第2章 第8話

文字数 930文字

 松葉杖とれてから行けばいいのに、とブツクサ言いながら毎朝光子が俺を家から駅まで車で送ってくれる。リハビリの日は病院まで。会社帰りはちょっと遠回りだが『しまだ』に寄って夕飯を食べ、翔と勉強?に勤しむ葵を強引に引っぺがして家までの杖代わりにする。

「パパ。もう面倒臭いからさ、こうしない?」
「何?」
「パパがババアのとこに住み込む。そんで、翔くんがウチに住み込む。どうこれ?」
「…オレは… 十五の母の父になりたくない…」
「ハア? 変態! エロオヤジ! 翔くんの爪の垢煎じて飲めっつうの。」
「ほお。そんな言い回し出来るようになるとは。あのな… 避妊はちゃんと、しろよ…」
「ハアア? アンタに言われたくない言葉ランキング1位なんですがっ って、はあー」
「…お、おい、何だその溜息… ちょ、ま、まさかお前…」
「来ないんだ。先月から…」
「えええええええええええええええええええええええええええええ」
「って言ったらビビる? てへっ え、危ないっ ちょっ、大丈夫パパっ 足平気?」

 コンクリートに尻を激しく打ち付け、しばらく息が出来ない俺に葵が語り出す。

「あのババアの孫じゃん、翔くん。すっごく堅いの。アレに関して… 私は『いいよ』って言ってるのに…」
「おいっ…」
「そういうのはダメって。ちゃんと責任取れるようになるまで、したくないって。」
「おおお…」
「あのババアも、でしょ? 見た目はヤリマン色エロババアじゃん。でも違うんでしょ?」
「そう。全然違う。」
「凄いよね。それで、今まで3人好きになってそれぞれ1回ずつって…」
「それな…」
「どんだけ真っ直ぐで誠実なのよ。ねえパパ、しんどくない? 疲れちゃわない? あの人といると。パパ本当に幸せ?」
「お前、しんどいか? 今?」
「全然。一緒にいれるだけで幸せ。」
「俺も。一緒にいて、同じ空気吸って、同じもの見て笑って、喧嘩して、いつの間にか仲直りして。お前には本当にすまないけど、里子といるより今がーそのー」
「やっとわかったよ。パパの気持ち、最近ね。でもあの頃も浮気相手とそうだったの?」
「それは違う。彼女たちにはこんな気持ち全く持たなかった。」

「そっか。それ聞いて、ちょっとホッとしたよ。でもママ天国で怒ってるだろうなー」

「だよなー」
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