第2章 第3話
文字数 1,487文字
両家族の総意の下、俺と光子の半同棲生活が始まる。
朝御飯が終わる頃、彼女は我が家にやってくる。掃除洗濯などこなした後、俺のリハビリを兼ねて一緒に近所に買い物に行く。夕ご飯を作ってくれた後、『しまだ』へ。入院時よりもより濃密な時間を共に過ごす日々。
共に過ごして初めて知るのだが、相当ズボラな性格と思いきや、意外にも几帳面な所を随所に発見する。先ずは食事の片付け。お袋もそうだし里子もそうだったが、食器の片付けは食後しばらくしてから、下手打つと翌朝まで残していることもしばしばだ。ところが光子は…
「遺恨は後に残しちゃいけねえからな。即カタ付けねえとな〜」
遺恨? 何だそりゃ?
風呂に関しても、我が家は二日に一回湯を替えるのだが…
「世俗の垢は毎日流さにゃあ心まで汚れちまうだろうが」
来月の水道代、ガス代が…
さらに、家の掃除、特に玄関…
「玄関っつうのは、そいつん家の顔だろうが。アンタ顔毎日洗うだろう。家だって毎日綺麗に磨か
にゃあ。お袋さんの顔汚しちゃいけねえよ」
この辺りから、嫁小姑あるある紛争が勃発する。
「お祖母様。ウチの部屋、勝手に入らないでくれません?」
「オメエの部屋の汚さはよお、オメエの育ちに関わんだろうが。何だオメエ、翔と住み始めたら翔に掃除させんのか。人の孫にテメエの汚れ綺麗にさすんかコラッ」
「んぐ… 今後は自分で掃除するんで。だから部屋には入らないでっ」
「ったり前だろうが。そん歳でテメエのことも出来ねえ小娘にウチの孫はやれねえっつんだよ」
本当に葵は地団駄を踏みながら(こんなの実生活で初めて見た!)、
「キーーーーーーーーーーーーーーーーッ パパッ!」
俺は首を振りながら、
「葵。お前の負けだ。父さん前から言ってたろう。部屋とか自分の洗濯物とか、ちゃんと自分で片付けなさいって。」
「もうイヤっ 今夜翔くんの所に泊まるっ」
「そーしろそーしろ。アイツの部屋、綺麗だもんなあー ウシシシ」
「クソババッ オニババッ 貧乳垂れ乳ババアッ」
「んだとコルラーーーーーーーッ」
「クモの巣張ってんじゃねーよ、閉経ババアが!」
ここまで口が悪くなるなんて… 死んだ里子に何と詫びればよいやら…
「葵っ! いい加減にしろっ」「まだ閉経してねえよボケ」
「えっ?」「あっ…」
「もーいや。マジウザ。お邪魔しましたー、行ってきまーす」
3年前にこの実家に戻るまで、葵は言葉遣いの綺麗な優しい子だった。大手銀行の支店長の娘に相応しい、育ちの良い娘だった。他人と喧嘩なんて生まれてから一度もしなかった。他人をしかも目上の者を口汚く罵るなど、考えられない子であった…
なにがいけなかったのだろうか。それはこの土地柄であろう、間違いなく。葵の生まれ育った杉並には、光子や健太のような人種は存在しなかった。
きっと学校の級友も相当荒んでいるのだろう。いつの間にか葵の髪の毛は黒で無くなっていた、校則には従いなさいと叱ると、そんな校則ねえし、と返される。あそっか、昔から有名無実な校則だったわ。
そんな荒んだ学校、転校してしまえと言えないのが母校の辛さだ。娘をどんなに堕落させようと、己の母校故に文句の一つも言いに行けない。精々『居酒屋 しまだ』で愚痴ることしかできないのだ。
「ハアー。どうしたものだか」
俺が溜め息をつきながら光子に愚痴ると、意外や意外、
「へ? いい子じゃん。言う事キッチリ言うし、やる時はやるし」
「え… そうなの?」
「ったく。親が信じてやらなくて、誰が信じんだっつうの。しっかりしろや、父親っ」
背中をバシッと叩かれる。大黒柱。彼女を見て不意にこの言葉が浮かんでくる。
朝御飯が終わる頃、彼女は我が家にやってくる。掃除洗濯などこなした後、俺のリハビリを兼ねて一緒に近所に買い物に行く。夕ご飯を作ってくれた後、『しまだ』へ。入院時よりもより濃密な時間を共に過ごす日々。
共に過ごして初めて知るのだが、相当ズボラな性格と思いきや、意外にも几帳面な所を随所に発見する。先ずは食事の片付け。お袋もそうだし里子もそうだったが、食器の片付けは食後しばらくしてから、下手打つと翌朝まで残していることもしばしばだ。ところが光子は…
「遺恨は後に残しちゃいけねえからな。即カタ付けねえとな〜」
遺恨? 何だそりゃ?
風呂に関しても、我が家は二日に一回湯を替えるのだが…
「世俗の垢は毎日流さにゃあ心まで汚れちまうだろうが」
来月の水道代、ガス代が…
さらに、家の掃除、特に玄関…
「玄関っつうのは、そいつん家の顔だろうが。アンタ顔毎日洗うだろう。家だって毎日綺麗に磨か
にゃあ。お袋さんの顔汚しちゃいけねえよ」
この辺りから、嫁小姑あるある紛争が勃発する。
「お祖母様。ウチの部屋、勝手に入らないでくれません?」
「オメエの部屋の汚さはよお、オメエの育ちに関わんだろうが。何だオメエ、翔と住み始めたら翔に掃除させんのか。人の孫にテメエの汚れ綺麗にさすんかコラッ」
「んぐ… 今後は自分で掃除するんで。だから部屋には入らないでっ」
「ったり前だろうが。そん歳でテメエのことも出来ねえ小娘にウチの孫はやれねえっつんだよ」
本当に葵は地団駄を踏みながら(こんなの実生活で初めて見た!)、
「キーーーーーーーーーーーーーーーーッ パパッ!」
俺は首を振りながら、
「葵。お前の負けだ。父さん前から言ってたろう。部屋とか自分の洗濯物とか、ちゃんと自分で片付けなさいって。」
「もうイヤっ 今夜翔くんの所に泊まるっ」
「そーしろそーしろ。アイツの部屋、綺麗だもんなあー ウシシシ」
「クソババッ オニババッ 貧乳垂れ乳ババアッ」
「んだとコルラーーーーーーーッ」
「クモの巣張ってんじゃねーよ、閉経ババアが!」
ここまで口が悪くなるなんて… 死んだ里子に何と詫びればよいやら…
「葵っ! いい加減にしろっ」「まだ閉経してねえよボケ」
「えっ?」「あっ…」
「もーいや。マジウザ。お邪魔しましたー、行ってきまーす」
3年前にこの実家に戻るまで、葵は言葉遣いの綺麗な優しい子だった。大手銀行の支店長の娘に相応しい、育ちの良い娘だった。他人と喧嘩なんて生まれてから一度もしなかった。他人をしかも目上の者を口汚く罵るなど、考えられない子であった…
なにがいけなかったのだろうか。それはこの土地柄であろう、間違いなく。葵の生まれ育った杉並には、光子や健太のような人種は存在しなかった。
きっと学校の級友も相当荒んでいるのだろう。いつの間にか葵の髪の毛は黒で無くなっていた、校則には従いなさいと叱ると、そんな校則ねえし、と返される。あそっか、昔から有名無実な校則だったわ。
そんな荒んだ学校、転校してしまえと言えないのが母校の辛さだ。娘をどんなに堕落させようと、己の母校故に文句の一つも言いに行けない。精々『居酒屋 しまだ』で愚痴ることしかできないのだ。
「ハアー。どうしたものだか」
俺が溜め息をつきながら光子に愚痴ると、意外や意外、
「へ? いい子じゃん。言う事キッチリ言うし、やる時はやるし」
「え… そうなの?」
「ったく。親が信じてやらなくて、誰が信じんだっつうの。しっかりしろや、父親っ」
背中をバシッと叩かれる。大黒柱。彼女を見て不意にこの言葉が浮かんでくる。