舞楽の何の一部なんだろう?」
「……それが…………」
「ああ……大丈夫。鈴木さんにでも聞いてみるよ」
すると巫女達は、ああ……と言って納得した。