第3章 第7話

文字数 1,152文字

 休憩後の取り調べは田中に任せる、当然彼女は完全に黙秘だ。こちらも焦らずにその姿を見つめる。今の彼女は怒りに打ち震え、修羅の如く田中を睨みつけている。世間の男は弱々しく放っておけない彼女の姿に心奪われ堕落していく。今の彼女を見て、彼らはどう反応するのだろう。

 昼食後、金光と島田が連れ添って署に到着する。署の正面玄関前に物凄いブレーキ音を立て到着したものだから、地元ヤクザのカチコミかと四課の連中が色めき立つ登場に苦笑いだ。
金光は軽くびっこを引きながら、それが島田の運転によるものでないことを祈りつつ、真っ白な顔で俺に会釈する。

「遅くなった、すまん。由子ちゃんの状況は?」
「完黙だ。親の仇の如く俺たちを睨み続けてるよ」

 島田が揶揄うように、
「へーー。随分と嫌われたもんだな、刑事さんよお」

 流石に金光は警察署内で緊張気味なのだが、彼女は平然としている。本当に警察慣れした女性だ、正直やり易い。

「いいんだ。それよりも島田さん。間宮の疑いを晴らすには貴女の供述が是非必要です。ご協力お願いします」

 頭を下げると金光も、
「光子、頼む。何でも話してやってくれ。コイツは本当に信用出来る男だ」

 島田は俺をジロリと睨みながら、
「ふん。アンタ、ウチの人のダチだったんだって?」
「コイツはどう思っていたか知りませんが。」
 大きく息を吐き出し、
「ふん。コイツに頼まれたんだからな。しゃーねえ。何から話せばいいんだよ?」

 想定していた以上に、島田の供述は貴重なものであった。我々が全く辿れなかった、間宮と闇業者の間の人物の存在に課はどよめき動き出す。間宮がこの一連の事件を引き起こしたのではなく、間宮がこの事件の囮である事が判明し、署が騒然となる。

 島田の供述に従い、二課の数名がすぐに東京へ向かう。俺もスマホを片手にあちこちに連絡を取りつつ聴取を続ける。供述が終わり、すぐに間宮の取り調べを再開すべく部屋を出る。

「二人とも今夜は?」
「アタシの息子んトコ」

 島田龍二。35歳独身。山口大学獣医学部卒、三津浜動物病院勤務。地元では有名な、
「三津浜のドリトル、ですね?」

 金光が感心したように、
「へー。こっちでは龍二くん、そんなに有名なのか?」
「いや、全然。地元の一部でな。今夜、食事でもどうだ? 久しぶりに」

 金光の懐かしい蕩けるような笑顔。
「いいね。何か美味いもの食わせろ」

 島田も口から涎を垂らしながら、
「酒もな、旨―い酒っ」

 俺は軽く吹きながら、
「いいですが、去年の様に泥酔客にチョーパンは勘弁してくださいよ」

 ギョッとした顔が意外に可愛い。
「…オメエ、何で知ってん…」
「何々〜? ソレ…」

 おっと。金光には話していないようだ、危ない危ない…
「ああ、また後で。連絡する」

「ああ… おい光子… 何だよ、チョーパンって…」
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