第4章 第1話

文字数 1,477文字

 龍二の家に着くと、遅くなったにもかかわらず龍二と純子ちゃんが首長竜の如く俺たちを待っていてくれる。

 沸かしておいてくれた風呂に順番に浸かり、酔い覚ましのルイボスティーを啜っていると、
「しかしお袋、大変だったねえ。災難だったねえ。これも日頃の行いの報いだねえ」

 あのコミュ障の龍二が… 喋っている、こんなにも…
「コラ龍っ テメエいつからそんな口きくよーになったんだコラ!」

 光子のツッコミをガン無視して、純子ちゃんが
「て言うか、おばさん、母は…?」
「あーー、大丈夫じゃね。コイツのダチのキャリアがキッチリ真犯人ってのを捕まえっからよ」

 何故か龍二がギラリと俺を睨みながら、
「金光さんの朋友だったのですか、あの刑事?」

 あ、怒っている訳ではないのか。あと少しだな、コミュ力。
「そうなんだ。俺もここに来て初めて知ってビックリしたんだ」
「成る程成る程。流石金光さんのご学友、『沼津鮫』ですな。」
「ハア? 何その二つ名… ダッサ」

 笑い転げる光子。俺も旧友につけられた渾名に噴き出してしまう。

「て言うか、隣町の地主の脱税を挙げたら実は地元国会議員とズボズボで逆に署に御注進が入った所…」
「返り討ちでその議員の収賄も挙げてしまった、と言う恐ろしい刑事だと地元の商工会で大変忌諱されていますね。」

 あははは… 変わらない。変われない。実にアイツらしい。

「やるじゃん、アンタのダチ。完全懲悪、ってヤツか〜」
「お袋…ソレ… それより、間宮尊師はいつ釈放されるんだい? …金光さん、貴様何ですかその苦笑いは?」
「いや… 前はちっとも喋ってくれなかったキミが…」
「て言うか。それは彼の進化の証として評されるべき視点と愚慮しますが、何しろ言葉の使い方が半化と申しますか…」
「遺憾なり! その件に関しては僕も一考察があるのだが。キミと居を共にする事、三月と数日……」

 龍二と純子ちゃんは本当に上手く行っているようだ。人生とはわからないものだ。社畜としてゲッソリと悄然としていたあの純子ちゃんが、こんなにも活き活きと立ち振る舞っている。人間よりも動物とのコミュニケーションが得意だった龍二が、こんなにも人と関わるようになっている。

 出会うべくして出会った、いや、出会わなければならなかった二人。育った環境、価値観の違いに迷う事なく、二人で共に高め合って歩き続けて欲しい。

 こんな二人にさぞや目を細めていよう、と横の光子を窺うと、涎を垂らし熟睡している。俺も今日は本当に気疲れした。ので、二人で先に休ませてもらう。

 純子ちゃんが畳の間に布団を敷いてくれており、お姫様抱っこで光子を抱えそっと布団に降ろす。左足は全荷重を苦にせぬほど回復している。完治にはまだまだかかりそうだが、彼女を抱えるくらいは何でもない。

 布団に入り天井を見上げる。そしてこの二日間の出来事を振り返ろうとした時。鼾が止み、彼女が寝返りを打ち、俺の左肩に顔を付ける。俺は左腕を彼女の首の下に入れ、そっと抱き寄せる。
薄闇に目が慣れ、彼女の顔を窺うとまっすぐに俺の瞳を見つめ返す。その距離が徐々に近くなり。近くなり。
 
 近く…

 互いの舌を絡め合う。

 頭が真っ白になる。

 思わず漏れる喘ぎをさらに唇で覆い被せる。その動作の勢いが増す。

 右手を彼女の腰にあてそっと摩る。寝巻きのスウェットの隙間からその手を差し入れ、直肌をゆっくり摩る。彼女の肌が急に汗ばむ。

 彼女の喘ぎはさらに高まり、そして自らのスウェットを脱ぎ捨てる。

 俺の長袖Tシャツを剥ぎ取りる。身体を合わせる。彼女の頭部に顔を埋める。

 灼熱の熱さを互いに貪る。
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