第2章 第4話
文字数 1,266文字
時はゆっくりゆっくりと流れていく。少しずつ俺の足がいうことをきくようになって来た頃、ふと街路樹を見ると黄色く染まりつつある。夜は半袖では寒くなり、カーディガンが必要となっている。
松葉杖をつきながらも、左足に全荷重がかけられるようになった頃、リハビリの橋上先生と相談する。
「そろそろ会社に出社したいのですが。どうですかね?」
「そうねー。満員電車はフツーにキツいから、電車空いている時間帯に出社しては?」
「成る程。重役出勤ってヤツですな、それ案外得意なんですよ」
「金光さんフツーに重役じゃん、ウケるー」
今まで、メールとテレビ電話… もとい、ZOOMによって業務を家のちゃぶ台でこなして来たのだが、そろそろいい加減業務に支障をきたし始めているので、丁度いいタイミングであった。
来週から出社する旨を企画部に伝え、一月後に迫った間宮由子とのイベントの企画書をまとめておくようにと指示を出す。慌てふためく彼らの姿を思い浮かべ、何故かニヤリと意地悪な笑顔が溢れてしまった。
そんな訳で、10月の中旬、約二ヶ月ぶりに俺は有楽町にある旅行代理店『鳥の羽』に出社する。社員数50名ほど。平均年齢30歳ほど。年間売上高50億ほど。実に若々しい、これからの会社だ。
「金光さん。お帰りなさい」
エレベータを降りると社長が立っていた。弱冠38歳。自身学生時代はバックパッカーで世界中を旅して周り、自分の理想を成就すべくこの会社を立ち上げた。らしい。確か。
「迷惑かけました。ただ今帰りました」
俺は頭を深々と下げる。鳥羽は社長にも関わらず、幾度となく俺の見舞いに来てくれ、いつもニコニコと笑顔を絶やさずに「ゆっくり治してください」と言ってくれた。10歳以上年下だが、実に尊敬すべき人格と人間性を兼ね備えた優秀な経営者だ。
奥から山本くんが小走りでやって来る。
「専務! あとひと月しかありませんっ 全員てんてこ舞いの忙しさですっ 初めての規模なので見当がっ… 待ってましたよ。お帰りなさい。早速なんですがー」
二ヶ月ぶりの出社なので、社長や他の役員と軽く話しでもして社員に軽く挨拶でもして昼前にはお暇… なんて俺の目論見は瞬殺され、気がつくとフツーに定時を超えている。
「よし。これで先方に出す企画書、纏まったな。しかし、ギリギリだぞ、ひと月前って!」
「だから早く復帰して欲しかったんですよ。遅いっす…」
山本くんの先輩の吉田が言う。あれ、こんな馴れ馴れしい奴だったか…
「専務が間宮先生担当ですので、開催要領とか宙に浮いていたのですが何か?」
山本くんの後輩の、今年入社の庄司さんが言う。新人ながら恐ろしい程できる女子であり、こんなしょぼい旅行代理店に勤務しているのが謎だ。そして、この会社で唯一俺に普通に話しかけてくれる女子社員でもある。
定時を過ぎ、外はすっかり暗くなっている。ああ疲れた、ボチボチ帰ろうか、と腰を上げた時。
「じゃ、行きましょうか専務」
「は? 何処?」
「は? 専務の復帰会ですが何か?」
「何で…?」
「何でって。企画部全員参加ですが何か?」
松葉杖をつきながらも、左足に全荷重がかけられるようになった頃、リハビリの橋上先生と相談する。
「そろそろ会社に出社したいのですが。どうですかね?」
「そうねー。満員電車はフツーにキツいから、電車空いている時間帯に出社しては?」
「成る程。重役出勤ってヤツですな、それ案外得意なんですよ」
「金光さんフツーに重役じゃん、ウケるー」
今まで、メールとテレビ電話… もとい、ZOOMによって業務を家のちゃぶ台でこなして来たのだが、そろそろいい加減業務に支障をきたし始めているので、丁度いいタイミングであった。
来週から出社する旨を企画部に伝え、一月後に迫った間宮由子とのイベントの企画書をまとめておくようにと指示を出す。慌てふためく彼らの姿を思い浮かべ、何故かニヤリと意地悪な笑顔が溢れてしまった。
そんな訳で、10月の中旬、約二ヶ月ぶりに俺は有楽町にある旅行代理店『鳥の羽』に出社する。社員数50名ほど。平均年齢30歳ほど。年間売上高50億ほど。実に若々しい、これからの会社だ。
「金光さん。お帰りなさい」
エレベータを降りると社長が立っていた。弱冠38歳。自身学生時代はバックパッカーで世界中を旅して周り、自分の理想を成就すべくこの会社を立ち上げた。らしい。確か。
「迷惑かけました。ただ今帰りました」
俺は頭を深々と下げる。鳥羽は社長にも関わらず、幾度となく俺の見舞いに来てくれ、いつもニコニコと笑顔を絶やさずに「ゆっくり治してください」と言ってくれた。10歳以上年下だが、実に尊敬すべき人格と人間性を兼ね備えた優秀な経営者だ。
奥から山本くんが小走りでやって来る。
「専務! あとひと月しかありませんっ 全員てんてこ舞いの忙しさですっ 初めての規模なので見当がっ… 待ってましたよ。お帰りなさい。早速なんですがー」
二ヶ月ぶりの出社なので、社長や他の役員と軽く話しでもして社員に軽く挨拶でもして昼前にはお暇… なんて俺の目論見は瞬殺され、気がつくとフツーに定時を超えている。
「よし。これで先方に出す企画書、纏まったな。しかし、ギリギリだぞ、ひと月前って!」
「だから早く復帰して欲しかったんですよ。遅いっす…」
山本くんの先輩の吉田が言う。あれ、こんな馴れ馴れしい奴だったか…
「専務が間宮先生担当ですので、開催要領とか宙に浮いていたのですが何か?」
山本くんの後輩の、今年入社の庄司さんが言う。新人ながら恐ろしい程できる女子であり、こんなしょぼい旅行代理店に勤務しているのが謎だ。そして、この会社で唯一俺に普通に話しかけてくれる女子社員でもある。
定時を過ぎ、外はすっかり暗くなっている。ああ疲れた、ボチボチ帰ろうか、と腰を上げた時。
「じゃ、行きましょうか専務」
「は? 何処?」
「は? 専務の復帰会ですが何か?」
「何で…?」
「何でって。企画部全員参加ですが何か?」