第4話

文字数 1,006文字

 とある小さな神社………それも無人の神社で、社も小さく鳥居からの境内というか敷地も狭い。
 その鳥居だって、古くなって朽ちてしまったので、氏子達の祖先が新しく建て替えたものだ。
 その時小さな狛犬を、社の前に奉納したが、その狛犬達も時の経過で、とても綺麗な物とはいえなくなっているが、それでも地域の氏子達によって、社殿も敷地も綺麗に掃除されている。
 そしてその神社の裏に広がる森林は、見事に竹林が広がっていて、自然の恵みの中に存在する神社………否、神社の恵みにより、人間の垢が付かずに在る森林といえる様な所だ。
 まぁ、この辺りは、広く田畑が広がる一帯で、それが為にこの様な神が、小さな社に座すのやもしれない。
 そんな社殿の前に敷物を敷いて、巫女が舞う。

 かつてシャーマニズムとしての巫女の舞は、シャーマンとしての能力である憑依の儀式を行い、神からのお告げを得ていた。それは人々の生活に無くてはならない、様々な事を占ったり魔を祓ったりした為、巫女の存在は大きなものとなり、人々を導き指導者として地位を確立して、国の(あるじ)となった巫女(もの)もいる。
 だが明治時代の〝巫女禁断令〟により、日本における永きに渡って伝承された、シャーマニズムとしての巫女は排除され、神社での神事の奉仕、神職の補助と変わって来た。
 そしてその巫女が舞う〝舞〟にも、その意味合いは大きく変わる。
 シャーマンとしての巫女が舞わねば、憑依は有り得ないし神憑(かみがか)りとはなり得ない。ただ伝統文化としての、巫女の舞が舞われるだけだ。
 扇や榊を手にした、巫女装束を纏った巫女が舞う………。
 だがその表情が(おか)しいと、友塚と向井は直ぐに気が付いた。
 神憑りなトランス状態な、あの高田の孫の光大の様な、そんな状態では無いが、それでも彼女達の表情が(おか)しいのだ。眼も虚ろで、何処を見ているか解らない。
 一通り舞い終わった巫女に、向井は慌てて近寄り様子を確かめる。
 すると巫女は、唖然とした様に向井を見つめ、吃驚する様な事を言った。

「凄く気持ち良く舞ったそうだ……」

 向井は、傍らに居た友塚に報告する。

「えっ?陶酔していたってヤツ?」

「ああ……それと、舞いが違う気がして確認したんだが、そんなはずは無いと叱られたよ」

 向井は怪訝そうに言ったが、次に舞った巫女も同じ状態となり、やはり同じ事を言った。そしてその次も………。

「………どう考えても舞が違う。だが彼女達は、違わないと言い張る」
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