第4章 第10話

文字数 1,088文字

 代行が龍二と純子ちゃんの家に到着する。由子を抱えて家に入ると、純子ちゃんが深い溜め息をつく

「て言うか… 何… 何が生じたのですか、金光さん、我が母堂に…」
「大丈夫か純子ちゃん… 喋り方、いつもに増して変だぞ… ああ、お母さんは大丈夫。ちょっと飲みすぎただけ。あと昨日からの疲れも…」
「『ゆうこたん 赤蠍よりも 紅サソリ』… ネットでお祭り状態ですよ。人騒がせな義母だ、険呑険呑。」

「おい龍っ 布団敷け、布団。な、何だよその目は! ば、バカヤロー、も、もう…」
「金光さん。交尾は当分控えてく…」
「はい先生っ わかってますわかってます…」
「じゅんじゅーん〜 今日はママと寝るわよお〜」

「ママ… 一体何が…」

 と言う訳で、今夜は畳の間で光子、由子、純子ちゃんが寝る事になる。引き戸を閉めた直後に三つの鼾が聞こえてくる。

「母も気苦労が多かったんでしょうね。本当に昔から他人の事に奔走し己を削って生きてきて… まあ僕に対しても、ですけどね」
「ああ。誰もが皆そう言うよ。本当に凄い人だよ、君の母さんは」

「まあ僕等子供三人に言わせれば、文句の一つも有りますが。例えば… この歳になって父親と酒杯を共に上げられない事 〜父有り遠方より来たる、亦た楽しからずや〜 僕の夢、です。」
「それ…友有り、でしょ、論語だっけ?」
「ええ。僕に朋友は二人居ます。遠くから来てくれます。が、父は居ません。遺伝学上の父は存在しますが。それがかなり寂しいです。この歳になると…」
「そっか」

「なので、相当期待しています、貴様に。」
「き、貴様…? また… えっと、何を?」
「僕の… 戸籍上の…父となられん事を。」
「そ……それ…な」

「あとの二人の姉弟は知りませんが、」
「えっと…真琴さんと、?」
「弟の隼人、です。」
「真琴さんは、今どちらに?」
「山梨で弁護士として励んでおります。」
「そうなんだ… で、そのハヤトくんは?」
「みなさんの方が良くご存知かと。」
「は? へ?」

「隼人は、名前を言えないバンドのボーカルです。よくTVで聞くのですが… 芸能の世界に疎くて…」
「まさか…『ヴォルデモード』? 嘘だろ? 娘、大ファンだよ…」
「流石、我が義父は回転の早い方で話が澱まずに良い。酒が進む。『一杯一杯 また一杯』」
「聞いてねえよ… 何なんだ、君達兄弟姉は!」

「我酔うて、眠らんと欲す」
「え、そうか、もう遅いもんな… しかし…」
「卿且く去れっ」
「え? は? きょうって?」

「明朝意有らば…」
「『い』? 明日の朝、何なの?」
「母を抱いて來たれ」
「母? え、抱いて…誰?」

「李白です」

「…そっちか。次回からは、翔を連れてくるわ…」
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