第2章 第2話

文字数 939文字

 天上天下唯我独尊、向所敵無敵逃為恐。そんな光子の(俺の知るところの)天下唯一の頭が上がらない人物が、意外にも俺のお袋なのがいまだに信じられない。

 まだ中学生の頃、光子が駅近のスーパーマーケットに討入放火未遂事件を起こした時、そのスーパーで働いていたお袋が彼女の人性を見抜き、自分を大切に、自分の為に生きなさい、と諭して以来、こんな関係が続いているらしい。

 そう言えば、光子の両親のことを俺は全く知らない。
「お前、ご両親は?」
「小学校の時、親父は事故で。母親はアタシが30の頃かな、病気で」
「そうか… 」
「アンタ、親父さんは?」
「10年前かな、病気で」
「そっか。」
「うん。」

「…」
「……」

「でよお、」「それでさ、」
「何だよ」「何?」

 互いに顔を見合わせ、そして、吹く。

「アンタん家で… こうしてるとさ… なんかマジ夫婦みてえっつうか…」
「こんなガラ悪い金髪の嫁もらった覚えない。」
「ハア? アタシだって、こんななんちゃってインテリみてえなスカした…」

 リビングの扉がバタリと開き、今地域注目度ナンバーワンの若夫婦(イラッ)が入ってくる。

「ねえねえ、夫婦喧嘩の途中に悪いんだけどおー」
「退院、おめでとうございます。元気そうで良かった!」
「これからどうするの? 食事とかお風呂とか〜 ウチ絶対ヤダよ、お風呂入れるのとか〜」
「僕が手伝いますよ。背中流したり…」
「ダメっ 翔くん優し過ぎー」

 光子かギョロリと葵を睨め付け、
「ハーン。てめえの父親の介護を拒否るとか、ありえねーわ、近頃の小娘ときたらよ。」
 すると葵は片眉を顰め、斜に構えながら
「ハア? 愛人作るわ、左遷されるわ、巨乳好きだわ、若いオンナ好きだわ、そんな父親を介護する気になれます? 器の大きなお祖母様♫」

 光子は思わず下を向き、
「んぐっ く、くそ… 確かにオマエはあの人の孫だ… 何も言えねえ…」
「ですので。このしょーもない父の世話はシモの世話まで含めて、お祖母様、お願いしますわ。ねー、翔くん♡」
「あ、そゆこと… そうか、そうだね、うん。お婆ちゃん、金光さんの事、頼むねっ」

 何だかな〜 翔、まだお前15だろ… 何尻に引かれてんだよ。お前の10年後の姿、丸見えだぞ。手を引くなら早めがいいぞ。今度ゆっくり話でもするかな。
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