第12話

文字数 3,814文字

「父がこっちに転勤になって、祖父母の側に住む様になったので、僕は足がわりに運転手させられて、よく其処の神社に連れて行かれるんですよ。最初は年寄りの戯言的に、ちょっと冷めた目で見てたんだけど、調べてみたら意外と面白いな………と思っちゃったんですよね………偶然というのか奇遇というのか、確かに祖母のいう神様が祖母の誕生と、曾祖母の死に苦悩する祖母に関わっている………」

 望月は童顔の顔を、また綻ばせる。

「祖母は、凄くその神様に縁を感じるって言うんだけど、だからと言って信仰心を持つわけじゃない………曾祖母が亡くなった頃は、よくお詣りしてたみたいだけど、最近は殆ど行かない。僕が暇してると、連れて行ってくれと言ってたけど、最近じゃ全く言わなくなった………ある時聞いたら、もう呼ばれてない気がする……って………だから行かない……って………」

 友塚が怪訝そうに見ると、望月が笑った。

「神様ってほんとうに、呼ぶって事するのかな?実体が無いから解らない。だけど日本で有名な、御神示ってありますよね?自動書記させた物とか……子供の不幸を抗議したら、その口を通じて話しをしたり、神憑りで自動書記の啓示で宗教になったりしてる。まぁ、調べてみると、祖母が授かったと、勝手に思い込んでた曾々祖母さんは、そこの信者であったんだけど………だからご神託と聞いて、凄く気になってしまったんです。その神様って誰なのか?ほら、宗教団体によって、ご神託する神様って違うじゃないですか?」

「いやいや……される神様は、そういないんだけどね………」

 友塚が、笑って言った。
 日本には、尊いお方の祖神が座される。その祖神が子孫に伝える事が多く、ソレが神事となって行く。
 だがあそこの神は、祖神とされる神ではない。

「アソコの神様は、望月君が言っている神様………たぶんお祖母さんが、関わりあると思っている神様です。そしてご神託には間違いない………ただ……私は確信を持っている事なんだけど、自分にそんな能力があるとは、とうてい思って育ってないので、不安要素はあるだ」

「………でも友塚さんが、神憑りになったわけではないんですよね?」

「うん……違う。また、神憑りになった子は、あれ以来そういう状況にはなってない。自動書記として残っている物とかは、時間をかけて書かせているけど、光大君の場合一昼夜だ。それが何回かあったんだが、全て同じ事を言っている。それも言葉……と言っても何を言っているか解らない、だから〝口を通じて話しをした〟説とはかなり違う」

「それでも同じ神様だと?」

「その子の祖父が、同じ神様を祀っている神社……といっても、私が兼任している神社で……普段は無人の神社だし、神社というには小さいお社の氏子なんだ。そして総代って言って、駐屯しない私の代わりに、神様にご奉仕してくれている」

「ご神託なんですね?」

「私はそう確信してる」

 すると望月は、また面白そうに笑った。

「………何を託されたか、解らないんじゃね?」

「………それで困っているんだ」

 友塚は、困惑したりと腕を組んだ。

……そうだ、神託だ……託されているのだ……何を?それが解らなくては、託された意味がない………
………しかし何故なんだ?神憑りとなって話せたり、自動書記をさせる事ができるのに、何故こんなに時間のかかる相手を選んでいるんだ?
………神は不思議だ。子供ができにくい夫婦に、信仰心の厚い親の願いを聞き届け子供を授けた。その子が母親の大病に当たり、不安を抱いていたらその子を呼び寄せた………

 それを後付けとか、形の無い強大な力を持つ神に縋っただけ、と言う事は簡単だし、実のところそうなのかもしれないが、その母娘は不思議な偶然に救われた。

………否、神は全てを見透して、関わる者に関わるのか?神と関わる人間と、関わる事のない人間が存在する………自分は当然関わりある人間だが………

 否これも違う、コレは現代において職種としての関わりだ。太古の昔の関わりではない。つまりシャーマニズとしての関わりで、その能力を与えられて誕生するソレだ。神が関わり遭う者はソレで決まるが、人間が信じているモノではない。神が関わるからといって、護られるものではないが、微かに手を差し伸べる事がある。ソレを見つけられるかどうかは、その人間次第であり、神は甲斐甲斐しく教えてはくれない。
………そしてたぶん自分も、その関われる人間として生まれた。だから神は啓示を示した。だがそれを友塚にしなかったのは、やはり友塚にはそういった能力が欠如していたからで、光大は素直に現わせる子供だったからだ………否昨今の人間には、ソレをするのが難しいのかもしれない。余りにも情報過多で、知識があり過ぎて、今の人間は神にとって、難しい存在となっているのかもしれない。

………ならば……

 友塚は、これも神の啓示だろうか?と思った。
 望月の祖母が、途方に暮れていた時に、偶然か必然か、とにかく幼い頃から聞かされてきた、話しに出てくる信仰の神が祀られる神社に出遭った。そこから始まる不思議な体験は、きっと奇跡の様なものに思えたのだろう。
 だから、どんどんと関連付けて行った……。どっぷりハマり、縋る様にお詣りをする。見る人によっては、神経衰弱となっていて、一歩間違えれば危ない状態だったかもしれない。
 だが望月の祖母は、神に呼ばれたと言っても、決して神の仕業とは思わず、母の言葉として受け取った。それは確かにそうだからで、神はその力を寝たきりになった母親に与えたかもしれないが、決して神はそれ以上の事はしてはくれない。だが数々の偶然・奇遇の中で、望月の祖母は、確かな母親の思いを読み取った。
 望月の祖母が、高祖母が信じた様に、神が授けた子供であるか否か、それは決して解る事ではなくて、それを信じた高祖母が存在し、それを言い伝えた曾祖母が存在し、そしてその曾祖母の最後の時を迎えるにあたり、祖母はその神の存在を信じて愛する母を見送った。
 確かに三代において、神は彼女達に関わりを持った。それは高祖神に持ったものなのか、曾祖母に持ったものなのか、祖母に持ったものなのか………とにかく〝その神〟を信じ、縋り支えとしてただ一人の母親を見送り、そして、一種の不安か危機感が失くなった今、望月の祖母は

「神が呼んでいない」

 と言っているという………つまりそれは感覚……感知なのだろうか?
 友塚は光大の意味不明な言葉と、〝舞〟という言葉をご神託だと感じた。
 …………ただ感じたのだ。ただ感じただけだから、だから向井を使って巫女に舞わせたり、光大の言葉を無理くり解読する事を頼んだり………ソレが不安でならない。不安でならないクセに、どうしても結果が欲しい。

 ………つまり、ご神託であるという証だ……

 その証を得る為には、全ての偶然と奇遇とを、敏感に読み取って繋げて行かなくてはいけないのだ。光大が神憑りなった瞬間から、アノ神が関われる者達を使って、その証を現そうとしている。
 ………だがほんとうに、現してくれるのかは定かではない。望月の祖母の様に、必要性が無いと判断されれば突き放される。
 ………それは逆で、望月の祖母が縋る必要がなくなった為に、自ら切り離して神を捨てたのか?………そうだ形の無いものに対して、証を見つけるのは無理だ。望月の祖母が神に呼ばれたのか……その神の力によって、大事な母親の意思に沿え最期を決められたのか………それはただの思い込みで、単に望月の祖母が、愛する母親を喪う時の悔恨や自責の念から、自分を護ろうして逃避しているだけの事なのか………。
 友塚は幾度も繰り返す、自問自答に苛まれる。
 とある小さな社の氏子でる、高田の依頼で光大に会って、それがご神託であると感じてしまった時から、ずっと友塚はコレに苛まれている。

 ………是か非か……真実か虚偽か………

「もしもその神様が、祖母が信じている神様ならば、僕もご神託を知りたい」
 
 望月は、急に神妙な顔を作って考え込んだ友塚に言った。

「えっ?」

 友塚が現実に引き戻されたように、疑問符を発した。

「………祖母を神社に、お詣りに連れて行った時、最後に意識のなかった曾祖母さんと話したと言ったんです。………ありがとう、もう行くね……って……それから三日後の朝、曾祖母さんは亡くなって、祖母は最期に間に合わなかった。それどころか、最後の挨拶に枕元に来てくれなかった………だけど祖母はその三日間、意識がないはずで、話す事も出来ないはずの曾祖母さんが、返事をしているのを聞いてて、きっと知り合いが大勢迎えに来て、楽しくて私に挨拶する暇がなかった………って信じてて………その話しを聞いた時は、思わずばあちゃん痛いよ………って言ったんだけど、もしなんらかの因縁で、本当に神様が祖母が生まれる様にしてくれていたのなら、ソレがなかったら僕も父親も生まれていない………なんかそう思うと、神様って何なのかなぁ……って………だから先生が、ご神託って言葉漏らした時、凄く気になったつーか………知りたいって思った……僕も関わりあるかもしれない神様が、ご神託をしてる神様だったから、その神様なのかどうか?もし同じ神様だったら、何を託したか知りたいです………」

 友塚は、またまた感じてしまった。

 …………動いている人間は、アノ神に関われる人間だ………
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