第2章 第1話

文字数 713文字

 ひと月半ぶりの自宅はお袋の匂いがした。

 当分は自宅療養。松葉杖で左足を地面につけるようになり、移動は自分の意思で出来る様になってのこの退院である。左足にかける荷重の割合は、骨の治癒度に応じて充てがわれる。退院までに2/3程度の荷重を左足にかけられるように、退院後は3/4程度、通院しながら術後60日ほどで全荷重をかけられるのが今の俺の理想である。

 橋上先生の言ではないが、俺は元々体育会系。つい無理をして頑張ってしまいがちなのは素直に認めよう。光子が退院後に車で(我が家の!)自宅に送ってくれた後、お袋に

「だからね、おばちゃん。コイツに絶対無理させないでね。松葉杖使わないで歩こうとしたらド突いて! そんですぐアタシに連絡して。締めるからさ!」

 お袋はちょっと困った表情で、

「ハイハイ。でもねえみっちゃん。私も結構忙しいのよねえ、この子にあんまり構ってやれないのよ〜 だから、みっちゃんしばらくウチに居なさいよっ それでこの子の面倒を…」

 光子は飛び上がって驚きながら、

「ムリムリムリー そ、そんな、は、恥ずかしいって…」
「でもねえ、みっちゃん。この子が入院してる間にね…」
「え… な、何?」

 ニヤリと笑いながら。

「色んな女性から電話あったのよー」
「え…え、え、え、」
「お見舞い行きたいから病院教えてください、とか〜」
「な、な、な…」
「介護のお手伝いしたいから、お邪魔してもいいですか〜 とか〜」

 それは嘘だな。お袋、盛り過ぎだぞ。

「ひ、ひ、ひ〜〜〜」
「みっちゃんウチに来れないなら〜 誰だっけか、あの人にお任せしちゃおうかしら〜♫」
「や、や、やめ…」
「ふふふ。じゃあ、明日から宜しくね〜 この子の面倒♬」

 流石だよ。お袋…
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