第4章 第5話

文字数 1,519文字

「間宮さんは業者からの絵の購入に関して黙秘していた。なので、業者からどのように絵を購入したのか俺たちはサッパリわからなかった。午後、島田さんがくれた情報は正直驚くべきことだらけだったんだ。」

「そ、そーかー?」
「ええ。間宮さんと闇業者の間を取り持ったのがフリー記者の岩倉である事。この男に関して我々は全くのノーマークだった」
「ほ、ほう… そうかね…」

「すぐに岩倉の事を調べた結果 〜まあこれは今朝わかった事なんだが〜 闇業者とズッポリの関係だったんだ」
「やっぱり。由子ちゃんは騙されていたんだな?」

 目の下に真っ黒の隈をこさえている青木の肩を思わず掴む。
「その通り。では岩倉と間宮さんの接点は? これも島田さんが教えてくれなければ岩倉を完落ちさせる事は出来なかったよ」

 なんと… 全て、光子の供述によって捜査は解決に向かっていたのか… 光子はちょっと照れた様子で、
「まあ、まあ〜」

「それって… 由子ちゃんがフリーの記者に脅されていた事と関係あるんだな?」
「ああ、お前も知っていたのか。そう。岩倉が過去の事を記事にすると間宮さんを脅した。島田さんに相談した。島田さんの友人が岩倉を脅した。ここまでは知っているな?」
「ああ。でその後?」
「間宮さんは『お詫びの印に安く絵を紹介された』と思い込んでいるがー」
「んな訳ねーじゃん。なっ」

 青木は力強く頷きながら、
「はい。島田さんが『岩倉はゆーこを逆恨みしているはず。なのにゆーこに擦り寄って甘い思いさせて。怪しい』と推理したんだ。それを聞いてこの事件の筋書きがほぼ見えたんだ。」

「それはつまり… 由子ちゃんを妬んだ岩倉が、由子ちゃんを絵画泥棒に仕立てた、と?」
「流石。その結果、ほぼ岩倉の思い通りに…」
「由子ちゃんは捕まり、マスコミに叩かれ…」

 光子はちょっと不貞腐れながら、
「地の底に落ちたって訳だ。ったくヒロがもっと早くあの野郎をとっ捕まえてりゃ、こんな事にならなかったのによ。この税金泥棒がっ」
「おい光子。一応コイツはお前に感謝しているのだぞ…」

「そう。貴女が居なければ、我々は岩倉に辿り着くのはもっと遅れ、間宮さんは再起不能なほど世間に叩かれていたと思う。昼のニュース、見たか?」
「いや、まだ。ちょっと調べさせてくれ〜」

 俺は慌ててスマホのニュースアプリをタップする。
「……おおおお! 光子! これ、見てみろ!」
「どれさ? って、小さくて読めねえっつーの」
「よし。丁度昼のワイドショーの時間だな。こっちに来いよ」

 刑事部の大型液晶テレビの前には人だかりが出来ていた。岩倉がこの署に連行されるシーンが何度も映されている。記者会見で無実に安堵している由子の映像も… ん? え… それここで言っちゃう?

「…これも全て、私が不良少女だった頃、お世話になった先輩方が私を信じ助けてくれたおかげでございます。あの頃の私はもう手のつけられない不良で〜」

「ありゃりゃ…」

「地元では『赤蠍』なんて呼ばれておりまして。今思うとホント恥ずかしい…やはり、『紅蠍』にすればよかったかしら〜♫」

「いや… ソレも恥ずかしいし…」

「万引きで捕まった事もあるんです。本当に子供でした〜」

「いやいや… 子供、普通に万引きしないし…」

「そんな私でしたが、多くの方々に支えられて今まで幸せに暮らす事が出来ました」

「ふーーん。そっかー」

「そしてこの度も大勢の方々に救っていただきました〜」

「………」

「この場をお借りして、御礼申し上げます」

 フラッシュの嵐の中、三十秒ほど深く頭を下げる由子。

「そして。この度は世間の皆様に大変なご迷惑をお掛け致しました。深くお詫び申し上げます」

 更なるフラッシュから俺は目を逸らし、深く溜め息をつく。
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